名門「麻布」卒業生の生き様に見えた自由の本質

わが子を「ヘタレ」にしないためにできること

前川さんは東大仏教青年会で仏教学者・秋月龍珉さんに師事し、2度留年するほど仏教研究や座禅修行に入れ込んだ。

「別にあんまり悟ったとは思っていませんけど(笑)。でもね、やっぱり禅というのは究極の自由を求める修行なんですよ。禅の指導者は『俺についてこい』とは絶対に言わない。『お前はお前だ』って突き放すんだから。麻布と一緒でしょ」(前川さん)

一方で、前川さんは憲法学者の芦部信喜さんにも大きな影響を受けた。芦部さんは経済的自由と精神的自由を区別して「二重の基準論」と唱えた人物だ。

「芦部憲法から学んだのは、精神的な自由がどれだけ大事かということです。学園紛争期の麻布で培われた自由に対する確信みたいなものが私の中にあるわけですよ。自由を奪われてはいけないという切実な思いが。その自由というのは精神的な自由のことです。だから私の中で、麻布と仏教と芦部憲法は、自由という概念でつながっているんです」(前川さん)

「学園紛争期の麻布」というのは1970年前後に麻布で起きた学園紛争のうち、とくに後半の第2次学園紛争を指している。第1次学園紛争の混乱に乗じて「校長代行」のポジションに着いた山内一郎という実業家が独裁武断政治によって学校を私物化したことに対する抵抗運動だ。

「ひょっとすると、山内校長代行のやり方と安倍官邸のやり方がこう、重なったのかもしれない。いや、それ、いま初めて気づきました!」(前川さん)

東大卒プロゲーマーが本当に自由になった瞬間とは?

学園紛争の最中に麻布に入学したのが社会学者の宮台真司さんだ。

「僕が麻布的な経験を人に話すときにいちばん伝えたいのは、やっぱり人間って、合理性の内側にいればつまらないヘタレになるっていうことですよね。ノイズ耐性も減るし、計算不可能なものを怖がるようになるし、枠の中でしか行動できなくなる。ヘタレであることは必ず自覚されるので、既存のシステムにしがみつくし、ダメ意識への埋め合わせとしてシステムの外のものを執拗にたたく」(宮台さん)

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