米大統領選の投票日まで、あと1カ月を切った。米国だけでなく、世界にとって岐路となる重要な選択が近づいている。
だが、その重みとは裏腹に、論戦は極めて低調なままだ。トランプ大統領がコロナに感染して容体が心配されるなど、選挙自体が波乱含みになっている。憂慮すべき事態である。
先週あった最初の討論会は、いまの米国が抱える病の深さを浮き彫りにした。それは、発言妨害や中傷といった問題にとどまらず、民主政治の基本ルールが危機に瀕(ひん)しているからだ。
まず深刻なのは、現職であるトランプ氏が平然とあおる社会の分断である。
自分への批判を「過激左翼」と突き放し、コロナ禍などの責任をめぐる論争を党派対立にすり替える。さらには白人の優越を唱える集団に対し、明確な非難を避け、逆に「待機しろ」と呼びかけた。
対照的にバイデン氏は「私は民主党員のためだけの大統領にはならない」と約束したが、本来、それは当たり前のことだ。国民統合の責務を忘れ、特定の支持基盤に偏る政治の先に、社会の安定はない。
トランプ氏はさらに、選挙プロセス自体にも抵抗する構えを示唆している。自らが敗北した場合は「投票詐欺」の可能性があると根拠を示さず主張し、結果の受け入れを明言しない。
こうした米国政治の劣化ぶりは、世界にマイナスの影響を及ぼす。中国やロシアのような強権政治が目立つなか、自由と民主主義を重んじる国々が秩序を守るうえで、米国の混迷は重い足かせになるだろう。
世界の喫緊の目標はコロナ禍の収束だが、その点でもトランプ流の政治は大きな障害だ。地球温暖化を含め、科学の知見を軽んじ、目先の政治利益を追うようでは、米国は国際的な信頼を取り戻せまい。
中国からは「米国政治システムの優位が失われている」との論評が出ている。その他でも、多くの国が米国の指導力を危ぶんでいる。この大統領選はまさに、米国が主導してきた国際秩序の行方を占う分水嶺(ぶんすいれい)とみるべきだ。
トランプ氏の容体は予断を許さないが、少なくとも当面、副大統領候補も含めた共和、民主の両陣営が、より鮮明な政策方針を示す必要がある。
とりわけ外交分野において議論が不足している。米国は、日韓を含む同盟国とどんな目標を共有するのか。新たなアジア太平洋政策をどう描くのか。環太平洋経済連携協定(TPP)に背を向け続けるのか。
残る4週間、米国政治の復元力を発揮してほしい。
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