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【修復】スキルが万能チート化したので、武器屋でも開こうかと思います 作者:星川銀河

第一章

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第12話 武器購入の各種相談受け付けます

 ――武器屋の開店から三日が過ぎた。

 グリーンホロウという新しい土地での生活にも慣れ、接客もだいぶ板についてきた気がする。


 今のところ客入りは上々だ。


 主な客層は、最寄りダンジョンの『日時計の森』で採集依頼をこなしたルーキー達。


 低ランクの依頼で金を貯めて最初の武装を買い揃えたり、もっと強力な武器に買い替えたりと、狙い通りの形で売上に貢献してくれている。


 更に、俺が高レベルの【修復】スキルを使えるという話も広まっていて、武器や道具の有償修理の依頼でも収入があった。


 恐らく、彼らの資金源の一部は俺達がダンジョン第五階層に放置してきたドラゴンの死体だろう。


 酒場の看板娘兼ギルドハウスの受付嬢のマリーダも、冒険者達の羽振りがよくなって売上が伸びたと嬉しそうに話していた。


 そして来客は冒険者だけではなく――


「意外だな」

「何がですか?」


 無意識にこぼした呟きに、様子を見に来ていたシルヴィアが耳ざとく反応した。


「いや、冒険者をターゲットにして開いた店なのに、意外と町の人達も買い物に来るんだなって思ったんだ」

「それはそうですよ。こんな山間(やまあい)だとナイフや鉈は必需品ですし、猟師の人は弓矢の他に槍も使いますからね。山を越えなくても質のいい刃物が買えるって評判になってますよ」

「そういえば、初日は包丁の【修復】依頼がやけに多かったな……」


 確かに、刃物を使うのは冒険者ばかりではない。

 次の仕入れでは、そういう需要も考えて発注を増やしておこう。


「ところで、ずっと不思議だったんですけど、冒険者の人ってあんまり槍を買わないんですね」

「ん? まぁな」

「買ってるところ、町の猟師さんしか見たことがないような気がします」


 シルヴィアの疑問に答えようとしたところで、商品を眺めていた若い冒険者が同じ質問を投げかけてきた。


「すみません。武器って剣と槍のどっちがいいんですか? みんな剣ばっかり買ってるみたいなんですけど……」

「おっと、こっちもか。どういう依頼をメインに受けたいかにもよるけど、冒険者なら基本的に剣がおすすめだぞ」


 質問をしてきた冒険者だけでなく、他の客も聞き耳を立てているようだったので、もっと詳しい説明を付け加える。


「剣と槍が開けた場所で真っ向勝負するなら、そりゃあ槍の方が有利だ。障害物がないならリーチの長い方が強いからな。でも冒険者の仕事場は障害物だらけだろ?」


 その実例を指折り数えあげてみる。


 例えば薬草を収集するとき。

 片手に籠や袋を持って片手で摘むのが効率的だが、槍を持ったままでは困難だ。


 効率よく採集しようと思ったら、一旦どこかに槍を置いておく必要があり、その間は無防備になってしまう。


 例えば崖を登り降りするとき。

 ロープを使うにせよ岩肌を素手で掴むにせよ、槍はとてつもなく邪魔になる。


 背中に槍を縛り付けて降りた冒険者が、待ち構えていた魔狼に対して素早く武器を抜けず、あえなく食い殺された現場を見たことがある。


 例えば洞窟や狭い迷宮を探索するとき。

 長さこそが強さの源である槍は、こうした場所では振り返ることにすら苦労しかねない。


 後ろからの奇襲に対応しようとして、うっかり壁や天井に穂先をぶつけて致命的な隙を生むことすらあるのだ。


「剣だったら鞘に入れて腰から下げておけるけど、槍だとそうはいかないだろ? 冒険者の武器は持ち運びやすさも重要なんだよ」

「な、なるほど……」


 冒険者本人だけでなく、シルヴィアもしきりに頷いて納得している。


 槍は白兵武器としては優れているが、携行性に難がある。

 単純な理屈だが、背丈よりも長い棒を持ち歩くのは大変なのだ。


 町の衛兵なら問題にならない。

 地面はちゃんと舗装されていて歩きやすいし、住み慣れた自分の町だから、狭くなっている場所も迂回路も簡単に把握できる。


 猟師が獲物にトドメを刺すために使うのもいいだろう。

 基本的に、猟師は地形を知り尽くした土地で狩りをする。

 槍を持ったまま動きやすいルートを調べた上で行動できるのだ。


 しかし、冒険者の場合はそうはいかない。


 未知のルートを通らなければならないことも多いし、予想外の場所での戦闘も想定しなければならない。


 なので新人に勧めるなら、携行性に優れてシチュエーションを選ばない剣が一番だ。


「なるほど……だから剣がおすすめなんですね。でも、都会の方だと凄い立派な槍を持ってる人もいましたけど」

「そりゃあ、剣がおすすめなのは『基本的には』だからな。目的やスキル次第で事情が変わってくるさ」


 根本的な話、シチュエーションに応じた武器を使い分けるのが理想ではある。


 もっとも、そんなことが簡単にできるなら、この世のあらゆる冒険者は苦労しないのだが。


「剣と槍を両方持っていく冒険者もいるけど、あれも特殊な事例だ。単純に荷物が増えるからな。やるとしたら上位パーティの戦闘担当くらいだな」

「分かりました、ありがとうございます!」


 駆け出し冒険者はいい笑顔を浮かべ、手頃な長剣を購入していった。


 それと入れ替わるように、別の冒険者が申し訳無さそうな顔でカウンターにやってくる。


「……あのぅ……相談なんですけど、大銀貨一枚で買える剣って、何かありますか……?」


 なるほど、ルーキーにありがちな金欠状態か。

 ドラゴンからの素材剥ぎ取りだって全員がやっているわけではないし、その収入が宿代や食費に消えてしまう奴も多いはずだ。


 この地域(ウェストランド)で主に使われている貨幣は六種類。

 金貨、銀貨、銅貨のそれぞれに大小がある。


 昔は価値がまちまちだったが、近年は小銅貨十枚で大銅貨一枚、大銅貨十枚で小銀貨一枚……という具合に、十枚ごとに一つ上のランクに相当するように定められている。


 おおよその価値は、小金貨一枚で庶民の一家族が一ヶ月は暮らしていける程度で、大銀貨一枚はその十分の一に相当する。


「心配しなくても、普通の鉄剣なら大銀貨一枚で充分だ」

「よかったぁ……それじゃあ、これをお願いします」

「まいどあり。大銀貨一枚で鉄剣一本ってのは、ウェストランドのどこに行っても通用する基準だからな。ぼったくられないように覚えておいて損はないぞ」


 もちろん高価な剣はそれの十倍以上、つまり購入に金貨を要求されることも珍しくない。


 騎士団レベルの装備ともなると、剣も鎧も金貨が大量に消えていくそうだ。


 そして、この店で金貨を要求するほどの商品といえば――


「ルークさん。そういえば、あの『目玉商品』って売れてるんです?」


 鉄剣を購入した冒険者を見送った後で、シルヴィアが何気ない態度でそんなことを尋ねてきた。


「いや、今のところは一本も。すぐに売れるような値段設定にはしてないし、当分はお飾り(インテリア)だな」


 俺達の視線の先には、例の白銀の剣とそれを眺める冒険者達の姿があった。


 鉄とは明らかに違う輝きを放つ数振りの刀剣。

 銀を素材に剣を作ればこうなるのでは? と思わせるような輝きだ。


 価格設定は長剣、小金貨一枚。短剣、大銀貨五枚。


 剣一振りに、経済的な余裕のある庶民が一ヶ月は暮らしていける金額を要求する――貴族や騎士の御用達の高級店みたいな価格設定だ。


 俺が迷宮から持ち帰った例の金属の量は小袋ひとつ分。


 ドラゴンを斬った剣と全く同じモノを造るにはまるで足りなかったので、店頭に並べてある分は含有量を下げたレプリカとなっている。


 あの剣を売るとしたら間違いなく大金貨級。

 そして使った量に応じてレプリカの値段を設定した結果が、長剣一振り小金貨一枚というわけだ。


 もちろん、素材の都合から含有量の低いレプリカであるということは、商品の説明書きに明記済みである。


「(量産できるものならやってるんだけどなぁ……もう一度あそこに潜るなんて気が進まないし、急いで儲ける必要もないからこれで充分か)」


 増産するなら、Eランクダンジョン『日時計の森』の第五階層から隠し階段を降り、Aランクダンジョン『奈落の千年回廊』の迷宮の壁を【分解】しなければならない。


 何が問題かというと、そこに潜む魔物のうちゴースト系は壁や床を通り抜けて襲いかかってくるのだ。


 隠し階段の近くでコソコソ採集していても、運が悪かったら即アウト。


 遭遇に気づいた瞬間には、魂を直接狙った即死攻撃が直撃して死体に変えられてしまうだろう。


 出現数が割と少ないレア魔獣とはいえ、迷宮をさまよっていた間にゴーストと遭遇しなかったのは、ただただ運が良かっただけなのだ。


「(もう一度潜るにしても、グリーンホロウの冒険者はルーキーしかいないから、採集や護衛を依頼するわけにもいかないしな。死体の数が増えるだけだぞ)」


 ちなみに、例の隠し階段のことは既にギルドに報告してあるが、安全性に対する警告らしきものは届いていない。


 迷宮の魔獣が地上に出てきたわけではないので経過を観察している……といったところだろうか。


 ゴブリンやらコボルトやらと違い、ゴーストやスケルトンはダンジョンの中から出てこないタイプとして有名だ。


 あいつらはダンジョン内に掛けられた魔法で存在を維持しているので、外に出ることができないのだというのが主流な説である。


「(まぁ、ギルドがどうこう言わないってことは、この町は当面安全ってことなんだろうが……気になるのはドラゴンがどこから来たのかだな)」


 そんなことを考えていると、店の扉が勢いよく開け放たれた。


 驚いてそちらの方に顔を向ける。


 来客は二人組。一人は分厚いマントを羽織った屈強な男。

 もう一人は飄々(ひょうひょう)とした雰囲気の金髪の色男だった。


「失礼。貴公が店主か」

「どうもどうも! ドラゴンを殺した剣を売ってるのは、この店で合ってるかな?」

○余談(読み飛ばしてもいいです)

現実の中世での剣の価格はどんなものだろうと調べてみましたが、見事なまでにまちまちでした。

農民が持っていた安物の剣がだいたい2~3万円くらいかと思いきや、別の資料では100万円越え相当の剣もあったり……。


本作では普及品の剣を「大銀貨1枚=一般人の月給の1/10」とし、高品質な剣を「小金貨1枚=一般人の月給相当」としています。

色んな分野でスキルが活用されている世界なので、現実の中世より工業製品が安くなっているイメージですね。


もちろん、貴族とかが買う剣の価格は天井知らずです。

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【並行連載作品】
「異世界【転校】 ~元問題児の天才児は最高のスクールライフを送りたい~」
https://ncode.syosetu.com/n5027gn/
あくまで本作がメイン、こちらはサブの連載ということで進めていきます。
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【お知らせ(2020/09/24)】
コミック版第2巻の発売日は9月29日、書籍版第5巻の発売日は10月10日となっています。
https://www.hakusensha.co.jp/shinkan/?shinkan_year=2020&shinkan_month=09
https://kadokawabooks.jp/product/2020/10/
表紙を見てのとおり、第5巻は作中最大のターニングポイントである、あのシーンが収録されています。
また、それ以外の部分にはかなり大規模な構成変更と書き下ろしがされているので、Web版で連載を追ってくださっている人でも新鮮に楽しんでいただけると思います!

コミカライズ版は白泉社漫画アプリ『マンガPark』で連載中です!
https://manga-park.com/app
https://kadokawabooks.jp/blog/syuuhukusukirugabannou-comicstart.html

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