第9話 赤い方を捻るとお湯がでます
なぜか剣呑な雰囲気のミリアとセレン。
夜になって、またひと悶着があった。
「あんたたち、こんな狭いところに二人っきりで寝ていたの……?」
「そうですが、何か?」
「何がって、どう考えてもおかしいでしょうが!?」
セレンが声を荒らげ、糾弾してくる。
それもこれも、小屋が一つしかなかったせいだ。
「もちろんあなたにそれを強要するつもりはありません。ぜひお外で就寝なさってください」
「何でそうなるのよ!?」
「ふ、二人とも、仲良くしてよ……」
「「ルーク(様)は黙ってて(ください)!」」
「……はい」
こんなことなら、とっとと小屋をもう一つ作っておくんだった……。
生憎とセレンに見せるため土蔵を作っちゃったせいで、ポイントが足りないのだ。
「あ、そうか。僕が一人で土蔵で寝ればいいのか」
妙案を思いつき、ぽんと手を打つ僕。
「そういうわけにはいきません。村長はルーク様なのです」
「そうよ。土蔵で寝るのはこの女一人でいいわ」
「それはつまり、ルーク様と二人っきりで寝たいと? なんという淫乱な女なのでしょうか」
「そんなこと言ってないでしょ!? ていうか、自分のことを棚に上げないでくれるかしら!?」
結局、なぜか三人とも小屋で寝ることになってしまった。
しかも僕が二人の間に挟まれる形で。
「……眠れない」
ルークの村
村レベル:1
村ポイント:54(毎日12ポイントずつ加算)
村人の数:2人
村ギフト:なし
「よし、やっと50ポイント貯まったぞ!」
最初に村を作ったのが夕方だったので、毎日、村ポイントが加算されるのは夕方だ。
新たに12ポイントが加算されたことで、ついに目標だった50ポイントに到達した。
これで今日の夜は地獄から抜け出せるかもしれない。
セレンが村に来てからというもの、狭い小屋の中、常にピリついた状態の二人に挟まれる形で寝る羽目になってしまった。
無論、そんな状況で安眠なんてできるはずもない。
お陰でここのところ僕はずっと寝不足だった。
でも50ポイントあれば、念願だった家屋・小を作成できる。
どれくらいの広さかは分からないけど、少なくとも今よりは広いに違いない。
〈家屋・小を作成しますか?〉
「お願いします!」
頷くと、目の前に一軒の木造の平屋が出現した。
「わっ、すごい。家具まである!」
広さは小屋の二倍くらい。
だけどベッドや机、棚などの家具が備え付けられていた。
「ここは何だろう?」
〈キッチンです〉
「キッチン? 調理場のこと? でもこれは……」
〈蛇口です。青い方を捻ると水が、赤い方を捻るとお湯がでます〉
「えっ、何それ?」
実際に試してみると、簡単に水とお湯が出てきた。
「もしかして魔道具の一種かしら……? でも、まるで魔力が感じられなかったけれど……」
セレンが不思議そうに首を傾げている。
〈そちらのつまみを押した状態で捻っていただくと、簡単に火が付くようになっています〉
「これで火が付くんだって」
「ほんとだわ……一体どうなってるのよ……?」
「さすがはルーク様のギフトです。今までは屋外でしたが、これならもっと楽に料理ができそうです」
ミリアが心なしか弾んだ声で言う。
「この扉は……? え? これは何……?」
奥にあった扉を開けてみると、そこは狭い部屋になっていた。
手前に椅子みたいなものが置かれていて、奥には大きな水槽らしきものがある。
〈ユニットバスです〉
「ユニットバス……?」
〈トイレとバスが一体となったものです〉
「つまり、これは便器で、こっちはお風呂……?」
どう見てもただの椅子じゃないかと思ったけれど、どうやら便器に蓋が付いていたみたいだ。
開けてみると、お尻を置くための場所があって、その下に水が溜まった容器がある。
容器の奥には小さな穴が開いているだけだ。
〈水洗トイレです〉
「水洗トイレ……? どうやって使うの?」
〈そこに座って用を足していただきます。そして水を流すだけです〉
つまみを捻ると勝手に水が流れ、便をどこかへ流してくれるらしい。
試しにやってみる。
ジャ~~。
ほ、本当に流れた!?
「お城だと下級の使用人が溜まったモノを回収してたけど……」
そんな必要もないという。
じゃあ、便は一体どこに消えていくんだろう?
そう言えば、トイレにスライムを使っている地域もあるって聞いたことあるな。
何でも吸収してしまうスライムは、糞尿も吸収して綺麗にしてくれるらしい。
でもこのトイレはそのタイプじゃないという。
……うん、深くは考えないようにしよう。
お風呂にもキッチンにあった蛇口が付いていた。
つまり簡単にお湯で身体を洗うことができるらしい。
「じゃあ、これからは外の井戸を使わなくていいってことね!」
「……そうですか(くっ、外ならルーク様が身体を洗うところをこっそり覗き見することができたというのに……!)」
喜ぶセレンと、なぜか残念そうにするミリア。
「というわけで、これで寝床が二つになったから、これからは男女別々で眠れるね」
「「……」」
僕が勝ち誇って言うと、なぜか二人は無反応だった。
何で無言なの? と当惑していると、ミリアが先に口を開く。
「この女と二人きりで寝るなんて、考えられないのですが?」
「私もよ」
……そうだった。
確かに仲の悪い彼女たちを、二人きりにするのはよくない。
かといって、どちらか一人だけが僕と一緒に寝るというのも変だ。
「うぅ……わ、分かったよ。じゃあ、三人で家屋の方で休もう」
小屋と違って広いし、今までよりはマシだろう。
と、思ったんだけれど――
「何で三人一緒にベッドに寝ることになってんの!?」
なぜか二人そろって、ベッドで寝ることになってしまった。
お陰で小屋のときよりもさらに密着した状態だ。
「ルーク様にベッド以外のところで寝ていただくわけにはいきません。ですので、ルーク様がベッドに寝ることは確定です」
「私は床で寝ることに何の抵抗もないけど、この女の隣で寝ることだけは絶対にご免よ」
「奇遇ですが、わたくしも同意見です。となると、もはや残るはルーク様のお隣り一択」
「同じくよ」
まったく意味が分からないんだけど!
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