• TOP
  • 芸能
  • 荒井晴彦、森達也、白石和彌、井上淳一の『仁義なき戦い』論【ミニシアター押しかけトーク隊第1回】

芸能

2020.10.03 16:00  NEWSポストセブン

荒井晴彦、森達也、白石和彌、井上淳一の『仁義なき戦い』論【ミニシアター押しかけトーク隊第1回】

井上:柳生一族の陰謀(1978)の時はカメラは一台だったんだけど、めちゃめちゃ動いて最初にあった位置と最後のカメラ位置が違うんで、それで萬屋さんは『赤穂城断絶』のときに宮島義勇さんを連れてくるんですよ。でも深作さんが宮島さんにもそれをやらせようとするから萬屋さんが怒ったという話を聞いたことが。

白石『仁義なき戦い』は、カメラは一台だと思いますね。たぶん『広島死闘篇』は山中が逃亡するところが16ミリのブローアップだと思うんです。ほかのシーンは35ミリですね。

井上ぼくも最初、文芸坐のオールナイトで『広島死闘篇』を見たときに、突然古いフィルムで上映し出したみたいに思った記憶がある。

白石かなり増感しているんですね。

当事者性みたいなカメラワーク

井上白石はその後、『仁義~』と同じく呉を舞台にした孤狼の血(2017)というやくざ映画を作ったけど、やっぱり意識した?

白石いやいや、だから『仁義なき戦い』のような世界観を借りて柚木裕子さんが原作の小説を書いたんで、書いてあることはほとんど『仁義~』の世界で、主人公のベテラン刑事大上という役所広司さんがやっていただいた役は最初読むと『仁義~』の文太さんとしか思えないですよ。だから、それをそのまま手持ちカメラでぶん回してみたいなことをやろうとしても、絶対追いつかないじゃないですか。当時の人たちはみんなやくざと飯を食って、兄弟分になってスタッフの半分ぐらいは紋々が入ってというような世界で皆、撮っているわけですから、かなうわけない。だから違うアプローチがないかなと思って、できるだけ端正に撮っていこうと、逆に、逆に行こうと思っていましたね。

井上これはひとよ(2019)の時だけど、ぼくも一緒にやっている鍋島淳裕さんというカメラマンが「白石さんは中にカメラをおきたいんですね」って言っていたけど、深作さんもその当事者性みたいなカメラワークをするじゃないですか。

白石そうですね。だから望遠でも撮っているけど、乱闘しているその中にカメラを持ち込みたいというのがすごくあるみたいですよ。黒澤明監督の『七人の侍』(54)の最後の戦いとかは基本的に望遠で撮っていくやりかたなんだけど、深作さんはレンズを広角にして被写体にとにかく近づきたいというのが生理としてあったんじゃないかとは『仁義~』を見ていて感じましたね。

(後編につづく)

◇構成/高崎俊夫

 ◆劇場情報 このトークライブが行われたのは「シネプラザ サントムーン」です(於・2020年6月28日)。静岡県駿東郡清水町玉川61-2(http://cineplaza.net/theater/)

【プロフィール】
●荒井晴彦/1947年、東京都出身。季刊誌『映画芸術』編集・発行人。若松プロの助監督を経て、1977年『新宿乱れ街 いくまで待って』で脚本家デビュー。以降、『赫い髪の女』(1979・神代辰巳監督)、『キャバレー日記』(1982・根岸吉太郎監督)など日活ロマンポルノの名作の脚本を一筆。以降、日本を代表する脚本家として活躍。『Wの悲劇』(1984・澤井信一郎監督)、『リボルバー』(1988・藤田敏八監督)、『ヴァイブレータ』(2003・廣木隆一監督)、『大鹿村騒動記』(2011・阪本順治監督)、『共喰い』(2013・青山真治監督)の5作品でキネマ旬報脚本賞受賞。他の脚本担当作品として『嗚呼!おんなたち猥歌』(1981・神代辰巳監督)、『遠雷』(1981・根岸吉太郎監督)、『探偵物語』(1983・根岸吉太郎監督)など多数。また監督・脚本作品として『身も心も』(1997)、『この国の空』(2015)、『火口のふたり』(2019・キネマ旬報ベストテン・日本映画第1位)がある。

●森達也/1956年、広島県出身。立教大学在学中に映画サークルに所属し、テレビ番組制作会社を経てフリーに。地下鉄サリン事件と他のオウム信者たちを描いた『A』(1998)は、ベルリン国際映画祭など多数の海外映画祭でも上映され世界的に大きな話題となった。続く『A2』(2001)で山形国際ドキュメンタリー映画祭特別賞・市民賞を受賞。は東日本大震災後の被災地で撮影された『311』(2011)を綿井健陽、松林要樹、安岡卓治と共同監督。2016年にはゴーストライター騒動をテーマとする映画『Fake』を発表した。最新作は『新聞記者』(2019・キネマ旬報ベストテン・文化映画第1位)。

●白石和彌/1974年、北海道出身。中村幻児監督主催の映像塾に参加。以降、若松孝二監督に師事し、『明日なき街角』(1997)、『完全なる飼育 赤い殺意』(2004)、『17歳の風景 少年は何を見たのか』(2005)などの若松作品で助監督を務める。2010年『ロストパラダイス・イン・トーキョー』で長編デビュー。2013年、ノンフィクションベストセラーを原作とした映画『凶悪』が、第38回報知映画賞監督賞、第37回日本アカデミー賞優秀監督賞・脚本賞などを受賞。その他の主な監督作品に、『日本で一番悪い奴ら』(2016)、『牝猫たち』(2017)、『彼女がその名を知らない鳥たち』(2017)、『サニー/32』(2018)、『孤狼の血』(2018)、『止められるか、俺たちを』(2018)、『麻雀放浪記2020』(2019)、『凪待ち』(2019)など。

●井上 淳一/1965年、愛知県出身。大学入学と同時に若松孝二監督に師事し、若松プロ作品に助監督として参加。1990年、『パンツの穴・ムケそでムケないイチゴたち』で監督デビュー。その後、荒井晴彦氏に師事。脚本家として『くノ一忍法帖・柳生外伝』(1998・小沢仁志監督)『アジアの純真』(2011・片嶋一貴監督)『あいときぼうのまち』(2014・菅乃廣監督)などの脚本を執筆。『戦争と一人の女』(2013)で監督再デビュー。慶州国際映画祭、トリノ国際映画祭ほか、数々の海外映画祭に招待される。ドキュメンタリー『大地を受け継ぐ』(2016)を監督後、白石和彌監督の『止められるか、俺たちを』で脚本を執筆。昨年、監督作『誰がために憲法はある』を発表。

関連記事

トピックス