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【修復】スキルが万能チート化したので、武器屋でも開こうかと思います 作者:星川銀河

第二章

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第42話 裸の付き合い一歩手前

 それから俺は、シルヴィア達三人と賑やかな夕食を済ませ、従業員の求人についてマリーダと相談してからギルドハウスを後にした。


 途中、春の若葉亭でシルヴィアとサクラとは別れ、ガーネットと二人で夜のメインストリートを歩いていく。


「本当に遠慮なく食べまくってたな、お前」

「そりゃお前、奢りなんだから食わなきゃ損だろ。だいたい、騎士も冒険者も体力勝負なんだから、食えるときに食っとかねぇとな」

「……ああ、確かにその通りだ。冗談抜きで命に関わるね」

「だろ?」


 ガーネットにはそんなつもりはなかったのだろうが、どうしてもかつてのことを思い出さずにはいられない。


 湧き水だけを頼りに、餓えや孤独と戦いながら迷宮をさまよった日々。


 もしも俺の体力がほんの僅かでも弱かったら、きっと脱出を成し遂げることなく息絶えていたことだろう。


「ところで、白狼の。ここって前からこんなに騒がしかったか?」

「いや、前は夜になったら店もほとんど閉まってたな。冒険者が増えて町も活発になってるんだ」


 少し前までのグリーンホロウ・タウンは、日が沈めば町ごと眠りにつくような典型的な田舎町だった。


 例外は大きな宿屋とギルドハウスくらいで、大勢が夜に出歩くようなことはまずなかった。


 それが今は、夜になっても人通りがまるで絶えず、建物の明かりも眩しく周囲を照らし続けている。


「世の中、何がどう影響するのか分からないもんだな」


 グリーンホロウ・タウンにこれほどの冒険者が集まった遠因は、『日時計の森』の更に向こうに、ドラゴンの生息地と魔王の居城が存在すると判明したことにある。


 それが判明した直接のきっかけは、他でもないこの俺だ。


 もしも俺が迷宮から脱出できずに力尽きていたら……あるいは迷宮に置き去りにされなかったら、グリーンホロウは今までと変わらず静かな町であり続けたのだろう。


 どちらがこの町にとって良かったのかは、俺には分からない。


 変化の原因を作ってしまった者として、できる限りこの町に貢献して報いようという思いがあるだけだ。


「だったら風呂屋もまだ開いてるよな。せっかくだし汗くらい流してから帰ろうぜ」

「別に構わないけど……あー、変な意味じゃなくて、あくまで純粋な確認なんだが……お前、どっちに入るつもりなんだ?」


 可能な限り言葉を濁して遠回しに質問を投げかける。


 ガーネットは女人禁制の銀翼騎士団に所属するために、普段から性別を偽って生活している。


 その方針は、騎士の身分を伏せて一介の従業員の振りをしている今も変わっていない。


 となると、やはり問題になるのは『どちらなのか明確にしなければならないシチュエーション』である。


 公衆浴場の利用はその典型例だ。


「なんだ、男湯か女湯かって話か? そんなもん個室を借りるに決まってんだろ」

「個室?」


 何のことだと聞き返すと、ガーネットは愉快そうに笑った。


「庶民に肌を見せたくねぇ特権階級気取りだとか、のんびりするために来た湯治客向けに、そういう部屋を用意してる店もあるんだよ」

「……なるほど。言われてみれば、そんなものもあったような」

「値段はピンキリだが、オレは万が一の口止めも兼ねて高級路線で売ってるところを使ってるな。ていうか、お前の方が長く住んでるくせに忘れてたのか?」

「悪かったな。いつも格安の大浴場で済ませてるんだよ」


 そう言えばガーネットは騎士団長の妹だった。


 騎士団長を輩出するくらいの家柄であれば、その財力は中小レベルの貴族に匹敵する。


 要するに。

 普段のチンピラじみた言動に慣れていると信じられないが、こいつは紛れもなく正真正銘のお嬢様なのだ。


 高級店の個別浴室を常用したところで、経済的にはまるで苦にもならないのだろう。


「んじゃ、飯を奢ってもらったお返しに、今度はオレが代金持ってやるよ。明日からも忙しいんだから、腰とか傷めねぇようにしっかり回復させときな」

「流石にそこまで歳食ってないっての」


 ガーネットの年齢がおよそ俺の半分程度だという現実は、あまり深く考えないことにしよう。


 それはともかく、せっかくの厚意を意味もなく断るのも悪いので、ガーネットが勧めてくれた浴場に足を運んでみることにする。


 場所としては、俺が普段使っている公衆浴場よりも源泉に近い区域。

 建物の造りも比較的しっかりしていて、高級感だけで言えばグリーンホロウ・タウンでも指折りのように思える。


「こんな施設もあったのか。町のことは結構分かった気になってたけど、まだまだ知らないことも多いんだな」

「温泉目当ての来訪者向けで、町の人間はほとんど立ち寄らないらしいぜ。もちろん働いてる奴らは別としてな」


 施設の中に入ると、すぐにガーネットが慣れた様子で店員を呼びつけた。


「いつもの奴を二部屋貸してくれ。角部屋で隣り合ってるところがいい。代金はどっちもオレ持ちだ」

「畏まりました。こちらがお部屋の鍵になります」


 それぞれ一つずつ鍵を受け取って、指定された個室へと移動する。


「へへっ、残念だったな。一緒に入れると思ったか?」

「んなわけあるか。こっちからお断りだ」


 ガーネットの軽口に憎まれ口を返しつつ、割り当てられた個別浴室に足を踏み入れる。


 ……なるほど、こいつは確かに、好んで利用したがる奴がいるのも分かる。


 浴室は隅々まで手入れが行き届いており、広い浴槽は風景を一望できる半露天。


 今は夜なので満天の星空が広がり、日中であれば風光明媚な渓谷を見渡すことができるはずだ。 


 これを実質的に一人で楽しめるわけだから、単なる体の洗浄ではなく休息を求めて訪れたのなら、高めの料金を支払うだけの価値がある。


「そう言えば、グリーンホロウは元々温泉で客を集めてたんだっけか。こういう施設もあって当然だよな」


 さっそく体を綺麗に洗い流し、贅沢な湯船に身を沈める。


 熱い湯に浸かって体を休めていると、隣の部屋からガーネットの声が投げかけられた。


「おーい、白狼の。ちょっといいか?」

「ん、どうした」


 窓際の隅に移動して返事をする。


 どうやらガーネットも向こうの部屋の同じ位置にいるらしく、壁一枚を隔てた状態で会話を切り出してきた。


 開放感のある造りになっているので、こうして距離を縮めれば隣の部屋とも問題なく会話を交わすことができる。


「お前、飯の前に他の冒険者と話し込んでたよな。あいつらってどんな奴なんだ?」

「……それ、話す必要あるか?」

「あるに決まってんだろ?」


 ガーネットは笑い混じりにそう言ったかと思うと、急に真剣味に満ちた騎士らしい声に切り替えた。


「オレはお前の護衛なんだぜ。お前を危険に陥れるかもしれねぇ奴なら、存在と目的を確実に把握しておく義務がある。たとえギルド所属の同業者だろうとな」

「なるほどね……そういう理屈なら話さない方が問題だ」


 どうやらガーネットは、俺とダスティンのやり取りの雰囲気が良くなかったことを、目ざとく把握していたらしい。


 銀翼騎士団やガーネットの足を引っ張るのは、俺の本意ではない。

 きちんと事情を話して、適切な判断をしてもらった方がいい。


「トラヴィスとダスティンのことだよな。さて、何から話したものか。十年以上前からの付き合いになるからな……」


 他の部屋には聞こえずガーネットだけに届く声量で、俺は久しぶりに昔の話をすることにした。

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