第二次安倍晋三政権が終わり、菅義偉政権が始まりました

第4次安倍第2次改造内閣発足から一年近く内閣府特命担当大臣(沖縄及び北方対策、消費者及び食品安全、少子化対策、海洋政策)をつとめた衛藤晟一さんは、留任することなく大臣を辞めました。以降は自民党の党紀委員長として活動することになるそうです

衛藤晟一さんと言えば、安倍晋三さんの側近中の側近として、そしてなにより日本会議の実働部隊である日本青年協議会の初代委員長だったことでも有名ですね


もはや衛藤晟一さんの話題は旬を過ぎた感もあるのですが、いつか書こういつか書こうと思いながらも、めんどくさくて書かなかったネタがあるので、今日はそのお蔵出しをします


谷口雅春先生を学ぶ会


衛藤晟一さんが委員長をしていた日本青年協議会が、【谷口雅春原理主義】とでもいうべき性格を備えていることは有名ですね

ようは、非政治化・穏健化した「生長の家」を嫌い、教団を飛び出した過激派です。そういった原理主義者たちは、自分たちの活動を「生長の家本流運動」と呼んでいます

「生長の家本流運動」をしている団体はいくつかあるのですが、なかでも有名なのが「生長の家創始者谷口雅春先生を学ぶ会」です

「生長の家創始者谷口雅春先生を学ぶ会」ホームページ

"尊師谷口雅春先生の御教えを忠実に学び継承し、広く普及伝達します。 立教の原点に立って光明化運動を推進展開し、 「本流の復活・天皇国日本の実相顕現」を目指します"

……一目見ただけで「あっ、やべぇ」となる団体ですね。天皇国日本ってナンダヨソレー

もうちょっと詳しく理念を見ていくと、

"1.私たちは住吉大神を神とする信仰に起つ!
2.聖典『生命の實相』こそ吾らの神殿である!
3.私たちは〝谷口雅春先生信仰〟に生きる!
4.「人類光明化・日本国実相顕現運動」の聖なる使命に生きる!"

あー、テンションたけー……

「生長の家創始者谷口雅春先生を学ぶ会」では『谷口雅春先生を学ぶ』なる機関誌を発行してまして、その創刊号の出た2002年9月27日が団体としての設立日でもあります

『谷口雅春先生を学ぶ』の「創刊の辞」は、「生長の家本流運動」の性格を端的に表しているので、少し長くなりますが全文引用させてもらいましょう。なお、文中で副総裁とされている谷口雅宣さんは、2009年3月に総裁に就任しています

"今、生長の家の創始者である谷口雅春先生のみ教えは廃れつつあると思わざるを得ません。次の世代においては消え去ってしまうのではないかとの危機感さえ持ちます。それは、信徒の数が減少しつつあることを言うのではありません。たとえば、谷口雅春先生のご著書の一部が絶版の状態にあることや、谷口雅春先生のみ教えをそのまま伝えようとしている幹部が次々と辞めさせられたり、左遷されたりしている事態のことを言うのです。
「生長の家は原理主義ではない。いまや時代は変わった。多様性を持ち、時代に合わせて進歩していって当然である。法燈を受け継いだからには、私の説くことがいまの生長の家の教えである。」と谷口雅宣副総裁が主張されていることは、皆さんご承知のことと存じます。しかし、副総裁の説く「真理」たるや、信仰とは何の関係もない雑論がその大半を占め、ときには谷口雅春先生のみ教えを否定することさえ言われております。
 谷口雅春先生の謦咳に親しく接してきた信徒にとっては耐えられない思いです。もうこれ以上黙視してみ教えが滅びるのを待つことはできません。我々には谷口雅春先生のみ教えの真髄がどこにあったのかを正しく追究してそれを世に問い、次の世代に残していく責務があります。
 我々は立ち上がります。谷口雅春先生のご著書をひもとき、史実によってその偉大なご業績を追い、もろもろの資料を質し、あわせて身近にかつ永年谷口雅春先生のご薫陶をお受けになった先達方のお話を拝聴し、み教えの真髄を究明し、編集し、記録に残すとともに、これを大方の批判に供することを決意しました。
 とりあえずは、その研究結果を定期的に発表する『月刊 谷口雅春先生を学ぶ』を創刊いたしました。ぜひお目通しを願いご意見をいただくとともに、ご賛同者のご支援を賜りたいと存じます"

ちなみに、もともとの団体名は「谷口雅春先生を学ぶ会」でしたが、宗教法人の取得を目指す関係で2016年に現在の名称に変わりました(なお、2020年3月2日に宗教法人を取得しています)

今日は、改名前の2013年4月29日に明治神宮参集殿で開かれた「第1回谷口雅春先生を学ぶ会全国大会」に衛藤晟一さんが出席し、講演したことについての話をしましょう


「第1回谷口雅春先生を学ぶ会全国大会」の衛藤晟一



衛藤晟一さんの登場は1:25:15~ですね。己の人生を振り返り今後の決意を語る、実に政治家らしいスピーチですが、これがなかなか面白い

というわけで、今日はこちらの内容を見ていきます


1:25:15~


"私も中学生くらいのときに父に連れられ当時の(「生長の家」の)青年会の役員をされたセンドウ先生やキヅ先生の講演をよく……ときどきですね、連れられて行っていました"

なんと衛藤晟一さん、中学生のときから「生長の家」にドップリなんですねスジガネイリダー

キヅ先生というのはよくわからなかったですが、センドウ先生のほうは、おそらく元「生長の家ハワイ教化総長」で、「谷口雅春先生を学ぶ会」設立にも尽力したという仙頭泰さんのことでしょう

あの森友学園塚本幼稚園で「第一回『我が師谷口雅春を語る』」なる講演をした人物としても有名(?)ですね


1:26:04~


"高校のときに『生命の實相』40巻読ませて頂きまして。あまり成績は良くなかったんですけど、国語の成績だけはグンと良くなりました"

な、なんと『生命の實相』にそんな効用が……! 受験生は是非(アカン)


1:27:25~


そして衛藤晟一さんの話は大学時代へと移ります。時は70年安保の直前で、60年安保ほどではないにしても、政治の風が吹き荒れていた時代です

"私ども学園の正常化に、九州の当時やられていました椛島さんや安東さんや、あるいはコバヤカワさんや、あるいは亡くなられましたヤマシタギスケさん、皆さんの生学連の仲間の内で、一緒にやらせて頂くようになりました"

生長の家学生会全国総連合(生学連)」による反左翼学生運動(学園正常化運動)が、現在の日本会議及び日本青年協議会の原型となったのは、今ではよく知られた話です

学園正常化運動の中心人物となったのが、椛島有三さんであり、安東巌さんでした

椛島有三さんは日本会議の事務総長であり、日本青年協議会及びその包括団体である日本協議会のリーダーでもあります。ようするに日本会議のコア中のコアですね

安東巌さんは、椛島有三さんの兄貴分です。菅野完『日本会議の研究』で、日本会議の「黒幕」扱いされていた方ですね

この二人が長崎大学で出会い、共鳴することによって長崎大学の「正常化」が成し遂げられ、それに呼応したウヨ学生らによって九州全体に「正常化」が波及し、やがては全国区の運動となっていくのです。衛藤晟一さんも大分大学の生学連として運動に参加しました


1:28:49~


"昭和48年に大分の市議会で、生政連の推薦で……一応、正式に一応、あと岐阜――ゴニョゴョ――生政連としては正式に、生政連の第一号として、25のときに大分の市議会に出させて頂きました。本当に有り難うございました。ずっとやっていましたら、県会議員に、54年31のときになったんですけど、58年くらいにいつの間にか生政連がなくなりまして"

1964年、「生長の家」は優生保護法改正を目指し「生長の家政治連合(生政連)」を結成します
(優生保護法と生政連の関係は『グローカル天理』の「「優生保護法」改定阻止運動 ② 」が面白いです

1965年の参院選では玉置和郎さんを全面支援し、当選させる活躍を見せました。玉置和郎さんの所属政党は、もちろん自民党です

そして1973年に衛藤晟一さんは生政連所属として大分市議になり、1979年に大分県議となります

その後、ウヨウヨ県議として名を上げた衛藤晟一さんでしたが、そのころから「生長の家」と自民党の間に亀裂が入ります

玉置和郎さんの金銭スキャンダル、自民党の参院選比例代表名簿に生政連候補が下位に置かれたことなどから、「生長の家」は自民党に失望。1983年に生政連を解散し、その翌年の1984年には政治からの撤退を表明します

追い討ちをかけるように、1985年には谷口雅春さんが死亡。1990年に副総裁に就任した谷口雅宣さんは、雅春さんの高弟たちを「原理主義者」として排除しました

流浪の民となった「谷口雅春原理主義者」たちは、自分たちこそが「本流」だと主張し、運動を展開し始めます

一方、衛藤晟一さんはというと、1986年の衆議院選で国政に挑戦するも落選。安倍晋太郎さん全面支援のもとで大量に自民党新人議員が生まれた1990年に、その他大勢の一人として衆議院議員となります


1:31:21~


"初めて平成2年に当選させて頂いたときに、この年の秋に大嘗祭がありました。この時に我々の同志である百地章教授が古式豊かに、この大嘗祭のすべての行事ができるということを、ちゃんと国のほうに説明して、国もその理論を採用して……"

でたよ、モモチー

2015年の安保法制のときに「集団的自衛権を合憲とする憲法学者」として一躍一般人にも名前が知られることとなった大先生ですね。あの一流全国紙(笑)産経新聞にもたびたび登場しておられるこのお方、

衛藤晟一さんが「我々の同志」と言うように、彼もまた「生長の家」の学生運動出身の方です

百地章さんは「谷口雅春先生を学ぶ会」とも関係が深く、機関誌の『月刊 谷口雅春先生を学ぶ』の編集人でもありました


1:34:00~


"私どもは、それまで憲法改正の運動やあるいは教育を正常化する運動を、中川昭一さんや私の一期あとに衆議院に出ました安倍晋三さんと一緒にずーっとやってましたので、平成21年に自民党が政権を失ったときに一緒に「創生日本」という会を、中川さんが亡くなったあとすぐ安倍さんに会長になってもらって、頑張ってき、そしてやっと、安倍さんを総裁に出し、そして総理大臣に皆ですることができました"

衛藤晟一さんが、故・中川昭一さんや安倍晋三さんと「一緒にずーっとやって」きた活動の拠点となったのが、「日本の前途と歴史教育を考える若手議員の会(教科書議連)」です

代表:中川昭一、幹事長:衛藤晟一、事務局長:安倍晋三、といったポジションでした。ちなみに安倍晋三さんの後を継いで首相となった菅義偉さんも委員の一人です

他にも幹事長代行に高市早苗、副幹事長に古屋圭司、事務局次長に下村博文山本一太、委員に今村雅弘小此木八郎桜田義孝平沢勝栄といった方々が名を連ねていました

1997年2月、教科書議連は"中学校歴史教科書に従軍慰安婦の記述が載ることに疑問をもつ戦後世代を中心とした若手議員"(引用は『歴史教科書への疑問』)たちによってつくられたわけですが……

それと前後して「新しい歴史教科書をつくる会」や「日本会議」も結成されています

当然のことながら「教科書議連」はこの2団体と連携した動きをしていくこととなります

この団体で忘れてはならないのは、2001年1月の「NHK番組改変問題」ですね。これは「慰安婦」問題について開かれた女性国際戦犯法廷を扱った番組が、「教科書議連」の圧力によって内容を改変されてしまった事件です

「教科書議連」の出版した『歴史教科書への疑問』は「黄色い本」として恐れられたそうで……

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そんなやりたい放題な「教科書議連」でしたが、「つくる会」教科書採択の低調・分裂、第一次安倍政権の失敗(ただし教育基本法の改悪には成功)を経て、次第に権勢を衰えさせていきます

この時期は自民党自体が衰退を見せており、2009年8月の衆議院選では政権交代がおこりました。同年10月には中川昭一さんが死亡

2010年2月に中川昭一さんのつくった政策勉強会「真・保守政策研究会」を継承する形で、安倍晋三さんと衛藤晟一さんは「創生『日本』」を立ち上げます

創生『日本』メンバー一覧

メンバー一覧を見ていただければわかるかと思いますが、創生『日本』は一丸となり民主党から政権を奪回し、第二次安倍政権を支えてきました(もちろん現在の首相・官房長官コンビである菅義偉さん・加藤勝信さんもメンバーです)

創生『日本』については、有名な動画があるので貼り付けておきましょう


この動画で特に有名なのが、0:25~の長勢甚遠さんの発言です

"国民主権、基本的人権、平和主義(中略)この3つを無くさなければですね、ほんとの自主憲法にはならないんですよ"

会場からは万雷の拍手が送られます。これが第二次安倍政権を支えた創生『日本』の真の姿です
(なお、上記の元ネタは、創生『日本』が2012年5月に行った「第3回東京研修会」です。↓の動画の18:54~が長勢甚遠さん発言です


1:37:35~



"谷口先生から……雅春先生から、「革命を叫ぶ声、国に漲り、若人いつ立たずしていつ立つべきか、いま立たずしていつ立つべきか」といったお言葉の中で、40数年同志の皆さんと活動を続けてまいりました。なにがなんでもこの目標を実現していきたい。なんとかそれを実現し、日本の実相を顕現できるように、日本を本当に再建できるように、天皇国日本を再興できるように頑張らさせて頂きたい"

きたっ。きましたわ。天皇国日本の再興ですわ

ここでもう一度、谷口雅春原理主義者集団である「生長の家創始者谷口雅春先生を学ぶ会」の理念を思い出してみましょう

"私たちは〝谷口雅春先生信仰〟に生きる!"
"「日本国実相顕現運動」の聖なる使命に生きる!"

そして、それによって"「天皇国日本の実相顕現」を目指します"というのが、「生長の家創始者谷口雅春先生を学ぶ会」の理念だったわけです

衛藤晟一さんの言っていることは、まるっきりこのまんまなんですね

いくら「谷口雅春先生を学ぶ会」での講演とはいえ、ここまでストレートな信仰告白はドン引きです

結局のところ、衛藤晟一さんにとって政治とは、彼の信仰を表明する一手段にすぎないのかもしれませんね


おわりに


実を言うと、僕は、第二次安倍政権が終わりを迎えたとき、衛藤晟一さんが政治家を引退すると思っていました(もうずいぶん高齢でもありますし)

しかし、全然辞める気配がないですねぇ

これは第三次安倍政権を狙っているのか、はたまた菅政権でも「天皇国日本の実相顕現」が成し遂げられると思っているのか……