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【修復】スキルが万能チート化したので、武器屋でも開こうかと思います 作者:星川銀河

第一章

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第36話 仮面の竜人

「資材搬入班はこちらへ! 【修復】基点資材を建設予定区域に指定の順で配置せよ! 補完素材の木材と石材は周辺で構わん!」


 黄金牙騎士団の団員の指示に従って、雇われた冒険者と作業員が拠点【修復】のための資材を運び込んでいく。


 まずは土から。

 あらかじめ本来の地面を浅く掘り返しておき、解体した建物の基礎に使われていた土と石材で埋めてしまう。


 それから移築する建物の残骸を上に置き、ダンジョン内で調達した木材と石材を必要なだけ配置する。


 この辺りの手順は、王宮の建築技師が考えたものだ。


 単純に【修復】するよりも基礎が強固になるという発想らしいが、効果の程を検証できるほどの回数は重ねていないので、個人的には気休め程度だろうと思っている。


「ルークさん。先日もお話しましたが、【修復】の際には地中の土や岩を使わないでいただきたいのです」


技師の一人が、作業の合間に方針を確認してくる。


「ちゃんと覚えてますよ。ここの地下に無数の坑道跡があって、下手に掘り進めると崩れかねないんでしょう」

「ええ。もちろん何もしなければ問題ありませんし、坑道自体も遥か昔に打ち捨てられた無人の廃墟です」


 『魔王城領域』に広がる岩山は、魔族の手で鉱山として開発されている。


 現在は渓谷を挟んだ遙か彼方で鉱業が営まれているが、大昔はこちら側にも活気があったらしい。


 鉱石を取り尽くして移動したのか、はたまた別の事情があったのか。


 どちらにせよ、今はもうここに魔族の姿はない。


 あるのはドラゴンの姿だけで、それすらも結界石が放つ魔力に嫌気を覚え、大部分が地下空間のどこかへ住処を移していった。


「ところで、ルークさんが剣を帯びているのは珍しいですね」

「知り合いが護身用にと貸してくれたんです。剣ではなく刀ですけどね」


 俺は腰に下げた『脇差』に手をやった。

 仕事に向かう前にサクラが渡してくれたものだ。


「なるほど、そうでしたか。しかし黄金牙騎士団が固く守りを固めてくださっていますから、護身用の剣を振るう機会はないと思いますよ」


 そんなことをしているうちに資材の配置が終わり、ようやく俺の出番がやってくる。


「さて、と……」


 腰のポーチから赤い結晶を取り出す。

 サイズはちょうどナイフの柄くらいの大きさで、宝石の原石のように角張っている。


 魔力結晶――読んで字のごとく、大量の魔力を含む結晶体だ。


 これも結界石と同じく錬金術の産物であり、当然のように貧乏冒険者では手が出ない代物である。


 確かこの一個を買うためには、安くても小金貨一枚が必要になるはずだ。


「それじゃあ【修復】スキルを発動させます。皆さん離れてください」


 周囲の人々に呼びかけてから資材の山に手を触れる。


 そして魔力結晶を片手に強く握り込み、全力で【修復】スキルを発動させた。


 残骸と補完素材が【分解】され、魔力の光に包まれたまま溶け合うように混ざり合い、一個の巨大な建造物を形作っていく。


「これでよし……っと」


一つ目の建物の【修復】を終えたところで、握り込んでいた魔力結晶がボロボロになって崩れ落ちてしまった。


「お見事です、ルークさん。お次もお願いします。しかし、何と言いますか……高価な魔力結晶を湯水のように使う光景は、見ていて息が詰まりますね」

「こいつがなかったら、今の建物は数日掛かりの【修復】になってましたよ。金貨で数日分の時間を買ったと考えれば安いものでしょう」

「確かにその通りなんですが、心臓には良くありませんよ」


 まぁ、その気持ちはよく分かる。

 こいつを最初に使ったときは、俺も同じ感想を抱いたものだ。


 庶民の収入一ヶ月分。

 そんな代物が、腰のポーチにまだ二個も三個も入っている。

 持ちきれずに預けてある分は更にその数倍だ。


 まったく、目眩がしそうなシチュエーションである。


「では、ルークさんには武器庫の【修復】を――」


 次の【修復】対象のところへ向かおうとした矢先――


「……? 今、向こうで……」


 ――岩山の麓から、人間大の『何か』が飛んできた。


 それはまるで投石機から撃ち出されたかのような勢いで飛翔し、目にも留まらぬ速さで着弾した。


「うおわっ!?」


 土煙が爆炎のように舞い上がった直後、騎士達が次々に駆けつけて着弾地点を囲み、同時に『次』への警戒態勢を固める。


「見張り兵、何をしていた!」

「魔族の攻撃か!」

「爆発する危険がある、注意しろ!」


 もうもうと立ち込める土煙が揺らぎ、内側から人間に似たモノが姿を現す。


 それは(いびつ)な竜人としか言い表しようのない代物だった。


 ドラゴンの翼と尻尾を持ち、左腕は分厚い鱗と鉤爪を有し、両足からはドラゴンのそれに似た爪が生えている。


 しかし、それら以外はどう見ても人間そのものだった。


 胴体と右腕と脚は堅牢な金属装甲に覆われ、兜の代わりに仮面で顔を防護し、右手には見事な造りの剣が握られている。


「――敵襲ッ! 総員、攻撃開始! まずは魔力防壁を打ち破れ!」


 騎士団の現場司令官の号令を受け、騎士達が僅かな動揺も見せずに攻撃を開始する。


 魔力防壁。言われて見れば、確かに竜人の肉体を魔力の層が覆っている。


 恐らく、あの防壁で着地の衝撃を耐えたのだろう。


「撃てぇ!」


 後方から弓矢と魔法が放たれる。

 一斉掃射で足を止め、魔力防壁を削り、白兵戦で一気に決着を付ける算段だ。


 これに対して、仮面の竜人は一歩も動かず――


「オオオオオオッ!」


 ――翼を振るって起こした暴風で、その全てを吹き飛ばした。


 空へ放たれた突風の下を潜り、騎士達が竜人へ殺到する。


 凄まじい剛剣。残像すら残さない高速剣。息もつかせぬ刺突の嵐。


 騎士達が繰り出すとてつもない連撃を、魔力障壁とドラゴンの鱗、金属の装甲と強靭な剣が受け止め防ぎ切る。


 そして炎を纏った爪と刃が騎士達を弾き飛ばした。


「うおっ!」

「ぐううっ!」


 騎士達が弱いわけでは決してない。

 あの仮面の竜人が異常なのだ。


 パワーもテクニックも明らかに群を抜いている。


 仮にサクラや銀翼騎士団の面々がこの場にいたとして、果たして戦況を変えられたかどうか。


「ルーク殿! こちらに!」


 兵士が俺を安全な場所に誘導しようと、力の限り声を張り上げる。


 その直後、竜人が咆哮を上げて翼を広げ、地面すれすれを一直線に飛翔した。


 まさかあの兵士が! そんな考えが脳裏を過った瞬間、全身の骨が砕けるような衝撃に襲われ、俺は紙切れのように吹き飛ばされていた。


「――――っ!」


 硬い地面を転がり宙に投げ出される。


 更に絶壁寸前の斜面を転がり続け、石や岩に全身を痛めつけられながら、妙にひんやりとした場所でようやく停止した。


 その間、俺はずっと全身に【修復】スキルの魔力を巡らせ続けていた。


 魔力が分散している分、肉体の損壊を【修復】する作用は弱くなり、受けるダメージの方がわずかに上回っている。


 だが何もしなければ、岩石に体中を潰され引き裂かれ、途中で息絶えていたに違いない。


「げふっ……がふっ……! あいつ……間違いなく俺を狙っていた……声を上げた兵士じゃなくて……」


 改めて【修復】を発動させながら、現状把握をするために立ち上がりつつ、先程の出来事の原因を思考する。


 考えることが多すぎて頭が破裂しそうだ。


 ここはどうやら渓谷の底、湧き水が集まった川の(ほとり)のようだ。


 ポーチのベルトがちぎれてどこかに行ってしまったが、脇差と一個だけの魔力結晶がそう遠くないところに転がっている。


 そして俺が狙われた理由は――まるで分からない。


 戦力的には間違いなく驚異ではなかったはずだ。

 注目を集めたことが理由なら、俺よりも先に別の奴が狙われていたはずだ。


 だとしたら――


「――あいつには、俺を……白狼の森のルークを狙いたい動機があった……?」


 仮定の話だが、もしも『要塞を建てているのはルークという人間だ』という情報と、要塞建設を妨害する役目を持って送り込まれた刺客だったなら。


 この仮定が正しければ、名前を呼ばれた直後に襲いかかってきた理由は説明できるが――


 しかし、落ち着いて思考を巡らすことができるのはここまでだった。


 上空から仮面の竜人が一直線に降下してくる影が見えたのだ。


「くそっ! しつこい奴だ……!」


 俺は脇差と魔力結晶を拾い上げ、急いでこの場から駆け出した。

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あくまで本作がメイン、こちらはサブの連載ということで進めていきます。
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表紙を見てのとおり、第5巻は作中最大のターニングポイントである、あのシーンが収録されています。
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