第54話 ここが君たちのお家だからねー
フィリアさんたちが帰ったのと、ほぼ入れ替わりになるようなタイミングで、ダントさんが言っていた商人の一団が村にやってきた。
「ほ、本当に荒野に村があったとは……」
「噂は間違いじゃなかったんだな……」
「何だ、あの建物は……?」
目を丸くしている彼らに、僕は挨拶する。
「初めまして。僕が村長のルーク=アルベイルです」
「この一団を取りまとめているブルックリと申します。……それにしても、素晴らしい村ですね。正直ここに来るまでは半信半疑だったのですが……」
ブルックリさんは三十半ばの小柄な男性だ。
北郡でも有数の商会とされるケイン商会の創業者一族で、この若さで副商会長を務めているという。
……そんな人がわざわざこの村に?
彼らが運んできてくれたのは、主にこの村で不足している物資だ。
特に、衣類、生活雑貨、作物の種子、薬草類、それから調味料などである。
一方、こちらが提供できるものはというと、畑で収穫した作物くらいしかない。
オーク肉は高く売れるだろうけど、村人たちが「それは絶対に売らないでください!」って懇願してくるから……。
どれだけオーク肉が好きなのか。
まぁ美味しいけど。
とはいえ、その作物が今、最も必要とされているのだ。
「こんな大きな野菜、初めて見ましたね……」
「試食してみますか?」
「よろしいのですか?」
商人たちが集まってくる。
「虫食いもないし、見た目は綺麗だが……」
「大きく育てるだけならそれほど難しくない。だが大抵、とても食えたものじゃなくなってしまう」
「ちゃんと中身は詰まっているか?」
通常の何倍ものサイズの野菜を前に、半信半疑な商人たち。
代官からの依頼とはいえ、自分の目でしっかり商品を見極めようとする姿勢に、商人としての矜持が感じられた。
「「「う、美味い!?」」」
「このトマト、なんて甘さだ……」
「しかも普通この季節には収穫できないものだぞ……?」
そんな彼らが村の作物を絶賛してくれたので、ちょっと嬉しい。
「大きい上に、高級品にも勝る味……それがこんな荒野で……」
「どうですかね?」
「予想以上でした。もちろん喜んで買わせていただきます」
それから軽く交渉し、ざっくりと販売金額を決めた。
その結果、思っていたよりはるかに高値で買い取ってもらえることに。
お陰で彼らが持ってきた商品も、すべて買うことができそうだ。
「村に必要かどうかは分からないですけど、特産物なんかも含めて、持ってきていただいたものは全部買いますよ」
「え? よろしいのですか?」
「はい。食べ物に困ってる村が多いと聞いてますし、少しでもその助けになればと思いますので。それでも生活が苦しいようなら、この村のことを教えてあげてください。移住を歓迎しますので」
「……」
ブルックリさんは驚いたようにまじまじと僕の顔を見てくる。
「? どうかされましたか?」
「い、いえ……ふと、ルーク様のような方が領主なら、きっともっと豊かな暮らしができるようになるだろうにと、思ってしまいまして……はっ、も、申し訳ございません、今のは決して、アルベイル卿を悪く言っているわけではなく……」
「ははは、気にしないでください。僕も父上のやり方を決していいと思ってませんので」
「……」
「でも、僕はただの村長ですから。領主なんて絶対になれないし、なる気もないですよ」
そうして初めての取引が終わると、休む間もなく彼らは帰っていった。
品物が品物だし、すぐに各地に売りにいく必要があるからだ。
今回購入したのは、実は物資だけではなかった。
「も~」
「め~」
「こけここここ」
牛や山羊、それに鶏といった家畜たちだ。
ミルクを飲みたいし、卵も欲しいからね。
「はいはい、これからここが君たちのお家だからねー」
ギフトで作った家畜小屋へと連れていく。
すると中に入った瞬間、
「もーもーもーっ!」
「めーめーめーっ!」
「こっけこっこーっ! こけけけけっ!」
「わっ、どうしちゃったの急に!?」
いきなり興奮したように駆け回り始めたのだ。
「どうやらこの家畜小屋のことを気に入ったようっすね!」
「あ、君は確か……」
「はいっす。『動物の心』というギフトを授かったネルルっす!」
ネルルは僕の一つ年上の女の子で、動物の気持ちが分かるギフトを与えられていた。
「じゃあ、この子たち任せていいかな?」
「もちろんっす! いっぱい繁殖させて、ミルクと卵をいっぱいとれるようにするっす!」
少しでも面白いと思っていただけたら、↓の☆で評価してもらえると嬉しいです。