これもまた、安倍前政権の「負の遺産」ではないか。首相主導で導入を決めながら、断念に追い込まれた陸上配備型迎撃ミサイルシステム「イージス・アショア」のことである。
菅政権に引き継がれた代替策の検討は、収斂(しゅうれん)するどころか、迷走の兆しをみせている。先月末に締め切られた来年度予算の概算要求では、金額を未定として項目だけを示す「事項要求」にとどめた。
東西それぞれ「唯一の適地」とした秋田、山口への配備を断念した以上、陸上に置くのは難しい。米国と1787億円分の契約を終え、ほごにもしにくいと考えたのだろう。
そこで政府がひねり出したのが、レーダーなど陸上イージス用の装備を洋上に置く案だ。防衛省は先月、(1)商船型(2)護衛艦型(3)移動式の海洋掘削装置型に搭載するイメージを提示。ミサイル防衛に特化した専用艦の新造案も検討しているという。
しかし、洋上への転用に技術的な課題はないのか、空や海からの攻撃にどう対処するのか、多くの疑問が浮かぶ。海上自衛隊の負担軽減という狙いにも反することから、検討が行き詰まり、陸上案に戻る可能性すらささやかれている。
やはり、契約した装備をそのまま活用しようとする前提に無理がある。多額の違約金を避けるというが、米国への配慮が働いていないか。結論ありきで迷走した陸上イージスの轍(てつ)を踏んではならない。
日本のミサイル防衛は、イージス艦が発射する迎撃ミサイルと、地対空誘導弾「PAC3」による二段構えの体制がある。中国や北朝鮮のミサイル技術の進展をにらみ、さらに強化が必要というなら、あらゆる選択肢を俎上(そじょう)に載せ、ゼロベースで費用対効果を吟味すべきだ。
防衛費の概算要求は、今年度当初予算比3・3%増の5兆4898億円で過去最大。陸上イージスの代替策が加われば、さらに増える可能性がある。宇宙・サイバー・電磁波といった新たな分野への対応も求められており、将来の予算を圧迫していくことは想像に難くない。
コロナ対策がふくれあがり、財政事情は一段と厳しさを増している。政策全般にわたって優先順位を見極めねばならず、防衛費も聖域ではない。
概算要求には、長距離巡航ミサイルやヘリ搭載護衛艦の空母への改修など、敵基地攻撃にも使える兵器の予算が含まれる。すでに関連経費が計上されてきたが、政府が敵基地攻撃能力保有の検討を本格化させた以上、これまで通り進めることには異議がある。国会での徹底した議論と、再考を求める。
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