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【修復】スキルが万能チート化したので、武器屋でも開こうかと思います 作者:星川銀河

第一章

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第34話 憧れと思い出は輝かしく

 ――その日の御前会議では多くのことが決定された。


 中でも一番重要だった決定事項は、やはり地下空間の探索と魔王軍との戦闘を想定した前線基地の件だろう。


 基本的には、俺が来た直後に決まった内容と変わっていない。


 建設候補地は『日時計の森』の第五階層と例の地下空間。


 ドラゴンとノワールが通り抜けてきた洞窟の出入り口を、二ヶ所の拠点がそれぞれ取り囲み、封鎖してしまう形が予定されている。


 この基地が完成すれば、こちら側の味方以外の行き来を完全に遮断することができる。


 つまり、敵の攻撃で基地を突破されてしまわない限り、グリーンホロウ・タウンと『日時計の森』の安全がほぼ保証されるわけだ。


 基地の名称はホロウボトム要塞。

 緑の(グリーン)窪地の(ホロウ)底にある(ボトム)砦という、実に分かりやすいネーミングである。


 二ヶ所に分かれた拠点をそれぞれ『森側』『地下側』と呼ぶとも言っていたが、こちらは正式な名称ではないらしい。





 ――もう一つ重要な決定事項がある。


 それはAランクダンジョン『奈落の千年回廊』を無期限閉鎖するというものだ。


 『ドラゴンの抜け穴』が地下空間に通じる隠し通路とするなら、『奈落の千年回廊』はまさしく正面玄関。


 魔王軍が地上侵攻ルートに使う可能性が高いと判断され、原則として立ち入りが禁止されると共に、王宮とギルドによる厳重な監視下に置かれることになった。


 しかしながら、この閉鎖措置で損をする人間はほとんどいない。


 『奈落の千年回廊』は、難関だが得る物が少ないダンジョンとして知られており、未踏破タンジョンの攻略に挑戦したがる物好き以外は滅多に足を踏み入れないのだ。


 入り口周辺はギルドの監視施設を除いてほぼ無人。

 内部にはゴーレムとスケルトンとゴーストがうごめくばかりで、価値のある資源は全くない……ということに、表向きにはなっている。


 改めて言うまでもないが、迷宮の壁にミスリルが用いられていたと判明したことも、あのダンジョンが閉鎖された理由の一つだ。


 現時点で採掘に成功したのは俺だけだが、それはこの世で俺しか採掘できないということを意味しない。


 もしかしたら他のスキルでも可能かもしれないし、錬金術師達が本気で研究をすれば、誰でも使える採掘方法が編み出されるかもしれない。


 ミスリルの流通制限をしたい王宮にしてみれば、隠蔽と閉鎖の二段構えで隠してしまいたくなるのは当然だ。





 ――そして、重要ではないが些細でもない決定もあった。


 地下空間をいつまでも『地下空間』という一般名詞で呼び続けるのは紛らわしいということで、固有の名称が与えられることになったのだ。


 その名は『魔王城領域』――これから先、あの地下空間は正式な場ではそう呼ばれることになる。











 御前会議が終わり、参加していた役人や権力者達が次々に立ち去っていく中で、俺だけが何故かアルフレッド王に呼び止められた。


「白狼の森のルークよ」

「いかがなさいましたか、陛下」

「ああいや、大した用件ではない。ちょっとした雑談という奴だ。久しぶりにその土地の名を聞いたものだから、つい懐かしくなってな」

「はぁ……」


 アルフレッド王は顎に手をやりながら笑っている。


 国王らしい威厳やら何やらを、丸ごとどこかに置いてきたような雰囲気だ。


「……白狼の森。厳密にはその手前の村か? 王位を得るための条件として課された試練に挑む前に、一日だけ宿泊した場所だ。訪れたのは後にも先にもそのときだけだったが、いやぁ、感慨深い」


 王位を得るための試練。


 俺は詳しい内容までは把握していないが、とあるダンジョンを踏破して、指定されたアーティファクトを持ち帰ることだったと伝え聞いている。


「あのとき組んでいたパーティの仲間とも腹を割って話せたし、個人的にはいい思い出しかない場所だな」

「……陛下はどうして王を目指されたのですか?」

「ん? 聞きたいか。別に秘密というわけではないが、軽々しく言いふらすなよ?」


 思わずこぼしてしまった不躾な質問に対し、アルフレッド王はにやりと笑ってみせた。


 そして大きな体を屈めて顔を近付け、内緒話でもするかのように喋り始めた。


「惚れた弱みという奴よ」

「……はい?」


 予想外の発言に、思わず間の抜けた反応を返してしまう。


「実はだな、その王位譲渡は王女を(めと)って婿養子となることで実現されるものだったのだ。しかし王女はたいへん気が強く、そんな形で伴侶が決まるなら自分が勝ち取ってしまおうと考えたそうだ」

「王女が、自分で……?」

「うむ。そうして冒険者になった王女と、最初にパーティを組んだのが俺だった。昔の俺は今以上に鈍感でな。王女の正体はおろか、パーティの一人が王に派遣された監視役だったことにも気が付かなかった」


 アルフレッド王は懐かしい思い出に浸るように、天幕の高い天井を仰いだ。


 今が不幸だから過去を懐かしんでいるわけではない。

 むしろ、輝かしい現在の礎となった過去を思い返している雰囲気だ。


「結局、俺が真実に気付いたのは、王位譲渡の条件が公表され、王女が連れ戻されてしまったときだった。曲がりなりにも惹かれ合った仲でありながらだ。ならば――もはや俺が王となるしかないだろう?」


 たった一人の女性のため。


 この人物はそのためだけに王となり、ウェストランドの大部分を統べるに至ったというのだ。


「白狼の森の村で一夜を過ごしたあの夜は、流石の俺もかなり重圧を感じていてな。村長(むらおさ)の息子に思い出話を聞かせて気を紛らわせたものだ」

「……白狼の森の、村長の……」

「地底海で島に上陸したと思ったら巨大な亀だった話に、空を覆うドラゴンの群れの中を突っ切った話に……後は何だったかな」

「不死者の王から魔法の王冠を奪い取った話もですよ、陛下」

「おお、そうだった! ……む?」


 今から二十年以上前のこと。

 グリーンホロウ・タウンに来てからは、シルヴィアとサクラにしか語ったことがない昔の話。


 俺は子供の頃に村を訪れた冒険者の一行から、輝かしい武勇伝の数々を聞かされて、冒険者という生き方に憧れた。


 まさか、あの日感じた胸の高鳴りをこんな形で思い出すことになるなんて。


「ありがとうございます、陛下。私が冒険者に憧れたことは間違いではなかったと、ようやく確信することができました」


 天幕の外からアルフレッド王を呼ぶ声がする。


 俺はぽかんとした顔のアルフレッド王に深々と一礼をしてから、巨大な天幕を後にした。

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