第43話 やっぱり冬はお風呂に限るね
私の名はダント。
アルベイル領でも北の地域――〝北郡〟と呼ばれる一帯の管理を任された代官だ。
私の一族は元々、この地域を収める貴族だった。
だが父上の代のときに、先代のアルベイル卿の軍門に下った。
弱小領主だったため、最初から戦っても勝てないことは分かっていた。
それゆえ抵抗することなく城を明け渡し、一家は生き延びることができたばかりか、父上はそのまま一帯の代官に任命された。
それを引き継ぐ形で、現在は私が代官を務めているというわけだ。
アルベイル領はそれからも精力的に領地の拡大を続けている。
もちろん、いち代官でしかない私は、それに全面的に協力するしかなかった。
「ダント様、また別の村でも、村人が丸ごといなくなっていたようです」
「またか……。いや、厳しい税を課してしまっていることは分かっている。だが、それにしては多過ぎるのではないか? それも村人が全員そろって夜逃げしてしまうなど……」
領主様からのお達しで、今まで以上に重い税を課さざるを得なくなってしまった。
中には税を払えなくなり、領内から逃げ出す者も出てくるだろうとは思っていた。
だが、その数が予想以上に多い。
領地から逃げたところで、行き先で生活できる保証などない。
かえって酷い環境に陥る可能性もある。
それが分かっているからこそ、多くの領民たちは、重税に喘ぎながらもその場に留まるのである。
「実は、調査員の何人かが、不思議な話を聞いたようでして……」
「不思議な話?」
「はい。なんでも、北の荒野に新たな村ができたとか。しかも、そこは安全で快適な住まいが約束され、食べるものにも困ることがない、天国のような場所であると……」
あまりに胡散臭い話に、私は思わず顔を顰めた。
ここからさらに北に広がる荒野は、まさに不毛の大地だ。
作物を育てることなど不可能だし、近くには魔境の森があって、時折そこから魔物が現れる危険な場所でもある。
とても人が住めるようなところではない。
実際、過去には幾度か開拓が試みられたことがあったが、そのすべてが失敗に終わっていた。
しかし最初はそんなふうに疑っていた私だが、その後も次々と似たような情報が上がってきて、これは間違いなく何かあるなと思い始める。
そこで実際にその荒野の調査に行かせたところ、
「だ、ダント様……その……やはり、荒野に……」
「本当に村があったのか?」
「村……というか、都市らしきものが……」
「都市!?」
俄かには信じがたい報告が上がってきた。
◇ ◇ ◇
本格的な冬が近づいてくるにつれて、ますますアルベイル領からの移住者が増えてきた。
どうやらこの村の噂が、思っていた以上の規模で広がってしまっているらしい。
このままだと、そのうち一帯を領主の代わりに治めている代官あたりが何か言ってくるかもしれない。
まぁでも、あくまで僕は父上の命を受けてこの荒野を開拓し、村を作ったわけだ。
勝手に村を作って領民を奪ってるんじゃないし、大丈夫だろう。
「あ~、そんなことより、やっぱり冬はお風呂に限るねぇ……」
悩みなんて簡単に吹き飛んでしまう魔力がお風呂にはあった。
立ち昇る湯気の中、まったりとお湯に浸かって日頃の疲れを癒す。
別に大して疲れるようなことやってないけどね。
ここは家屋・大をカスタマイズすることで作った、僕専用の風呂だ。
しかも露天風呂である。
これくらいの贅沢は許されるよね。
村人用の住居をすべて長屋からマンションにしてあげたんだし。
実は最近になって家屋・中から家屋・大へとグレードアップしたのだけれど、この家屋・大がすごかった。
二十人は住めそうなくらい大きな屋敷で、池付きの広い庭まであるのだ。
僕は施設カスタマイズを使い、お風呂を庭にも設置した。
冷たい外気のせいか、より一層、お湯が気持ちいい。
庭にお風呂があるなんて最高だよね。
唯一、不満があるとしたら、
「開放感があっていいわね」
「これでいつでもルーク様とのお風呂を堪能できます」
……なぜか混浴である点だ。
「ねぇ、二人のためにもう一つ作ってあげたよね? 何であっちを使わないの?」
「別にどっちを使っても構わないんでしょ?」
「となると、もちろんルーク様が使われている方を選びます」
……うん、分かってる。
この二人に何を言っても仕方がないってことは……。
「はぁ……いいけど、それ以上は近づいて来ないでよ?」
「はい? 今、なんとおっしゃいました?」
「ちょっ、近づいて来ないでって言ったばかりでしょ!? あと、ちゃんとタオルで隠して!」
そんなことを言い合っているときだった。
『村長、村に怪しげな一団がやってきました』
『また移民かな?』
『いえ、どうやらアルベイル領の代官だと名乗っているようです』
早速来ちゃった!?
少しでも面白いと思っていただけたら、↓の☆で評価してもらえると嬉しいです。