第59話 ただのオークではない
「な、こ、こんなことが……?」
「石垣が動くなんて……一体、どうなっているんだ……?」
「と、とにかく、助かったのか……?」
エルフたちが呆然と呟いている。
ズズズズズズズ。
再び石垣を動かして道を開いてみると、そこには無数のオークが死屍累々と転がっていた。
村人たちの槍がトドメとなったのか、動いているオークは一体もいない。
「彼らに槍を持たせたのはこのためだったのね……。確かにこれなら安全にオークを討つことができるわ」
セレンが呆れたような感心したような顔で言ってくる。
「最初はあの石垣越しに攻撃することも考えたんだけど、オークが動ける状態だとやっぱり難しいかなと思って。だから身動きが取れないよう、石垣で挟み込むことにしたんだ」
「あなたじゃないと絶対できない戦法ね……」
石垣を配置移動で動かせる速度は大よそ分かっていたけれど、タイミングを合わせるのがちょっと難しかった。
オークの群れを十分に奥まで誘導しないといけないし、でも遅すぎたら一本道を走り抜けてしまうし。
最終的にかなりギリギリになってしまったけど、エルフたちの矢で上手く調節することができた。
「ただ、少し生き残りが出ちゃったみたいだね」
後方にいたオークたちが北門から外に逃げたのだろう。
門の向こうに何体かの姿を確認できた。
仲間を大量に殺されたからか、怯えて今にも逃げ出しそうだけど。
「あ、でも、一体が入ってきた」
そんな中、一体のオークが門を潜り、仲間の死体で埋め尽くされた一本道へと足を踏み入れる。
……あれ?
なんかあのオーク、異様に大きくない?
距離があるから最初は分からなかったけど、明らかに通常のオークよりも巨大だ。
足元に転がっているオークたちの、軽く倍以上はあるだろう。
「グルオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!!」
「「「~~~~っ!?」」」
仲間たちを虐殺された怒りを解放するかのように、そのオークが凄まじい咆哮を轟かせた。
そして次の瞬間、信じられない速度でこちらに迫ってきた。
あれだけの巨体なのに、めちゃくちゃ速い!
フィリアさんが切羽詰まった声で叫んだ。
「き、気を付けろ! あれはただのオークではない! 恐らくオークキングだ!」
お、オークキング!?
万一領内で発見されたら、最低でも大隊規模の領軍が出動して、対処することになる超危険な魔物だ。
あれだけのオークが大量発生したのは、このオークキングの仕業だろう。
オークキングは巨大な群れを作り上げ、しかも統率して自分の手足のように動かすのだ。
とはいえ、じゃあ単体なら与しやすいかと言えば、そんなことないのはあの巨躯と速さを見ただけで分かる。
迫りくる威圧感だけでおしっこ漏らしそう……。
僕は慌てて石垣の道を閉じようとする。
でも、オークキングが速すぎてこのままだと間に合いそうにない。
そこで脱出口を封じるような形で、僕は新たな石垣を作り出した。
これで奴は完全に閉じ込められ、先ほどのオークたちと同様、石垣に挟み込まれることになるはず。
ズゴオオオオンッ!!
その僕の見込みは一瞬で破壊された。
脱出口を封じていた石垣と一緒に。
かなり分厚く作ったつもりだったのに、あっさりぶち破ってきたよ!?
しかもオークキングはそのままこちらに向かって突っ込んできた。
慌てて新たな石垣を作ろうとして、僕はそれに気づく。
ポイントが……ない!?
どうやら消費し過ぎたみたいだ。
すでに石垣を生み出せるだけのポイントが残っておらず、僕は何もできずに迫りくる巨躯を前に立ち竦むことしかできない。
というか、どう考えても僕を狙ってきてる!?
もしかして石垣を動かしていたのが僕だと理解しているのかもしれない。
「「村長っ! させるか……っ!」」
そんな僕の前に突如として躍り込んできたのは、巨大な鉄の盾を構えた二つの人影だった。
「ノエルくん、ゴアテさん!?」
ガアアアアアンッ!!
二人の鉄盾が凄まじい音を響かせ、オークキングの巨体を受け止める。
だけど次の瞬間、二人そろって後ろへ弾き飛ばされていた。
「「……っ!」」
あのグレートボアの突進すらも止めたという彼らが、受け止め切れなかった!?
ただ、そのお陰で角度がズレたのか、オークキングは僕の脇を抜けていった。
そのまま勢い余って、近くの畑へと突っ込んでいく。
「グルアアアアアッ!!」
すぐにこちらを振り返り、再び雄叫びを上げるオークキング。
身の丈は三メートルを超え、筋骨隆々の体躯。
こうして間近で見たら、その巨大さがさらに際立つ。
「ルーク、あなたは安全なとこまで下がってなさい!」
セレンがそう叫びながら、その巨大な魔物へと立ち向かっていった。
どうやらノエルくんとゴアテさんの二人は無事だったようで、立ち上がるとすぐに盾を構えてその後を追う。
それに他の狩猟チームが続き、さらにエルフの戦士たちは弓を一斉に構えた。
「みんな、気を付けて!」
僕は大人しく後方へと避難しながら、西の空へと視線を向ける。
今は夕刻。
もう少しすれば……。
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