第53話 水が発射されたというわけか
「なるほど、あれはその、うぉしゅれっと? なる機能のトイレで、私が不用意にボタンを押してしまったがために、水が発射されたというわけか」
「は、はい、そうです。ちゃんと先に説明しておくべきでしたね……すいません」
フィリアさんたちが驚いたのも無理はない。
あんな機能が付いたトイレなんて、僕も初めてなのだ。
実家にいた頃は、トイレで大をした後は麻などの布の切れ端を使ってお尻を拭いていた。
ただそれができるのは比較的裕福な貴族だけで、一般庶民は枯葉や棒切れなんかを使ったり、あらかじめ汲み置いた水で洗ったりしているという。
この村では繊維が貴重なので、家屋・小や家屋・中の頃は、その水で洗うやり方をしていた。
けれど家屋・大になってから、トイレが進化したのである。
どうやら村人たちが住むマンションの各部屋のトイレもすべて、この「ウォシュレット」なるものらしい。
温かい水を出すことも可能で、みんな非常に喜んでくれていた。
「村人全員が……う、羨ましい……」
「あはは、確かに便利ですよね」
「いや、便利なのもそうだが……それ以上に……」
「……?」
それ以上に……?
「そ、そんなことより! あのトイレ、一体どうやって作っているのだ?」
「それが、僕にも分からないんですよ。この家もお風呂もそうですが、全部ギフトで生み出したものなので」
「ギフトで?」
「そう言えば、まだ話してなかったですね」
僕は簡単に『村づくり』ギフトのことや、この望まれないギフトを授かったせいで実家を追い出され、この荒野を開拓する羽目になったことなどを説明する。
「……どう考えても有用なギフトだろう。貴殿の実家は阿呆なのか?」
「向こうにいるときには分からなかったんですよ。誰も所有していない土地じゃないと、このギフト、発動しないみたいで」
まぁこのギフトの力を知ったら、戻ってこいって言われるかもしれないけど……。
もちろん戻る気なんてさらさらない。
「くっ、しかし、そうか……ギフトの力となると、里にあのトイレを持っていくことはできないのか……」
悔しそうに唸るフィリアさん。
「ならば、どうにかして自作できないものか……」
せっかくなのでその日は村に一泊してもらった。
人数が少ないので、ダントさんを泊めた来客用の家屋は使わず、そのまま僕の家に泊まってもらった形だ。
そして翌日の朝。
「もう一日くらい泊っていってくれてもいいんですけど」
「さすがに里の者たちが心配しますので」
「確かにそうですね。でも、またぜひ遊びに来てください」
「もちろんです。美味しい料理に温かいお風呂、清潔な住環境……こんな素晴らしい村、何度でも遊びに来たいです」
名残惜しそうにしながらも、エルフの皆さんはこの村を出発することとなった。
最初は警戒していたけれど、今ではフィリアさん以外もすっかり打ち解けて、この村のことを気に入ってくれたみたいだ。
特にお風呂がよかったらしく、昨日の夜にもう一度、さらに今朝も早く起きて入っていたほど。
「あれ? そのフィリアさんは?」
「戦士長なら先ほどトイレに行くと言ってましたが……」
トイレか。
そう言えばフィリアさん、昨日から何度もトイレに入っている気がする。
もしかしてお腹を壊しちゃったのだろうか?
心配になって、僕は様子を見に行くことに。
するとトイレの中から、何やら声が聞こえてきた。
「んっ……はぁ……っ……き、気持ち、いいっ……んぁっ! そ、そこっ……あっ……んはぁぁぁ……っ!」
僕は無言で回れ右する。
うん、何も聞かなかったことにしよう。
しばらくすると、やたらとすっきりした顔のフィリアさんが出てきた。
「さて、それでは世話になったな。また遊びに来ても構わないか?」
「も、もちろんです」
努めて平静を装いながら頷く僕。
僕は何も聞いていない……何も聞いていない……。
そうして最後は村人総出で見送り、エルフたちは森へと帰っていったのだった。
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