「大島衆院議長宛てに書いた手紙で植松は、犯行の理由を「世界経済の活性化、本格的な第三次世界大戦を未然に防ぐ」ためと書いています。そのすぐあとに「私はUFOを見たことがあります」とか。この手紙を読んで僕は、「イカレテイル」以外の語彙を思いつけないけれど、文中には「心神喪失で無罪」などのフレーズもあるから、善悪の判断はついていると判決は結論づける。こうした裁判所の解釈について、郡司さんはどう思いますか」
「自分の思い込んだ妄想を現実と思い込んでしまう。これは軽い発達障害の人によくある状況です。私の上の子や兄もそうです」
「日本国と全人類の為にお力添え頂けないでしょうか、と訴えています。犯行後の拘束は最長で二年でその後は釈放してくれとか、さらにその後の生活のために5億円を支援してほしいとも書いています」
「権力者の持つ力によって自分は救われると思い込んでいる。本気なんです。その意味を裁判官はまったく理解できていない。正義だと思ってやっています。おそらく今も、それは変わっていない。判決を受けるときに、反省するような言葉を述べてから小指を噛み切った理由は、自分では思ってない反省を口にした自分への罰なのかしら、と考えました。罰を受ける能力については、私もすごく疑問です。
死刑の時期が近づいてくると精神的に病んでいく死刑囚が多い。森さんも『A3』で書かれていますね」
「拘禁反応です。日本の死刑囚は確定したら、家族以外は誰にも会えなくなる。会えないだけでなく手紙の交換もできない。死刑囚の多くは家族がいないか、いても疎遠な人が多いから、結局は誰とも言葉を交わさない日々を送る。3畳ほどの個室が世界です。そこでずっと死の恐怖に脅え続ける。ならばそもそも不安定な状態なのに、もっと悪化することは当然です」
「だから彼も今後、さらに妄想の中に入り込んでいくのでは、と思います」
そこまで言ってから、言葉を探すように郡司はしばらく沈黙した。