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【修復】スキルが万能チート化したので、武器屋でも開こうかと思います 作者:星川銀河

第一章

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第17話 厄介事の予感

「どうかしましたか? 武器の発注なら店の方でお願いしますよ」


 差し障りのない言葉を向けながら、俺を取り囲む三人の騎士の様子を観察する。


 三人とも兜のせいで顔が全く見えない。

 とりあえず目につくのは、三人の背丈がそれぞれ大中小とバラバラなことだ。


 一人は俺と同じくらいで一人は俺より頭一つ分大きい。

 残る一人は、逆に俺よりも背が低く、シルヴィアと大差ない背丈だった。


「テメェが白狼の森のルークだな。オレ達は銀翼騎士団のモンだ」


 その小柄な騎士が、騎士らしくない乱暴な口調で切り出した。


 まだまだ少年だったのか、声変わりもろくに終わっていないような声色だった。


 鎧姿を見ずに声だけ聞いていたら、少女に話しかけられたと勘違いしていたかもしれない。


「呼び止められた理由は分かってんだろうな?」

「さぁ? 心当たりは全く」

「とぼけんじゃねぇぞ!」


 掴みかかろうとしてきた小柄な騎士の肩を、普通の背丈の騎士が押し止める。


「待ちなさい、ガーネット。あなたに喋らせていたら、話が致命的にこじれてしまいます」

「うるせーぞ! フェリックス!」

「今回の任務は私に指揮権があります。カーマイン殿に命令違反として報告しましょうか?」

「あ……兄上は関係ねぇだろ」


 部外者の俺にはよく分からないやり取りだったが、どうやら小柄な騎士は矛を収める気になったようだ。


 今度はフェリックスと呼ばれた騎士が進み出て、フルフェイスの兜を外して素顔を晒した。


「銀翼騎士団のフェリックスと申します。あなたに重要なお話がありますので、お時間を頂けないでしょうか」


 やや女顔だが端正な顔立ちの青年だ。

 ガーネットとかいう騎士より何倍も話が通じそうな雰囲気がする。


「一応確認しておきますけど、断ったらどうなるんですかね」

「申し訳ありませんが、これは公務ですので、その場合は少々手荒なことになってしまいます」


 発言の内容は脅しそのものだったが、言い方が本当に申し訳なさそうで、反発する気も起こらなかった。


 むしろ、面倒な仕事も断れない騎士の立場に、同情心すら湧いてしまうくらいだった。


「……分かりました。とりあえず、話の続きは店の方でお願いしますよ。さっきから悪目立ちしてますから」


 町の人達が何事かと遠巻きにこちらを眺めている。


 せっかく町に馴染んできたところなのに、妙な噂が立つのはごめんだった。


「では、そういたしましょう。案内をお願いします」


 俺の店に向かう途中で、春の若葉亭の前を通りかかる。


 そこではちょうど、シルヴィアが店先の掃除をしているところだった。


「ええっ! ルークさん、何かあったんですか!?」


 シルヴィアは驚いた顔で掃除の手を止め、こちらに駆け寄ってきた。


 きっとシルヴィアの目には、俺が騎士に囲まれてどこかに連行されているように映ったのだろう。


「さぁな。用件はこれから聞くところだよ。ろくな用事じゃない気がするけどな」


 俺は小さく肩をすくめてみせた。


 もしも穏健な理由だったなら、ガーネットはあんな風に怒鳴ったりはしなかっただろう。


 事情は全く分からないが、少なくとも彼にとって、俺は責めるに値する人間だということだ。


「……わ、私もついて行きます! いいですよね! お母さんに言ってきます!」

「お、おい別にそんな……」


 シルヴィアは止める間もなく宿屋の中に引っ込んでしまった。


「お母さん! ルークさんのお店に行ってくるね! え? ち、違うって! そういうのじゃなくって!」


 ……また何か、母親から変なことを言われたらしい。


 フェリックスは困ったような愛想笑いを浮かべながら、シルヴィアが戻るのを律儀に待ってくれていた。











 その後、俺は予定通りに騎士達を自宅兼武器屋へ案内して、彼らから詳しい話を聞くことにした。


「あれ? 二人だけですか」


 店に入ってきていたのは、何故かフェリックスと大柄な騎士の二人だけだった。


「ガーネットには外の見張りをさせています。話がこじれてしまいますから」

「お気遣いどうも」


 確かにどう考えてもそのとおりだ。


 何故そんな奴を連れてきたのかと思わなくもないが、あちらにも事情があるのだろう。

 例えば騎士団のお偉方の息子だとか。


 とりあえず、ダイニングテーブルの椅子に座って話をするように勧める。


 代表者らしきフェリックスは俺の前に座ったが、大柄な騎士は着席を固辞して、フェリックスの背後で直立不動の体勢に入った。


 そして最後に、空いていた椅子にシルヴィアがちょこんと着席する。


「フェリックス副長。民間人の同席を許してもよろしいのですか」

「ええ。せっかくですから、彼女にはルーク氏の側の立会人になっていただきましょう。立会人同意書は持ってきていますね?」

「畏まりました」


 大柄な騎士が同じ文面の書類を二枚取り出してテーブルに置き、フェリックスがその内容を説明する。


「我々の話の内容を許可なく口外しないことと、もしもの場合は司法の場で証言をすることへの同意書です。魔力的な強制力はありませんが、違反には法的な処罰が下されることになります」

「大丈夫か、シルヴィア。かなり本気の『お話』みたいだぞ」


 公務というだけあって用意周到だ。

 単なる雑談などではなく、法律的にも隙を見せないように立ち回るつもりらしい。


 書類の文面も完璧かつ公正で、こちらを騙したり嵌めたりするつもりは全くなさそうだ。


 しかしそれと同時に、万が一のときはシルヴィアのような少女でも容赦はしない覚悟を感じさせる。


「分かりました。名前を書けばいいんですね」


 俺の心配を他所に、シルヴィアは真剣な顔でこくりと頷いた。


「ところで、どうして二枚あるんですか?」

「一枚は我々が持ち帰り、もう一枚は貴女にお預けします」


 シルヴィアは手早く署名を済ませ、書類の片方をフェリックスに渡した。


 本当に同意してよかったのかと尋ねようとしたが、その前にシルヴィアの方から先手を打ってきた。


「大丈夫ですよ。私だってもう子供じゃないんですから」

「……お前が構わないならいいけどな」


 シルヴィアくらいの年頃で独り立ちしている奴は珍しくない。

 そもそも、俺が家を飛び出して冒険者になったのも同じような年齢だ。


 さすがに保護者でも何でもないのに、過保護になりすぎてしまったかもしれない。


「白狼の森のルーク殿。まずは簡単な質問からよろしいでしょうか」


 こちらの話がまとまったのを見計らって、フェリックスがようやく本題らしき話題を切り出す。


「ルーク殿は勇者ファルコンのパーティに雇われていたそうですね。パーティメンバーについての印象はどのようなものでしたか?」

「印象……?」

「冒険者を休業するに至った理由は存じています。正直な印象をお聞かせください」


 まさか勇者絡みの用件なんだろうか。

 例えば、あいつらが何かやらかしたので、関係者から事情を聞いて回っているとか。


「……ファルコンは自信過剰なところがありましたね。慢心してミスをやらかしては、その度に恵まれた大量のスキルで解決するというのを繰り返していました」


 こんなことを繰り返してきた結果が、俺を追放するきっかけになった凡ミスだ。


 寝ぼけて結界石を蹴り飛ばすのも論外だが、適当な場所に置いて元に戻したつもりになったのも論外だ。


 それまではスキルのゴリ押しでミスを帳消しにしてきたが、食料の喪失まではどうしようもなかったのである。


 もちろん忠告は何度もしてきたが、素直に聞き入れるような奴ではなかったわけで。


「女剣士のジュリアに対しても良い印象はないですね。勇者を全肯定する腰巾着というか、勇者の『特別』であることを鼻にかけているというか。ああ……勇者の女性関係にだけは厳しかったですよ」


 ファルコンとジュリアは同郷出身の幼馴染で、いわゆる恋人関係にあったらしい。


 しかし英雄色を好むというのか、ファルコンは何かと女を口説きたがり、ジュリアがそれを妨害するというのが日常的だった。


「それで白魔法使いのブランは……置き去りの件で誰を許せないかと言えば、勇者とこいつですね。前々から神経を逆撫でする奴だと思ってましたが、まさか何の躊躇もなく他人を切り捨てるとは」


 勇者ファルコンのミスで食料の大半を失った直後、俺を置き去りにして節約しようと言い出したのはブランだ。


 こいつと勇者だけは本当にどうしようもない奴だと思っている。


 仮に『勇者パーティのうち一人だけを痛い目に遭わせることができる』と言われたら、勇者とブランで心底悩み抜くだろう。


「で、最後の一人なんですがね……どう言ったらいいのか……」

「黒魔法使いのノワール嬢ですね。何か話しにくい事情でも?」

「逆ですよ。大して印象に残っていなくて、話すことが思いつかないんです」


 フェリックスは意外そうな顔をしていたが、これは嘘でも何でもない。


「自己主張がとにかく乏しい奴で、ほとんど妹の……ブランの言いなりみたいなものでしたね。恨み辛み以前の問題で、あいつだけは同じ場所にいた無関係の他人って印象ですよ」


 妹のブランに対する感情とは反対に、姉のノワールに対する感情は至って平坦(フラット)

 プラスの印象もマイナスの印象もまるで残っていない。


 ノワールはそれくらい存在感のない奴だったのだ。


 むしろ、ブランのような身内がいたらそりゃあ性格も歪むだろうな、と同情心すら湧くくらいだった。


 仮に『勇者パーティのうち一人を除いて痛い目に遭わせることができる』と言われたら、即答でノワールを除外するだろう。


 ……双子の姉妹でこんなにも印象が違うなんて。

 平穏を掴んだ今なら笑い話にすらできそうだ。


「そうですか、ありがとうございます」

「ところで、この話に何の意味があるんですか?」


 俺がもっと踏み込んだことを聞き出そうとすると、フェリックスは「ええ、まぁ」と疲れたような顔で前置いてから、予想もしなかったことを口にした。


「勇者ファルコンのパーティが未帰還に終わりました。我ら銀翼騎士団はその原因調査を一任されているのです」

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【並行連載作品】
「異世界【転校】 ~元問題児の天才児は最高のスクールライフを送りたい~」
https://ncode.syosetu.com/n5027gn/
あくまで本作がメイン、こちらはサブの連載ということで進めていきます。
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【お知らせ(2020/09/24)】
コミック版第2巻の発売日は9月29日、書籍版第5巻の発売日は10月10日となっています。
https://www.hakusensha.co.jp/shinkan/?shinkan_year=2020&shinkan_month=09
https://kadokawabooks.jp/product/2020/10/
表紙を見てのとおり、第5巻は作中最大のターニングポイントである、あのシーンが収録されています。
また、それ以外の部分にはかなり大規模な構成変更と書き下ろしがされているので、Web版で連載を追ってくださっている人でも新鮮に楽しんでいただけると思います!

コミカライズ版は白泉社漫画アプリ『マンガPark』で連載中です!
https://manga-park.com/app
https://kadokawabooks.jp/blog/syuuhukusukirugabannou-comicstart.html

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