ジョンソン英首相、「今が新型ウイルス対策の正念場」 冬に向け防護具など確保
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ボリス・ジョンソン首相
イギリスのボリス・ジョンソン首相は9月30日、新型コロナウイルスの感染拡大を受けて記者会見を開き、先に発表した新たな対策が「浸透するには時間がかかる」と述べた。
首相官邸での会見でジョンソン首相は、イギリスは「正念場」にあると述べ、新規感染者と死者が増加していることから、「我々の計画がとても重要だ」と強調した。
また、必要があれば対策をさらに強化することも「ためらわない」と話した。
会見に同席したパトリック・ヴァランス首席科学顧問も、「現在、我々は(新型ウイルスを)制御できていない」と警告。「慢心は許されない」と述べた。
政府の最新統計によると、この日の新規感染報告は7108件、死者は71人に上った。
7日間平均で見ると30日の新規感染者は6220人と、流行第1波があった3月末から4月にかけてよりも増えている。
イギリスの1日当たりの感染報告件数の推移(7日間平均)。点線の時期を境に検査が強化された
ジョンソン首相は22日、新たな新型ウイルス対策を発表。イングランドで飲食店の閉店時間を午後10時に早めたほか、結婚式やシビル・パートナーシップの宣誓に立ち会える人数を、6人以下のグループで最大15人までに制限した。
スコットランドやウェールズ、北アイルランドの各自治政府も、同様の措置を取っている。
しかしその後も感染者が増えて続けているため、イングランド北東部などでは、屋内で異なる世帯が集まることを禁じるなど、さらに厳しい制限が追加された。
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冬に向け病床や個人用防護具を確保
ジョンソン首相は記者会見で、政府は3月よりも感染流行に対する準備を整えているため、今冬を「自信を持って」迎えられると話した。
10月末には1日当たりの検査可能件数を50万件まで拡大するほか、新型ウイルス専用の「ナイチンゲール病院」7カ所で、合わせて2000床を確保。さらに、医療従事者向けマスクやフェイスカバー、医療用ガウンといった個人用防護具(PPE)を向こう4か月分備蓄しているという。
また、過去6カ月間で国民保健サービス(NHS)の人工呼吸器の数を3倍に増やし、現在は3万1500台が用意されていると説明した。
30日時点で、イギリスで新型ウイルスの症状で入院している人は2252人。うち人工呼吸器をつけている患者は312人に上る。
ジョンソン首相は会見で、「全国で素晴らしい努力をしている国民の皆さん」に感謝すると話した。
「もう限界だと思っても、うんざりだと思っても、新型ウイルスの流行を回避するにはこのやり方しかない。周りの人の安全のためにみんなで我慢し、常識に従い、意志を持って、犠牲を払わなくてはならない」
ジョンソン氏は特に、学生寮などで自主隔離を強いられている大学生にも言及。彼らは「誰も予想していなかった形で新学期を迎えている」と述べた。
その上で、年末のクリスマス休暇には学生全員が親元に帰れるように対策を取ると話した。
「長い冬が待っている」
イングランド主任医務官(CMO)のクリス・ウィッティー教授は、4月半ばの水準には達していないものの、流行のホットスポットを中心にCOVID-19患者が増えていると警告した。
特にロンドンやイングランド北東部、同北西部などで、集中治療室で手当てを受ける人が「急増している」という。
「入院患者や集中治療を受ける患者が増えており、良くない傾向に進んでいる」
「これから長い冬が待っている」
ウィッティー教授はまた、感染報告が前回とは「異なった傾向」を示していると説明。感染者はイングランド全土で増えているが、特にミッドランズ地方やイングランド北東部、北西部などに「過度に集中」しているとした。
また、10代後半から21歳以下の若年層の間で「急速に」感染が広がっている一方、義務教育の児童の感染率はこれまでと変わっていないと述べた。
「混乱を招いている」
イギリス政府はこのところ、新型ウイルス対策について議会の審議が十分でない、変更が複雑すぎるといった批判を受けている。
最大野党・労働党のキア・スターマー党首は、「2度目のロックダウンを回避するために全国的な努力が必要だ」と指摘。
一方で、政府は「明確な戦略」を示すという役割を果たしておらず、代わりに「混乱を招いている」と批判した。
<解説>流行の第2波、被害は少なく済むのか? ――ニック・トリグル保健担当編集委員
新型ウイルス流行の第2波がやってきたことは明らかだ。新規感染報告も、入院件数も、死者の数も全て増えている。
しかし次に何が起こるかはまったく不透明だ。
先週示された、感染者が毎週2倍に増えていくという最悪のシナリオは、今のところ現実にはなっていない。
入院件数の増加も緩やかで、入院患者の数は流行のピーク時に比べて10分の1以下となっている。
こうした例は、第2波は拡大の速度が遅く、それほど深刻なものにはならないことを示している。
しかし、この流行の波はまだ初期段階だ。呼吸器を攻撃するウイルスが活発になる秋冬の季節も始まったばかりだ。
現在の状況は簡単に覆るだろう。
しかしイギリスも他の国と同様、第1波が訪れた時に比べてかなりしっかりした体制を確保できている。
治療法は改善され、他人と距離を取る施策も日常となった。問題は残っているものの、検査能力も拡大している。
6カ月前に比べれば、我々の勝算はかなり大きいといえるだろう。