・IF設定が更に独自の進化を遂げた世界を舞台にお送りしております。
・キャラ崩壊注意です。
以上を踏まえた上でお読み下さい。
ユグドラシルの大型アップデート"ヴァルキュリアの失墜"後に創造された戦闘メイドプレアデスの一員であり、【ナザリックのギミック及び解除方法を熟知している】という特異な能力を、創造主にして偉大なる御方ガーネットより賜っている。
そんな機密の塊と言える彼女が外に出てしまっては、ナザリック地下大墳墓そのものが脅威に立たされる事となってしまう。
しかし、魔導国という国を立ち上げ、ナザリックに属する者たちが意思を持たないNPCではなくなった以上、〝ただ黙って墳墓に籠りギミックの管理を行え〟というのは酷であると、慈悲深き絶対支配者アインズ・ウール・ゴウンはお嘆きになっている。
そこでアインズが採った方法は〝
その絶対支配者アインズ・ウール・ゴウンの深淵なる権謀は、ナザリックの全員が知るところである。………アインズ様を除いて。
「…………よし。」
ナザリックでのギミック定期点検を終わらせたシズ・デルタは【博士の部屋】で〝読んで外に出てはいけない本〟から〝外へ行くための本〟に自身の記憶が写し替えられたことを確認し、アインズ様より勅許を頂いて新たに賜った仕事……ローブル聖王国における、【アインズ様を神と信仰する団体】への視察兼技術指南へ向かおうとしていた。
シズはこの仕事を遂行する前後、何故かモヤモヤとした不可解な気持ちが混ざるのだが、その気持ちが何であるか未だに解らない。アインズ様のために献身出来る喜びは、ナザリックの全員が持ち合わせる感情であり、何より尊いものである。
主からのご命令に喜び以外の不純な心情を抱くなど、不敬であり、遮断して然るべきなのであろう。そのためシズは、決して不愉快ではない感情とも取れない漠然とした……内面に刻まれた模様のような心情が宿っている旨をアインズ様へ報告し、記憶を消すべきか相談した。
その際、主は寛大にも〝そのままでいい〟と言ってくれた。更には〝絶対に誰にもそのことを話さないように〟とも命令されたので、シズはただただ理解不能な内面に刻まれた不可解な模様を一人持て余す。
「…………うん。答えは自分で見つける。アインズ様が仰っていた。ネイアもそうした。」
考えても仕方がないと、シズは与えられた仕事に専念するため、自身のメンテナンスを行う。【博士の残した本】を参考に、〝そうあれかし〟とされた姿を保つため。しかし本来メンテナンスは〝読んで外に出てはいけない本〟を読んだ状態で行うべきであり、不可解な心模様に翻弄されたシズは手順を失念してしまい過ちを犯すことになってしまったのだ。
……
………
…………
シズ先輩が小さかった。
いや、シズは元々小さく、身長でいえばネイアよりも頭一つくらい低い。だがそういう問題ではなく……。
「…………すごい仕事をして魔力が枯渇した。だからこうなった。すぐに元に戻る。」
そこにはネイアのこぶしより更に一回りは小さなシズ先輩が胸を張って机の上に立っていた。顎が天井に向くほど上を見上げようやく視線が合うくらいだ。
「え!?何したんですかシズ先輩!?大丈夫ですか!?あ、アインズ様はなんと?」
「…………アインズ様は寛大にも御赦し下さった。本来なら自害もの。」
シズ先輩の無表情には強い後悔と不甲斐さが宿っており、アインズ様に失望される恐怖を感じている事を悟った。その気持ちが痛いほど解るネイアは、軽はずみに何が起こったのか聞いては酷であると判断した。
難度150のメイド悪魔をここまで追い詰める存在、シズ先輩の現状にアインズ様は心を痛めておいでなのだろうが、それは当事者でないから理解出来る事だ。
それにしても、シズ先輩がこれほどの姿になってしまうまで追い詰めた存在とはどれほど強大な者なのだろう。世界には未だアインズ様に敵対する無知蒙昧な輩で溢れており、そしてその中にはネイアが想像することも出来ない、到底信じようのない存在があることを改めて実感させられる。
傷心しているシズ先輩にどのように接すればよいかネイアは悩んだ。
というよりも、ネイアの団体に顔を出している場合でもない気もするが、逆に考えれば、それだけアインズ様が自身の団体へ期待を寄せてくれているという証明でもある。期待に応えるためにも、シズ先輩に恥をかかせないためにも、今回のシズ先輩の視察は実りあるものにしなくてはならない。
「そうです、シズ先輩!今回<武技>を習得した同志が18名発見されたのですが、弓手部隊ではなく、レンジャー部隊から初めて発見されたのです!位階魔法である<
「…………むっ。そんな話は聞いたことが無い。」
やや落ち込み気味だった瞳に光が戻る。そしていつも話をするときのように歪曲した空間から〝ちょこれーと味〟を取り出し……。
「あの、蓋はわたしが……」
「…………大丈夫。」
そのまま容器をチマチマとよじ登り、ストローの先端まで移動する。そしてネイアに同じものを取り出そうとして
「ああ!シズ先輩!倒れます!崩れます!」
間一髪、乗っていた容器のバランスが崩れて倒れ落ちそうになっていたシズ先輩をネイアが支える。
「…………むっ。これは罰。うん。そう罰。受け入れる。」
ネイアはもし今シズ先輩に表情を作れるなら涙目になっているのではないかと、宿った感情から察した。その後もアイスクリームを食べるため容器に乗ろうとして容器ごとひっくり返ってアイスまみれになったり、扉を開けようとドアをカリカリしているシズ先輩は終始屈辱に耐え、自身を律する態度であった。
しかしネイアはそんなシズ先輩から漂う庇護欲をどうしていいものかと終始戸惑っていた。
……
………
…………
ナザリック九階層の執務室で、アインズは最早機械作業となっているハンコ押しをしながら、先ほどの事件を思い返し温かな気持ちになっていた。
(本当、シズも変わったよな。友人に会うため焦ってミスか……。俺もユグドラシルのことばっかり考えて何十……いや何万回仕事をミスって上司や同僚に迷惑かけただろう。)
シズが自身のメンテナンスミスによって小さくなって現れたときは驚いた。シズをローブル聖王国……ネイアの団体へ送る際は最終確認としてアインズがシズの記憶をチェックしてから送り出しているが、シズは手順を間違え自身のメンテナンスを誤って身体が小さくなってしまった。
造物主様の定めた御姿を誤る大罪に罰を欲しいと言ったシズに、アインズは〝その姿のままローブル聖王国へ赴き、自身の考えで現在置かれている状況を打破し、相手を納得させよ〟と命令を下した。
信賞必罰は世の常……とはいっても、シズにローブル聖王国を任せている理由はルプスレギナにカルネ村を任せている理由とはやや異なる。少女同士の友情をより育んで欲しいというアインズのわがままが混じった人選であり、今回のミスだって笑って許してやりたいほど――もちろんそんな真似をすれば、シズがどれほど心の傷を負うかはわかっている――だった。
「友人……か。」
アインズはハンコを押す手を止め、寂し気につぶやいた。かつてのアインズにとって最も心温まり、今のアインズにとって最も残酷な言葉。そしてシズの創造主である、あのミリタリーや機械について語りだしたら止まらないナザリックのギミック最高責任者を想起する。もし今回の件でシズが罰を納得していなければ、かつてギルドの皆でやった【何かしないと出られない部屋(作成ガーネット)】にネイアと二人で送ってみようか……。
(〝相手の良いところを30個ずつ褒めないと出られない部屋〟にウルベルトさんとたっち・みーさんの二人が閉じ込められたときはコンソールでは困ったふりしてたけれど大爆笑しちゃったな~~。そういえばぺロロンチーノさんが〝イチャイチャしないと出られない部屋〟を作ってくれととか言ってたけれど、結局どうなったんだろう?)
ナザリック地下大墳墓の絶対支配者は、温かな思い出を胸に、少女たちの今後に思いを馳せていた。
・小さくなったシズ先輩とそれに戸惑うネイアちゃんが書きたかったのです。さらに言えば〝何かしないと出られない部屋〟系の話も書きたかったのですが、小さくなるまでの過程描写(言い訳)が長くなったので様子観察です。