将軍になれば、人を救える。貧しい人々を救える――。
そんな願いを持つ義昭を擁して、上洛を果たしたい。それが光秀の目標です。
そしてついに朝倉義景も決意します。
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小籔二条の嫌味がお見事
一方、京では三好一族の支配が続いていました。
四国阿波の足利義栄が、急遽第14代将軍に就任。
ところが、この義栄は重い病を抱えていたため、摂津国にとどまり、上洛できずにいたのでした。
近衛前久が参内すると、公卿たちが何やら密談をしております。
そこにいるのは、二条晴良。
小藪千豊さんにこういう嫌味な公家をやらせると決めた方は、あっぱれとしか言いようがない。
名もなき公卿の方々もお見事です。おもしろき噂話に花が咲いておりました。
関白様のお耳に入れた方がよろしうございますな。そう言いつつ、晴良は扇を使うわけですが、この所作が絶品です。
本作は小道具の使い方もうまいのです。スタッフロールを見ても、日本の伝統的な所作を伝える心意気を感じます。扇を動かす動作そのものが綺麗です。
なんでも、関白が推した足利義栄が京都に登って来られないとのこと。前久が初耳じゃと理由を聞くと、病の為とも言うけれど、三好一族の操り人形になることにためらいができたと、晴良は煽ってきます。
真偽不明だろうと、相手の精神に一撃を加えればよいわけでして。見事な嫌味ですなぁ!
朝廷内のドロドロが垣間見え
涼しい顔で聞き流そうとする前久を、晴良は煽る、煽る。礼金の金額が足りず、粗悪な銭をかき集めているとか。
当時は銭が不足していて、ゆえに輸入もせねばならない。最高級の通貨といえば、明からの永楽通宝が代表格。それからはほど遠い、銭を使っている。この時点で笑い物なのです。
そのうえ、当人が京都に来られない。話にならぬと。
「この不始末を招いた関白様は、どうお思いでございますかな?」
「困りましたな」
晴良は、困ったのならば関白の座にとどまって良いのか、一同はそう申していると煽りまくる。
前久は、ニタァと笑うものの、粗悪な銭をくやしそうにギリギリと握りしめているのでした。
NHKは2020年代らしい新公卿像を見せてきました。誰もが歴史(日本史)の授業で習うし、わかっているようで、わかりにくい。そういう朝廷のお話です。
天皇を頂点に抱いて、それは日本の国体であり、神聖なもの……ならばよいのですが、こういう場面を見せられて、すんなりとそう説明できませんよね。
これにはちょっと既視感があります。
地球儀を回すと、ヨーロッパは教皇権力が曲がり角にありました。
公卿は黒、枢機卿は赤い服を着て、神聖なようで金勘定だの俗っぽいお話をしている。
神聖といったところで、そこは人間であるわけで、生々しい本音は洋の東西を問わずにあるんですね。
ご興味をお持ちの方は、ボルジア家もののフィクションでもどうぞ。
伊呂波太夫は京の輝きを取り戻したい
うかぬ顔の前久は、京都の街を輿で移動中。
「止めよ」
そこにいたのは、伊呂波太夫でした。
輿を止め、御所の塀を気遣う伊呂波太夫に話しかける前久。
伊呂波太夫の気持ちが、ここでちょっとわかります。帝の御所をお守りする塀が崩れていては、ご威光が揺らぐ。そう案じているのです。
前久は、塀を直すゆとりなどありませぬとそっけない。
何しろ、金がない。将軍の持参金が話題になるのも、結局のところそういうことです。
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戦国関白・近衛前久は信長や謙信とマブダチ! 本能寺後に詠んだ南無阿弥陀仏
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伊呂波太夫は、お金なら私が集めてみせると言い切ります。
彼女はなかなか器が大きい。彼女自身が誰かの寵愛を浴びて、楽な暮らしをしたいわけでもない。ただただ、自分が育った京のかがやきを取り戻すべく、なかなかがめつい人生を生きていると。
そんな伊呂波太夫に「はいはい」と言いつつ、困ったと前久はこぼします。実に困ったそうです。
朝廷内で、足利義栄の評判が悪すぎる。
関白が困ることではないと言われたところで、推挙したのは前久。前久は決定したのは自分ですので、伊呂波太夫が唆したとは言いません。そういうところはよい。
しかも、覚慶が元服するという。一条院にいたあのお方の背後には、二条晴良がいると前久は悔しそうにいいます。
二条家は関白の位を近衛家が独占していることが気に入らない。だから、将軍選びで鼻を明かしたい。
扇を握りつつ、そう明かす前久。
覚慶の元服をするから越前に行けと、帝からご下命があったとこぼします。そこで名代として伊呂波太夫を派遣したいそうです。
伊呂波太夫は目を不敵に光らせ、路銀はいかほどかと聞いてきます。
金を取るのかと渋い顔をする前久。姉みたいなものでも、そこは明朗会計。なんでも前久が生まれる以前に、近衛家とは縁を切ったそうです。それでも弟のように可愛がったのに、と不満そうな前久ですが、逆らえません。
伊呂波太夫は、京都を美しくし、塀をなおすためにも金を稼ぐと言い切ります。そう言われて、前久は逆らえないのでした。
これが2020年代の大河ドラマよ
それにしても、毎週脚本が素晴らしいこのドラマ。
池端さんが室内劇を描くと、語彙力とセリフの長さがぐっと、これまた厚みを増す。
台本を渡された側が、どうやって読むのかずっと考えて、覚えて、演じる。大変だろうとは思う。
でも、そういう難しいボールを投げられることは、栄誉でもあることでしょう。信頼し合う現場の力を感じます。
「三淵の奸計(かんけい)」というタイトルからして、よいではありませんか。
策略とか、そういうわかりやすさではなく、「奸計」ですもの。今年の大河は、リミッターを外してきた気がします。
「もっと簡単にしないと、視聴者はついてこられませんよ」
「ほっこりするような場面が欲しいですね」
そういう甘やかしがない、スパルタです。
公式サイトで丁寧に解説しつつ、難易度はぐっと上げる。前川良一さんの担当回でも『軍師官兵衛』とは難易度が違う。
鍛えてくるという力強い宣言を感じるし、これが2020年代のドラマでもあります。
どの家庭でもスマホやタブレットがあるわけではないとはいえ、世界的にそういう視聴方法を模索する時期に来ているわけです。
掲示板に書き込んで、SNSでつぶやいて、スマホをぽちぽちしながら見るのならば、難易度はむしろ落とすべきだという考えが、2000年代から2010年代にはあったかもしれない。
けれども、配信時代は難易度をあげて、ファンの考察を盛り上げた方がよろしい。そういう時代になってきました。
リミッターをはずせて、作る側も嬉しいことだと思います。大変だけど、挑戦のしがいがあると。
上洛に協力できる大名はどれだけいる?
かくして足利義昭は、一乗谷に招かれ、永禄11年(1568年)4月、元服を果たすのでした。
烏帽子親を務めるのは義景。
二条晴良も見守っております。
将軍となり、三好勢へ巻き返しを図る準備は整いました。
「あなめでたや〜」
そう祝いの声が響く。こういう儀式を再現することにも意味があります。勉強になります。
明智家では、光秀と左馬助が話し合っています。
このころの戦国大名はどうなっているか?
大きなところで、上洛できるのは朝倉と織田のみ。それで京の三好勢と戦えるのかどうか?
元服を果たした三淵藤英と細川藤孝兄弟は、やれると言っている。朝廷もそのつもりだからこそ、二条様をよこしたと。
この会話そのものが、おそろしいものがありますね。
そんなに朝廷は綺麗な人々ではない。
どうしたって、後世の人間はバイアスをかけてしまう。上杉家の義と愛とか。朝廷の輝かしさとか。でも、当時の人は生々しく、冷静に考えるとしょうもない足の引っ張り合いをしていると。
こういうゲスな、美化していない日本史こそ、見たかったんですよね!
どいつもこいつも……戦だの勢力争いで、人が死ぬ。そういう現実はあるわけです。
それでも争う、権力をめぐり足を引っ張りあう。つくづく汚い。それも歴史だし、学ぶ意義だと思います。
そして、それこそがトレンドだとも感じます。
『十三人の刺客』にも、『鎌倉殿の十三人』にも期待だ!
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