学術会議人事 任命拒否の撤回求める

2020年10月3日 08時00分
 憲法が保障する学問の自由に権力が土足で踏み込む暴挙だ。菅義偉首相は国の特別機関「日本学術会議」の人事で、政府方針に批判的だった新会員候補六人の任命を拒否した。判断の撤回を求める。
 日本学術会議は、日本の科学者を代表する機関で、独立して職務を行うと日本学術会議法で定められている。
 今回任命されなかったのは宇野重規東大教授(政治思想史)や加藤陽子東大大学院教授(日本近現代史)ら。特定秘密保護法などに反対の姿勢を示していた。
 法では学術会議は「優れた研究又(また)は業績がある科学者」を推薦し、首相は「推薦に基づいて、任命する」とされている。行政実務上は、「基づき」という用語が用いられている場合、拘束力を持つと解釈され運用されている。
 一九八三年、会員の選出をそれまでの選挙から首相の任命制に改める法改正をめぐる国会審議の中で、独立性、自主性が担保されるか懸念する質問が議員から出た。その際、政府側は任命は「形式的」なものと答弁している。
 今回の任命拒否はこれまでの国の姿勢を覆し、法の精神を踏みにじるものと言わざるを得ない。
 学術会議は二〇一七年、軍事応用できる基礎研究への防衛省の助成制度を念頭に「再び学術と軍事が接近しつつある」と危機感を示したうえで、「戦争を目的とする科学の研究は絶対に行わない」とした過去の声明を継承すると表明している。政府にとっては煙たい存在なのだろう。
 今回の人事介入は、萎縮させることで方針に従わせるという、官邸が省庁に対して行ってきた手法の延長線上にあるようにみえる。もしそうでないというなら、首相自身がきちんと説明するべきだ。
 多くの大学が軍事研究に踏み込まないのは戦前・戦中の反省に基づく。帝国大学の目的を「国家ノ須要ニ応スル学術技芸ヲ教授シ」と定めた帝国大学令により戦争に加担。幾度かの思想弾圧事件を経て、政府批判と受け取られる言説は影をひそめ、学徒動員で大勢の教え子たちを戦場に送り出した。
 学術会議は二日、排除された六人を任命するよう、首相に求めることを決めた。研究者の自由な議論が、国の暴走を止める礎となる。研究者をひるませてはならない。学術会議や大学は、毅然(きぜん)とした対応で学問の自由を守るべきだ。社会全体でそれを支える必要がある。

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