第57話 何だってって言いましたね
物見塔から降りた僕は、外石垣に設けられた北門に近い場所にやって来ていた。
「一体どうするつもりなのよ? 幾ら私たちでも、さすがにあれだけの数のオークを倒すことはできないわ」
さすがのセレンも不安そうだ。
今もサテンから報告を受けているけれど、オークの数はざっと二百を超えているらしい。
そんな大群を相手にしようと思ったら、恐らく熟練の兵士が最低でも千人は必要だろう。
こちらに戦闘のギフト持ちが多いと言っても、激突したら一溜りもない。
「そうだわ。石垣をもっと高く厚くして、入って来れないようにしたら……。もちろん門も石垣で完全に封じて……」
「確かにその手もあるかも」
通常の石垣だと、破壊されたり乗り越えたりされるだろう。
でも施設カスタマイズを使って巨大化させれば、さすがのオークも村の中に侵入できないはずだ。
ただその場合、オークに村の周囲を包囲され続けることになってしまう。
まぁ、食糧は村の中で生産しているわけだし、幾らでも籠城できるんだけど。
「僕に任せておいて。他にもっといい案があるんだ。ええと、北門を開けて!」
北門を守護している元盗賊たちに命じる。
きっと彼らはエルフたちを村の中に保護してから、門を閉めると思っているだろう。
「門はそのままでいいから、そこから離れてて!」
「「「……?」」」
困惑気味の彼らを下がらせると、僕は北門からこちら側に伸びてくる形で、二つの長い石垣を作成した。
ちょうど二つの石垣に囲まれ、一本の道ができるような格好だ。
「もしかして、これで一度に戦う数を減らそうっていうの? 確かに、一度に相手するオークが五体くらいならまともに戦えるでしょうけど……でも、きっと体力が持たないわ」
「そうじゃないよ、セレン。あ、来た来た」
そこへやってきたのは、この村の若い男性たちだ。
女性の方が多いと言っても、今や千人を超えるこの村は、成人した若い男性だけでも三百人近くいる。
そんな彼らが手にしていたのは、僕が施設カスタマイズで大量生産した槍だ。
「まさか、彼らに戦わせようって言うの!? 無茶よ! オークが相手じゃ、何人いたって何の戦力にもならないわ!」
「いや、心配しないで。普通に戦わせるわけじゃないから」
そうセレンを宥めてから、僕は彼らに声をかける。
「皆さんにも手伝ってもらいたいんです」
「お任せください!」
「村長のためなら命を投げ出す覚悟です!」
「刺し違えてでも、オークを仕留めてやりましょう!」
「い、いや、そんな覚悟は要らないから……」
彼らの愛村心の高さがたまに怖くなる……。
そうこうしている内に、エルフたちが北門を潜り抜け、即席の一本道を走ってきていた。
僕がかなり邪魔をしたので、オークの先頭が来るまで少しの余裕がある。
やがてエルフたちが一本道を走り抜けてここまでやってきた。
「ぜぇ、ぜぇ……る、ルーク殿! すまない! 貴殿らを巻き込むような形になってしまって……」
その中には息を荒らげるフィリアの姿もあって、僕を見つけるなりいきなり謝罪してくる。
「詳しいことは後で聞きます。それよりお疲れのところ悪いんですが、エルフの皆さんにも協力していただきたいです」
「無論、何だってやろう! ただ、まだ戦える者の数はそれほど多くないが……」
今、何だってって言いましたね?
「じゃあ、エルフの戦士の皆さんは、この位置に居ていただけますか? 念のため、矢を放つ準備はしておいてください」
「オークをこの一本道に集めて、矢の雨を浴びせようというのか? だが、さすがにその程度では……」
「いえ、それは今言った通り、あくまで念のためです」
それより重要なのは、エルフたちが見える場所にいた方が、オークを上手くここまで誘導できるだろうからだ。
要するに囮なんだけれど、さすがにそれをはっきりと口にはしないでおく。
「じゃあ、槍を持ったら、この石垣に沿う形で、両側に広がっていってください。できるだけ均等にお願いします!」
そう村人たちに指示を与えたところで、ついに先頭のオークたちが北門からこの一本道へと入ってきた。
「これだけいたら、しばらく肉に困ることはなさそうだね」
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