第58話 これで終わりじゃないですよ
「ブルアアアアッ!!」
そのオークは餓えていた。
というのも、大量繁殖した同族たちのせいで、森の餌が枯渇してしまったからだ。
だから彼らはエルフの里を襲った。
防壁に護られたその場所が危険だと理解するだけの知能が彼らにはあるが、今なら群れの巨大さで押し潰せるだろうと考えた。
エルフの肉は正直言って不味い。
普段は捕まえても喰らうことは少なく、弄んでから殺すだけだ。
だが今は餓えが勝っていた。
一刻も早くエルフを喰らい、この空腹を満たしたい。
その感情に突き動かされ、荒野まで連中を追いかけてきた。
そうしてようやく一匹のエルフを喰らえるかと思ったそのとき、目の前に石の壁が現れて彼を阻んだのだ。
「ブルアアアアアアアアアッ!!」
怒り狂って石垣を破壊し、エルフの後を追う。
しかしあと少しというところで、再び目の前に石垣が出現してゆく手を阻む。
それが何度も何度も。
幾度となく邪魔をされ、もはや空腹と怒りはピークに達していた。
他のオークたちも同様の目に遭っており、このままでは共食いが起こりそうなほどだ。
最初はほぼ先頭を走っていた彼だが、いつの間にか後方にいた同族たちに追いつかれ、周囲は団子状態になっていた。
そしてその前に立ちはだかったのは、これまでのものより巨大な石垣だ。
これを破壊するのは、さすがの彼らにも骨が折れるだろう。
そう思ったが、よく見るとその石垣の真ん中が開いている。
どうやらそこから中に入ることができるらしく、逃げていくエルフの後ろ姿が見えた。
「「「ブルアアアアッ!!!」」」
一も二もなく、彼はそこへと突っ込んでいった。
同族たちも一斉にそれに続く。
両側を石垣に囲まれた、長く伸びる一本道となっていた。
その遥か先には、ついに疲れて動けなくなったのか、エルフたちが息を荒らげて座り込んでいる。
先頭集団から少しだけ遅れる形で、彼はその一本道を突き進む。
もうすぐエルフを喰らえる。
不味い肉だが、気にせず喰えるだけ喰らい尽くしてやろう。
そのときだった。
ズズズズズズズ。
轟く地響きとともに、両側の石垣が動き始めたのだ。
それも、この一本道が狭まっていくような形で。
「ブヒァッ!?」
あっという間に道が閉じていく。
このままではどうなるか、頭の悪い彼にも分かった。
慌てて迫りくる石垣を殴りつけてみる。
かなり分厚くできているようで、破壊することはできたのは表面だけだ。
こうなったら閉じる前に走り抜けるしかない。
同じことを考えたのか、先頭集団が加速した。
ビュンビュンビュンビュン!
「「「ブギャッ!?」」」
だがそこへ一斉に飛んできた矢が、彼らの身体を次々と射貫く。
いつの間にか立ち上がったエルフたちが、矢を放ってきたのだ。
矢の雨に牽制されて動きが遅くなった彼らへ、両側から容赦なく石垣が迫ってくる。
ズズズズズズズ。
そしてついには、オーク一体が通れないほど道が狭くなり――
「「「ブ、ブヒイイイイイイッ!?」」」
◇ ◇ ◇
「はは……相変わらず貴殿は出鱈目だな……」
「これで終わりじゃないですよ。石垣に潰されたくらいじゃ死んでない個体も多そうですし」
呆然と呟くフィリアさんにそう言ってから、僕は村人たちに声をかけた。
「みなさん、準備はいいですか!?」
「「「おおおおおっ!」」」
威勢のいい返事が返ってくる。
その手に握られているのは、僕が施設カスタマイズで大量生産した槍だ。
彼らの多くは槍を扱ったことなどない。
でも今からやるのはとても簡単な作業だから大丈夫だろう。
「思い切り穴に突き刺せばいいだけですから! 行きますよ!」
僕はオークを挟み込んでいる石垣の各所に、施設カスタマイズを使って穴を開けた。
一斉に出現した無数の穴。
そこへ、石垣の外側で槍を構えていた村人たちが、勢いよくそれを突き入れていく。
「「「うおおおおおおおおおおおおおおおっ!!」」」
「「「ブヒイイイイイイイイイイイイイイッ!?」」」
これにはオークたちも一溜りもなかったみたいだ。
石垣と石垣の間から、断末魔の叫びが次々と轟いてくる。
まさに僕の作戦通り、オークの群れを一網打尽にできたのだった。
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