お絵かき講座 臨時休講のお知らせ
5月30日に更新を予定しておりました、初心者向けお絵かき講座「キャラ絵の描き方基礎 第七回応用概論Ⅰ」に関しまして、
「ファイル利用量」という伏兵のため、更新が遅れます。。
誠に、申し訳ございません。
ご面倒をおかけします。。
【お絵かき講座】キャラ絵の描き方基礎~第六回素体基礎Ⅳ頭部+α
キャラ絵の描き方基礎(頭の固い人向け)第六回 素体基礎Ⅳ~頭部+α
素体基礎は、広文メソッドの素体(アタリ)の描き方をお伝えするものですが、最後の第四回は、頭部+αと称しまして、頭部(及び顔)の描き方と素体の一部の調整についてお伝えします。おっと、素体が何なのか分からない方については第二回の講義録をご覧ください。
それでは、さっそく始めていきます。
はじめに~頭部(と顔)の形
今回描き足す頭部の形は、下図のようなものです。これまでの講義を聞かれた方は、「あれ?頭部の形が違うぞ?? 前は単に、ボール突き刺しただけだったろ?」とお思いになると思いますが、そこは申し訳ありません。。アタリと言えども、もうちょっと頭の形にしておいた方が良いだろうという事でこのバージョンにいたしました。
ただ前提として、これはあくまで一つの形です。顔の形については、各自好みがありますので、「デブメガネの方法は好かん」という際には、ここは無視するか、好みのバランスに改良をしてください。
頭部と顔の描き方
まず、実際の制作の前に、偉大なる先人の話をいたします。アンドリュー・ルーミスというアメリカのアーティストの名前を聞いたことがありますでしょうか? 単に「ルーミス先生」と言った方が、通じが良いと思います。キャラクターイラストを描く界隈ではつとに有名で、全く優しくない『やさしい人物画』等で知っている方は多いと思います。なぜ、氏に言及したかと言えば、今回の頭部の描き方が、ルーミス式を踏襲しているからです。我々は、幾多の先人たちの切り開いた道の上に立っているのです。ありがたいですね。先人を古臭い絵柄、とか言ってバカにしてはいけないのです。
1 球を描き、十字を入れる
では、始めましょう。頭部を描くために、まずは球体を描きます。これは頭蓋骨の元になるもので、大きさはそれぞれ好みで良いのですが、とりあえずは第三回の胴体でやった胸郭の幅と同じ、としておきましょう。
球を描いた後は、顔の真ん中(にしたいところ)に十字を入れます。この十字は顔のアタリによく使われているのでご存知の方も多いでしょうが、顔の真ん中を通る線と、真横に横切る線で出来ていて、目と、鼻、顎を描く時にガイドになるものです。
なお、球面に沿わせるより、図のように緩いカーブにしておくと便利です。このカーブの緩さは球を縦回転させて、中央の皮を削った結果なのだというイメージを持っていただければと思います。となると頭頂部も後頭部もなだらかになっているはずですが、どうせ髪で隠れるので輪郭を描き変える必要は特にありません。
このように平坦にしてしまう訳は、目の配置の時に便利だからです。というのも、フィギュアなどは特にそうなのですが、アニメ・漫画風のキャラの顔は、球形というより平面に近いのです(多少角度はついてますけどね)。
2 側面を削る
次は側面を削ります。とはいえ、削ると言っても、側面に切り口の輪が描ければ、図のように不要な線を消すような必要はありませんし、そもそもこれはアタリですから、切り口を厳密に描く必要もありません。さらっと、それっぽい円が描ければそれでOKです。
どのくらい削るか……ということですが、これも各人のお好みです。とはいえ、基準となる数値がないと不安な場合には、「切り口が、球の直径の半分~6割ぐらい」としておきましょう。例示では6割近くで描いていると思います(目分量なので正確には分かりません)。まあ、測りたい場合は見た目楕円になった側面円(切り口の輪)の、一番長い線を探し、それを球の直径と比べて下さればと思います。しかし、6割とはどうも中途半端な数値で申し訳ないです。半分よりちょっと大きい、ぐらいでよいでしょう。
ちなみに、1で描いた十字の内の横線について、ルーミス式では、眉の線とされているのですが、目が大きいキャラを描く場合は、ここは目の上端近くになっている「場合」があります。(あくまで、キャラそれぞれですからね)そうそう。どうせなので、目印として目を描いて置きましょう。といっても、印のようなものですが、これがあると何かと便利ですよ。
3 球に耳を付け、顔の形を形成する
まずは、下図をご覧ください。こういった顔を描いていきます。
では、これを実際に描くとなると、以下の手順となります。
「なんで普通の描き順と全く逆から描いてるんだよ。。」とお思いでしょうが、これはあくまで説明しやすいというだけで、慣れていれば、どこから描かれても問題ありません。
なお、二つ上で紹介しました平面(曲面)分割の顔について、以下に様々な角度からの図を作っておきました。これで、上の図が大体どのような考え方で描かれたか分かるかと思います。
とはいえ、天下のプリキュアEDの3Dですら、まだまだアニメ顔を360度どこから見ても成立する立体として再現することは困難ですから、無理な角度もあります。そこはご容赦ください。
頭の配置場所
頭はこれでOKですね。今度は頭の配置場所についてです。これは第三回で描きました胴体の胸郭上面のど真ん中に棒を立てて、それを載せる。で、終わります。球に入っていない棒は首になります、つまり、首の長さは頭球の大きさに関係し、これが人それぞれ、キャラそれぞれですので、棒の長さの数値を申し上げにくいところです。図では胸幅より少し長いぐらいのようですが、ここは是非皆さんで試していただいて、自分に合うバランスを見つけて頂きたいと思います。
さて、まっすぐ棒を立てるとなりますと、「まてデブメガネ!! 首は斜めについていると本に書いてあるぞ!!」と、思った方がいると思います。首の骨は斜めに伸びて、そこに頭がついていますからその解釈は正しいのですが、下図の様に、実際はそこまででもありません。それに、これは初心者向けの描き方の講座ですし、まっすぐ据え付けたあと、輪郭を変えた方が分かりやすいのです。
据え付けましたか? そしたら、球の中心から、胸郭背面の背骨に向かって線を引いておいてください(下左図)。おっと、この斜線は首の傾きではなく、肩を再現するものです。この素体は、傾斜した肩と、あまり傾斜しない首の二段仕立てになっています。さて、お次はこの斜線の頭球から出た部分の、三分の一あたりから肩の線を伸ばします。線の設置場所は胸郭背面のそれぞれの角です(下右図)。とはいえ、球から出た部分なんて正確に測れるものではありませんから、目分量となります。あるいは肩なんてキャラそれぞれですから、「肩を描いているんだ」と思いながら、線を引けば、もはや上の数値は気にしなくてよいでしょう。
肩が出来たら、こんどこそ首の描写です。とはいえ、今回は簡易的な首の描き方ですが。。複雑な機構を持つモノは応用概論で説明していきます。
さて、これで頭部のアタリは終わりました。
これからは、プラスアルファ、素体の調整についてです。
よりリアルな素体のために~素体の調整事始め
さて、これからは、より人体に似せていくために、素体を調整するという内容です。ただ、実際にはこの調整に関しては、「やってもやらなくてもいいレベル」です。何せ、アタリなのでそこまで人体に似せなくていいのです。アタリを描いた後、鏡や資料を見ながら描くというのがまっとうな方法ですし、こういう方法もあるんだなぁ、ぐらいのつもりで聞いておいてください。
1 太ももの調整
それでは、始めます。第三回の時に、脚の付け根の球は本来もっと手前についている、ということをお伝えしました。これについてはリアルな人体を描いてみましたので、人体と素体の違いをご確認ください。
OKでしょうか。後ろすぎる付け根球を前に出したい衝動に駆られるのですが、体に厚みがなくてなかなか難しく、それに現在の、膝、踝球との直列配置も捨てがたいものです。何せ、書くの楽ですからね。そこでちょっとした裏技を使います。「人体の太もも断面は楕円形なのに対し、素体は完全な円形」という相違点をちょいといじるだけでも、見た目にイイ感じになるのです。具体的には、球の一部を下図のような斜めの水滴形に成形することで、太ももを調整します。ニュアンスで自由に足パーツ配置し、複雑な輪郭線を描けるようになるまでは、これでいってみましょう。
このように調整するとなると、一見複雑に見えますが、実際の方法は意外なほど簡単です。
調整の方法はこの角(井桁)を描くだけです。特にこれに関しては、高さや角度なんか目分量で、それっぽく書ければOKです。もちろん歪みますが、それでも成りたちます。そうはいっても、難しいのではないかとお思いの方、実はこの角(井桁)は、「骨盤の元、ズレ直方体(第三回でやりましたね)」の底面と同じ高さにあります。ええ。やろうと思えば、その底面をちょっと横にずらすだけで出来てしまうのです。……でも、そこまでする必要もないですが。
では、それを描いたとして、これがどのような効果をもたらすか、それは焼餅型素体の説明後に、ご説明しましょう。
2 焼餅型素体
いきなり話は飛びますが、切り餅をご存知ですか? 関東の方は大体知っていると思うのですが、のし餅を直方体に切った餅です。想像してほしいのですが、あれを焼いていると、割れてプクッと膨れる前に、若干膨らんだ状態になります。あの「若干膨らんだ感」で素体を描くと、よりリアルに見えます。これを焼餅型素体と呼んでいるのです。
では、実際に焼餅型素体を見てみましょう。ちなみに、このやり方、四角にしか適応されませんので、焼餅型になるのは胴体だけです。
如何でしょうか。若干膨らまして描くだけで中々良い感じになりました。この描き方は、当然ながら、きちんと数値が取れずファジーになってしまうのですが、全体がそれっぽければ、数値なんてメチャクチャでいいのです。
ちなみに、この中で4ヶ所だけ、「膨らませて描く」という原則に例外を適応しているものがあります。それは、胸郭上面の前の角2つと、骨盤パーツの前の角2つです。
要は、「角を若干後ろに持って行く」というワンクッションがあった後、膨らませているのですね。描くのが難しい場合は、そのまま普通に膨らましてもかまいません。結局、誤差の範疇と言えばそれまでで、大した違いがないのです。
それから、分かりやすいようにこの4点を直線で再現した物も用意しておきました。……なんだか、本末転倒のような気もしますが。
ちなみに、図の説明にあるとおり、焼餅型素体に描かれていた胸の/\という線は、胸郭上面が膨らむことによってできる辺をかいていた、というわけですね。
さて、お待たせしました。ここで1の太ももを調整した効果、というのをお見せいたしましょう。直線の方が、結果が分かりやすいですからね。骨盤の調整と相まって、以下のようになりました。
効果を正確に示すため、直線のみで描きました。主な効果としては、骨盤のパンツ型の下に、台形を導けるようになったことです。そのままだと、脚の付け根球が後ろに後ずさっているので、斜めから見るとてきめんにお腹が突き出ているように見えていましたが、骨盤の広さを示すことで、それが若干緩和されるわけです。
ちなみに、脚にポーズがついた場合の描き方は、応用概論で説明いたします。
さて、以上でプラスアルファの部分は終わりです。いかがでしたでしょうか。このような素体の調整に関して、実地の方が分かりやすいものについては、応用概論で適宜説明していきます。
次回は一度休講を挟み、30日からの再開となります。次の「応用概論Ⅰ」からは、実際にイラストを仕上げていく、という講義になっていきます。それでは、また、次の授業でお会いしましょう。
【お絵かき講座】キャラ絵の描き方基礎~第五回素体基礎Ⅲ腕部
キャラ絵の描き方基礎(頭の固い人向け)第五回 素体基礎Ⅲ~腕部
素体基礎は広文メソッドの素体(アタリ)の描き方をお伝えするというものですが、今日が3回目。今回の内容は、腕の描き方です。おっと、素体が何なのか分からない方については第二回の講義録をご覧ください。
それでは、さっそく始めていきます。
今回の目標
さて、前回、前々回と同じく、最初に完成形をお見せしましょう。左図がスタートで右図がゴールです。なお、スペースの関係で脚の描写は省きます。
腕のパーツを把握しよう
腕の描き方は、第四回の脚部と同じくパーツを配置して、その間をつなぐ、という方法を取ります。パーツは簡単で、肩、肘、手首の三つからなり、今回は全てが球体です。(今回、掌はやりません)下図に大きさが示してありますが、あくまで目安です。個人の好みや、キャラクターの特徴で変化していきますから、参考値と考えて頂ければと思います。なお、この掌は記号ですから、「この形を描け」というものではありません。お好きなように描いてください。
パーツのつなぎ方
これらのパーツのつなぎ方も、脚部とほとんど同じです。球同士を接線で結んで、筒に嵌っている様に切り口を描く、ということです。肩と手首球はちょうど中間まで嵌りますが、肘パーツには、浅く3分の1ほどはまります。とはいえ、3分の1は重要な数値ではなく「だいたいこれくらい」という目安なので気にしないでください。分かりにくければ、肩や手首と同じように中間にしておいてもらってもかまいません。それから、筒の切り口は重要ですので是非、描いておいてください。
切り口が重要な理由は第四回でご説明しましたが、もう一度再掲しておきましょう。切り口で「角度と方向」が決まってしまうためです。
パーツの配置方法
さて、後はパーツを配置する場所ですが、腕は自由度が非常に高く、肩は別として、ほとんど「好きなところに置ける」という状態です。とは言え、何か基準となるものが必要ですから、自然に手をおろした時の図を出しておきましょう。これで肩の球の位置(&大きさ)と、腕の長さが分かると思います。
しかし、図示してみたものの、ポーズがついたキャラを描く場合、長さを正確にはかろうというのは無理です。ですから、自分の好みで描く方が建設的です。重要なのは上腕と前腕の長さの比で、肩の球まで入れると「上腕が少し長め」という事で、それは覚えておいてください。
さて、問題は実際の描き方ですが、予めポーズを決めていて、「ここにパーツを置きたい」と分かっている状態、つまり、今回の講座のように、「完成図」が分かっている状態だと、下図で示すように図形を描いて行けば、比較的簡単に場所を導くことが出来るでしょう。
ちなみに、ここらは応用概論でより詳しく行います。
……はてさて、困ってしまいました。上の図をもってゴールになってしまったのです。今回はこれでおしまい。と、言いたいところなのですが、さすがに時間があまり過ぎです。そこで、せっかくですから、ついでに「具体的イメージがない場合の、パーツ配置を考える便利な方法」をお教えしておきましょう。
TIPS パーツ配置を考える方法
それは「手首から描く」という方法なのですが、広文メソッド独自の方法ではなく、広く一般に流布している方法ですので、知っておられる方も多いと思います。
ともあれ、その方法を行うために、前提として「腕の可動範囲」を知っておきましょう。腕を伸ばした状態で腕が動く範囲は以下のとおりです。
図のとおり、肩からぐるっと半球が描ける、というまさに広大な範囲です。実際には腕は曲げられるので更に可動範囲は広がり、また、この半球内部のどこにでも掌(及び手首)が位置できます。
そう。掌、もしくは手首が重要なのです。「配置場所を知る便利な方法」とは、まず、この半球の中に手と手首を配置します。その後で、そこに手首が位置「できる」ように、肘と肩の場所を決めるのです。逆算するんですね。
例えば、物を持った絵などを描く時に、そして、そのような絵を見る時にまず気にするのは手の位置であって、肘の場所ではないですから、これは逆算と言っても理にかなった方法です。
なお、想像で位置を決めにくい場合、鏡の前でそのポーズをして頂くか、デッサン人形にそのポーズを取らせてみる事です。ちなみに、「関節(球)同士の距離は、見た目に短くなることはあっても、伸びることはない」ということを意識しておいてください。当たり前のことのように聞こえますが、この原則を守るだけでも、けっこう様になります。
肩は可動する
ところで、ここで皆さんにちょっと厄介な話をしないといけません。残念ながら、我々人間の肩は、縦横無尽に動きます。そんなイメージないけど、という方はその場でよいので、畳水練ではないですが、肩に意識をおいて平泳ぎの真似をしてみてください。肩が意外に動き回ることを感じ取れるかと思います。
つまり、この素体としては、「肩の球が動く」ということです。ちょいと図示をしてみました。普通の状態の位置から、上下前後に動きます。
さて、動くのは分かったとして、絵を描く時にはどういう場合に動くのか、が重要な問題ですね。……しかし、実は肩の可動とは「動かそうと思ったら意志に応じて動く、同じポーズでも力を入れるのと入れないのでは動きが違う」という厄介なものです。つまり、共通の理論がないのです。しかも感情を表すマンプ(漫画符号)としても使われるほどですから、ポーズを鏡の前でとったり、他の人の作例を見てマンプとしての表現を覚える、という方法が必要になってきます。残念なことにこの場合、デッサン人形は役に立ちません。。
ただ、特に力を入れていない状態で、肘が肩より上がっていなかったら、ここらのことはあまり考えないで良いでしょう。
まとめ~描く手順を考えよう
さて、今まで腕の描写方法を見てきました。本来、今回の講義は補助図形を描くとパーツの配置がしやすい、までであり、以降の「配置場所を考える、便利な方法」からは、応用編ですので、「ふーん、そうなのかー」程度で大丈夫です。補助図形の件も含めて、応用概論で詳しくやります。とはいえ、ちょっと試してみるのも良いかもしれません。
では、ここからは、その実践においての手順の話です。「描きたいポーズとパーツの位置が分かっている」場合においては、鏡やデッサン人形でポーズを確認しつつ、そこに図形を見出し、紙面にその図形(補助図形)を描く、という順序になるかと思います。
「パーツの配置場所のイメージがない」場合、さきほどの「配置の場所を決める方法」を用いて手首の位置を決める、というのが最初に来ます。その後、イメージで肘、肩の位置を描いてみて、違和感があったら鏡やデッサン人形を使って修正(上の補助図形も活用しましょう)、という手順が素直でしょう。まあ、鏡やデッサン人形はいつみてもいいのですが。
なお、上記二つはイラストや漫画を完成させる時を想定した手順です。落書きをする場合に、これらの手順は関係ありません。適当に、楽しく書くのが第一だと思います。
ちょっとした事~前腕は斜めについている
そして、最後にちょっとしたことを言って、今回の講義を終えましょう。前腕部の事なのですが、これは上腕に対してまっすぐついているのではなく、下の図のように斜めについています。
ただ、そうは言っても実際の描写の時にこれを意識することはあまりないと思います。想像で書いて変だと思ったら鏡を見て修正出来てしまうので。まあ、知識として知っておいてください。
それでは、今日の講義はこれまで。次回は16日、素体基礎の最終回、頭部+αでお会いしましょう。
【お絵かき講座】キャラ絵の描き方基礎~第四回素体基礎Ⅱ脚部
キャラ絵の描き方基礎(頭の固い人向け)第四回 素体基礎Ⅱ~脚部
前回は、広文メソッドの素体(アタリ)における、胴体の描き方をお伝えしました。今回は、それに脚を書き足すという内容です。おっと、素体が何なのか分からない方については第二回の講義録をご覧ください。
それでは、さっそく始めましょう。
足の部品を把握しよう
まずは、今回のスタートとゴールを把握しておきましょう。左がスタート、前回で学んだ胴体ですね。ここに、脚を書き足した右がゴールとなります。
OKですね。では、こんどは足に使われるパーツを並べてみましたので、ご覧ください。
いやはや、このレジュメを作るために、初めてパーツを測りました。ええ、実際には大きさなどは自由に決めて良いのですが、一応の目安があった方が良いということで。ですから、参考値と軽く受け止めておいてください。
さて、脚のパーツは、太ももの付け根と踝が球体、膝がカプセル状、足の甲が長球体となっています。なお、図には記載してませんが、踵の下に円盤を取り付けます。膝のパーツに関しては「何だこれ?」と、思われたかもしれませんが、球体が二つ重なって作られる、薬のカプセル状、というイメージをしてください(下図)。これは半径分が重なり、高さが直径の1・5倍です。めんどくさい方は、カプセルで覆うまでもなく、単に球を二つ重ねておけばよいでしょう。また、足の甲は実際には足の輪郭とは何のかかわりもない、「ここに足があるよ」というただの記号なので、適当に細長い楕円を描けば事足ります。それでも、何らかの描く時の目安が必要な場合は、長さが踝2、5個分の「タイ米」を付ける、とイメージすれば良いでしょう。ちょうどあの形です。
パーツのつなげ方
上でパーツを説明しましたが、脚の描き方としては、このパーツを配置し、その間を線でつなぐという方法を取ります(下図)。それから、球はどの角度から見てもそのままですが、カプセルの見た目は角度で変化する(当然ですが)ので注意してくださいね。
この時、この線が「球体をはめ込んだ筒である」というのを示すために、筒の切り口、球の嵌っている部分に線を引いてください。下図のコップと球のイメージです。実は、これがかなり重要です。
なぜ、この線が重要なのかと申しますと、これが、筒の向き、角度を示してしまうためなのです。下図を見て頂けると一目瞭然かと思います。この円弧を厳密に描く必要もありませんが、弧の向きがちぐはぐになってしまったら、「これってどっち向きなんだっけ?」と、下書きに起こす際に混乱しますので、ご注意ください。
これで、パーツ同士のつなぎ方は分かりましたね。ただ、皆さんはこう思っているはずです。「そのバーツをどこに配置するかが問題なんだ」と。
パースの原則の確認
ですが、ちょっとだけ待ってください。その前に、パースの話をしましょう。いえ、パースの作図法ではありませんので恐れる必要はありません。ちょっとした確認です。
絵画でよく使われるパース(一点・二点・三点透視図法)は、「パースがかかると、特殊な線以外、互いに平行な直線はいずれ一点に収束する」という性質を持っています。これだけ覚えておいてください。
以上。確認を終わります。ええ、これだけですよ。
配置場所を決める
さて、棒立ちポーズの場合の、各パーツの配置場所を決めます。この素体の場合は、棒立ちになると「太ももの付け根の球」と「膝」と「踝」のパーツの中心点は一直線に並びますから、まずは、ガイドとして付け根球の中心から垂直に補助線を下します。目測でやれる人は引かなくても問題ありません。
では、次に素体の平面図を見てください。ピンときた方もおられると思うのですが、胸郭の二分の一ラインから骨盤下端の距離、(骨盤下端と高さが同じ)付け根球中心から膝下までの距離、膝の真ん中から踝の真ん中までの距離が同じなのです。
これで、脚の長さが分かりますね。
さて、実際の作図方法は下図のようになります。2本の補助線の真ん中にもう一本の線を引き……これは股下の中央から伸ばしたラインになるわけですが、そこに基準となる「胸郭の二分の一ラインから骨盤下端の距離」を写し取っていくんですね。
この作図で注意することは、胴体の横線も含めて、横線は「いずれ一点に収束する(パースがかかっている)」と意識しておくことです。計5本(胴体3本、脚2本)も引いているわけですから、どれかの傾きが強く狂っていたら意外とすぐ分かります。もちろん精密性は必要ありません。違和感がなければそれでいいんですよ。
……ただ、これはちょっとめんどくさい方法です。正直、脚の長さなんて好き好きに書いていいんじゃないかと、私も思います。
ということで、下図をご覧ください。まず補助線を引きます。これは前の時と同じように目視で行ける人は描かなくても問題ありません。次に自分の好みで「膝の中心はここだろうな」という位置に、ざっくりと横線を引きます。続けて、太ももの長さ(付け根球中心~膝中央)より若干長めで、踝のための横線を引きます。これで出来上がりです。全部、目分量でするんですね。
これも同じように線の傾き(パース)には注意しないといけませんが、やはり違和感が強くなければOKです。
さて、後は踝の下に円盤を敷いてください。これが踵(かかと)となります。球と円の間には球半個分の間隔がありますが、ここに至っては、正確に距離を測るのはただの徒労です。空間が空いている、とイメージして描くだけで良いでしょう。また、円盤は踝と同じ直径ですので、「踝の球が地面に投影された感覚」で描くと描きやすいですよ。
お次はタイ米、もとい足の甲パーツです。先述したようにこれは記号なので特に重要視するパーツではありません。地面に置かれている感じで描いてください。露骨に違和感がない以上、問題ありません。向きは、一応足先を広げた感じにしておきましょうか。図のようにガイドを引くと、とても便利です。
ここまでくれば、あとは付け根、膝、踝、各パーツをつなげば完成です。つなげ方は上で説明しましたよね。
お疲れ様でした。
補足~脚の曲げ方
棒立ちポーズはこれで描けましたから、本来は終わりなのですが、脚の曲げ方の話をちょっとしてだけしておきましょう。脚にポーズを付けるのは応用概論でやるのですが、そこにいくまでに結構な時間が空きますから、その間、皆さんは独自に色んなポーズを試そうとするのではないかと思いますからね。
さて、脚を曲げる時に問題になるのが、膝のカプセルの“向き”です。球体ならばどう転がそうとも同じシルエットなのですが、カプセルはそうもいきません。長短がある以上、必然的に向きが出てきて、これをどの向きに描くのかで迷ってしまいます。
その、カプセルの向きですが、基本的に踝の方を向いています(下図)。
「よし分かったデブメガネ、じゃあ描こう。お前は用済みだ」という方はちょっとお待ちください。例外があるのです。というのも、膝パーツは太ももに対して、90度以上曲がらないという性質があります。正座をすると一番分かりやすいのですが、踝は付け根球に接しようかと言う所にありますけれど、膝パーツは90度の所で止まっています。
ところで、上の二つの作図例を見て、もやもやとした人もいるかと思います。「膝パーツへの筒の嵌り方がなんだか変だぞ、筒がパーツにもぐりこんでいるぞ」と。これは、これは、足の各パーツの説明で述べました「玉が二つ重なったカプセル状」というのを思い出していただければ理解できるかと思います。つまり、これは太ももと膝下の各筒が「カプセルの外側ではなく、中の球にはまっている」という状態なのです。
それから、ついでに言っておきますと、先ほどの正座の様に足を曲げると、絵としての見た目ではなく、実際に筒どうしが一部重なりあう場合がありますが、それは正常なことなので今のところは無視をしておいてください。間違っていません。下書きに起こすときにそこをやります。
さて、それでは今日の講義はこれまでです。次回は5月9日、「素体基礎~腕部」でお会いしましょう。
―――おっと、そうそう。
脚部の描き方、曲げ方を図と言葉で説明しましたが、これはやはり、実際に私が描いた作例を見てもらえば分かりやすいので、下にザックリとした作例を載せておきます。コレを描けるようになれという話ではありません。繰り返し言いますが、ポーズをつけるのは応用概論で行います。また、実にテキトーに描いているので、これを手本としてはなりません(重要)。イメージだけ掴んで頂ければと思います。基本は「パーツを配置し、つなげる」であり、その方法はまったく上で説明した通りです。
また、脚の線が曲線であり、足の甲パーツが違う事、上半身が第三回講義と一部違う事に気付かれる方がおられると思いますが、これは以降の講義でやるモノを、描いているだけなので気にしないでください。(私は慣れていますので一足飛びにそうしているだけです)
【お絵かき講座】キャラ絵の描き方基礎~第三回素体基礎Ⅰ胴体
キャラ絵の描き方基礎 第三回素体基礎Ⅰ~胴体
三回目にして、ようやく本題に入ります。今回からは絵を描く時の基礎であるアタリの描き方、広文メソッド版を紹介していきます。
始める前に
今回の講義、「素体基礎Ⅰ~胴体」はその名のとおり、素体の胴体を描く話です。おっと、素体が何か分からない方は、前回の講義録をご覧ください。
これから4回の素体基礎では、Ⅰ胴体 Ⅱ脚部 Ⅲ腕部 Ⅳ頭部+αという順番で学んでいきます。なぜ胴体からかと言えば、頭部から描くと、慣れていない方はそれに引きずられて描きにくくなるためです。もちろん、慣れればどこから書き始めてもかまいません。
それでは、胴体を描き始める前に、今から描く素体の全体像を提示しておきましょう(下図)。完成品を知らずにパーツを描くのはただの苦行ですからね。
最初は複雑なポーズではなく、このとおり、単純な棒立ちポーズから始めましょう。素体基礎が終わった後、だんだんと複雑なポーズに挑戦していきます。全体を把握しましたね。では、胴体を描いていきます。最初は、立方体を描くことから始まります。
〇胸郭の書き方
1直方体を描く
さて、上の図のようにまずは立方体を削り、奥行き3分の2の直方体を描きましょう。これが胴体の上部、胸郭(の大部分)のもとになります。ちなみに、要らない線を消す作業がかならずあるので、アナログ派は鉛筆かシャーペンで描いて下さいね。
ここで注意点が一つ。パースがかかっている上での3分の2ですから、定規は使えませんよ。目測でいきましょう。厳密でなくて結構です。アタリは精密さを競うものではありません。
ちなみに、慣れている人や、自信がある人は、最初の立方体をとばして、③の直方体から描き始めても問題ありません。私はそうしています。
2背中の傾斜を付ける
さて、お次は背面に傾斜を付けましょう。人間は直立すると、背中に傾斜がついています(下図)。それをシンプルにして再現する作図です。しかし、8分の1という数字は申し訳ありません(汗)。「背中をちょっと削るよ」の「ちょっと」を数量化するとこうなったのです。ちなみに、私が描くときはいつも目分量なので、測ることはありません。皆さんも慣れたら適当に描いてしまいましょう。
なお、背骨は重要ですから二重線にしました。もちろん、目立つ線であればなんでもいいですよ。
3正面の傾斜をつける
まずは、すぐ上の人体図をもう一度ご覧ください。胸郭の厚みは一定ではなく、前面の上部が傾斜しています。お次はこれを再現しましょう。
③の正中線というのは、体の真ん中を通る線のことです。人体を描くときは、これを一つのガイドとして使います。背骨と共に重要なので二重線にしておきました。
これで胸郭は出来上がりです。
4補助箱を設置する
胸郭から下の胴体の長さを決めたり、骨盤の大きさを決めたりする際に、描写の補助になる箱を描くと便利です。この箱を「補助箱」と呼んでいます。補助箱は、胸郭の底面をそのまま下に伸ばすイメージを持つと描きやすいです。なお、この補助箱の底面は、骨盤と接しています。
では、お次は骨盤に入ります。
〇骨盤の書き方
まずは、これから描く骨盤パーツをお見せしましょう(下図)。後ろにずれたパンツ型ですね。そして、この元になる図形は立方体を二つ並べた直方体です。
5骨盤の元となる直方体を描く
上図をご覧ください。この内、②は何を意味しているか分かりますか? 実はこれで骨盤の横幅を調整しているのです。正方形に成形すると、自動的に骨盤が広がるという仕掛けです。8分の1という微妙な数字の出どころはこれのせいなんですね。補助箱の幅のままだと、骨盤が大きくならないので、ここで大きくしています。
ちなみに、描こうとしている皆さんの中には、ここがうまく行かない方が多いのではないかと思います。ついでにいえば、「正方形にしようにも、すでに正方形っぽい……」というパターンが最も多いのではないかと思います。その場合は、「正方形にならないのを無視してちょっと幅を広げる」で良いかと思います。厳密性にこだわる必要なんかありません。私だってよく失敗してこうしています。なお、その場合、③で直方体を描こうとすると高さに迷われるかもしれませんが、高さは奥行きと同じにしておいてください。
6直方体をずらす
図のように、直方体が4分の1後ろにずれることにより、骨盤の傾斜を再現します。なお、慣れると①のような目印を打つ作業はほとんどせず、直に書くようになります。このパーツは許容値が特に大きく、多少ずれたり歪んだりしたところで特に問題を生じないので、気軽に描きましょう。(作図例も歪んでますしね。。)
7球を取り付ける
骨盤直方体の下に球を取り付けます。中心から三分の一と書いていますが、見当を付け辛ければ半分(二分の一)でもOKです。これは実際には骨盤のパーツではなく、太ももの付け根を表すパーツです。人体の「大転子」およびその周りの筋肉、の代わりとなるものです。ちなみに、実際にはもう少し手前に付くのですが、描きやすさからこの場所としました。ここは後の講義で補足します。
球の大きさは、「ズレる前の立方体」の内接球ぐらい。箱にぴったり収まる感覚です。分かりにくければ、ズラす前に立方体を、余白に写しとっておけば便利ですよ。ただ、あくまで一つの目安です。大きさにこだわる必要はありません。
なお、5の②で正方形にならず、結果、立方体になってない人でも、その箱に嵌る球ぐらいの大きさのイメージで描けばOKです。
ちなみに、設置場所も相まって、「潰れかけた箱から斜めにはじき出されそうな球」と、イメージすると描きやすいのですが、ここら辺は線がごちゃごちゃしていますから、線が重なるのを脳が嫌がって、円を上手く書けない場合が多いです。その場合は、中心点が分かっているのですから、コンパスを使う手があります。めんどくさい!!と思う頃には、フリーハンドで出来るようになっていますよ。
ちなみに、どうしても球の大きさをちゃんと知りたい!!という方には、下のような方法で直径を知ることが出来ます。あくまで近似値ですけどね。
ただ、私はこれを使ったことはありません。適当に描くからです。
8骨盤を完成させ、くびれの線を描く(完成)
さて、最後はズレ立方体×2を対角線で割ってパンツ型を作る、胸郭から下の背中の傾斜を再現、そして、くびれの線を描きます。背骨の線を変える(胸郭背面の傾斜が延長され、これも“く”の字に折れ曲がった線となる)と、背面左右のくびれの角は、その新しい背骨の折れた点から等距離になります。もとの背骨の線からではありませんのでご注意くださいね。ちなみに、腰のくびれに関しては皆さん一家言持っておられるでしょうから、細さや角度はお好みということでお願いします。
なお、背骨の折れ曲がる点の位置の目安がないと不安な方は、補助箱の高さの中間あたりにしておいてください。(ここらは自由なんですけどね)
※ちなみに、二分の一ラインから、背面の傾斜をただ延長するというのに替えて、より傾斜の強い新たな背骨を描くと、背骨のSラインが強調された感じになります。第2回でご紹介した標準素体はこちらの方ですね。
ともあれ、これで完成です。お疲れ様でした。
最後に
さて、ここで最初に戻って、あらためて説明を読みながら描いてみましょう、と言いたいところなのですが、ちょいとそれは億劫だという方には、作図例をなぞるというのも一つの手です。
それから、この作図方法、かなり面倒だなと思われた方もいるかと思いますが、これはものすごく丁寧に説明した状態です。この描き方は、慣れると色々な部分を端折り、適当にこなすようになりますから、作業量はそこまでなくなりますよ。
それでは、これで今日の授業は終わりです。如何でしたでしょうか。
この方法は、ほぼどんな角度からでも描ける原理です。素体基礎では、棒立ちポーズで学んでいますが、応用概論からは、この素体を使って、体をひねり、曲げ伸ばしする複雑なポーズなども描いていきます。
それでは、次回、5月2日「素体基礎Ⅱ~脚部」でお会いしましょう。
ところで―――
〇補足:どうしても骨盤の奥行きが薄くなりすぎる方の処方箋
本文中で言及した5の②の「骨盤上面がすでに正方形」より進んだ症状で、どうかいても骨盤の奥行きが薄くなる、正方形を通り越して横長だから、骨盤の幅を伸ばしてもどうにもならない、という方がおられるかと思います。おそらくその原因は、1:最初の胸郭直方体の奥行きが、すでに薄くなっている。2:背面の傾斜(8分の1削り)を、より削ってしまっている。のどちらか、もしくはその両方だと思われます。癖というのはなかなか抜けないものですから、その対処は、2の傾斜をやめることです。そして、胸郭直方体の上面に、逆に8分の1足して三角柱を足すような形にします。つまり、削るのではなくて、足すことで傾斜を付けるようにするわけですね。困ったら、試してみてください。
【お絵かき講座】キャラ絵の描き方基礎~第二回 アタリから始めよう
キャラ絵の描き方基礎 第二回 アタリから始めよう
さて、皆さんおはようございます。履修登録は済ませましたか? 大学の単位は必修とか必修選択とか分かりにくいと思いますが、取り逃すと一年お預けになりますから注意してくださいね。
アタリとは?
まあ、そういう話はおいておいて、今日の内容に入ります。みなさんは「色は塗らないで良いので、一枚の人物イラストを仕上げろ」と言われた時、どういう手順で描かれますか? いきなりペンの一発描きというアーティステックな方もいますが、一般的には「人体の目安となる簡単な下書きを描いて、それに肉付けしていくことで精密な下書きにし、ペンを入れる」という方法をとります。
この簡単な下書きのことを「アタリ」と言います。アメリカのゲーム会社の事ではないですよ。絵を描くという行為においては、少なくともこの講座においては、アタリこそが全ての基礎です。ですから、この講座もアタリの描き方から始まります。そして、アタリを描くという事は、人体をシンプルに描くということなのですが、棒人間ですませる人もいるものの、ちょうど、市販のデッサン人形ぐらいの単純さで描くのがメジャーです。
デッサン人形……使い方の分からない美術系道具第一位に輝くものですね。これはポーズを付けて遊ぶためのものではなく、本来は、絵を描くときに人体のバランスを確かめるためのものです。人体を単純化しているのは余計な情報に惑わされないためでもあります。まさに、アタリを三次元に起こした、というものなのです。
さて、アタリ=デッサン人形とするならば、アタリを描くということはデッサン人形をスケッチすることに他なりません。ですから例えば、描きたい構図どおりにデッサン人形を配置し、それを写真にとり、その写真を紙に写しとればアタリになるはずですが……実際、その方法も一つの正解なのです。ですが、この方法は少々迂遠でめんどくさいものです。自分の描きたい構図通りにパースを合わせるのも面倒ですし、ピントが合うように調節しないといけないし、写真を現像したり、パソコンに取り込んだりする手間が出てきます。それに、なにせあくまでアタリなのです。複雑な構図は別として、単純なものぐらいはもっと手軽にパパッと描きたいものです。
彼はなぜうまく描けるのか?
パパッと、というと、世の中には、デッサン人形を使わずに複雑な構図を想像だけで軽々と書いてのける人、いますよね。その方に「チクショー!! どうやって描いているんだ。コツを教えやがれ!!」と迫っても、大体の場合、彼は「コツなどはない!! 俺は血を吐くような努力の結果、この画力を習得したのだ。お前はその努力をしたのか?」と言い返されます。ぐぅの根もでない正論とはこの事。あ、いえ、そこまで性格は悪くないかもしれませんが。
ここで、考えてみましょう。彼は血の出る努力をして、何をしたのでしょうか?
その答えは、「頭の中にデッサン人形をねじ込んだ」です。
物理的にではありません。デッサン人形の色々なポーズを細部まで自由に想像できるという意味です。その頭の中のデッサン人形を紙面に投影し、アタリにおこして描いているのです。結局、デッサン人形は使っていて、それがエアデッサン人形となっているだけです。それを知らないと、ペン先からまるで魔法の様に人物がわき出てきたように見えますが、ようはこういう仕掛けです。これが、いわゆる「絵の上手い人」のやり方です。
では、初等学習者としては、「デッサン人形のねじ込み方」さえ分かれば……と考えるのは人情ですが、少々難しい話です。これは、煽られた通り「血を吐く努力」をして得られるものです。何せ、自分を3DCAD化するという行為です。膨大な計算を頭の中でしているようなもので、そうやすやすと残り13回の講義を聞くだけで出来るとは思いません。
そこで、広文メソッドでは頭の中に入れないこととします。頭の中で考えるのは、あくまでパーツ単位。それも丸や立法体などの単純なパーツです。複雑な計算を頭の中でする必要はありません。紙面上で考えましょう。せっかく紙があるのですから、わざわざ暗算をすることはないのです。
広文メソッドの利点とは
さて、おおよその理論は分かりましたでしょうか? 広文メソッドの利点は、誰でも立体的なアタリをかけるようになることです。現時点でピンと来なくても大丈夫ですよ。上述を何度も読み返して意味を完全に理解しようとする必要はありません。大したことは言っていませんし、講義が進んでいったら「あのデブメガネの言っていたことはこういう意味だったのか」と把握できます。
では、ここで、その紙面上で作り出すアタリをご紹介しましょう(下図)。美術用のデッサン人形とは結構形が違いますね? そこで、メソッドでは「素体」と呼称します。素体はフィギュア用語で、製作のもとになる人形のこと。もとになるだけあって、単純な形をしており、キャラ絵を描く人の中では、デッサン人形の代わりとして使う方が多いのです。デッサン人形代わりという事ですから、この名を援用します。
さて、素体をご覧いただきましたか? とりあえず、骨盤が大きめ。女性型の素体です。一番需要が多いですから。角ばった感じで全然女の子らしくない? それは許してください。あくまでアタリなのです。完成した絵がちゃんと女の子だったら、それでいいじゃないですか。それに、体のパーツ全ての割合をキリのいい数字にするために、結構無理をしたんですから。
ちなみに、気づかれた方も多いかもしれませんが、これは、実際の人体のバランスとは少し違います。一番分かりやすいのは頭がとにかく大きいという所でしょうか。というのも、この講座はアニメ・漫画風のキャラクターを描く講座なので、それ風のバランスになっています。みんな大好き日曜朝8時30分の女児向けアニメのキャラクターの比率を参考にさせていただきました。いわば、プリキュア算ですね。
次の講義からは、実際にこれを描いていくという作業に入ります。そうそう、あらかじめ言っておきますが、もちろんこれを「限界まで模写しろ!!目をつぶっても描けるようにしろ!!」と言うつもりはありません。それでは血を吐くような努力と同じです。この講座ではそれを課すことはありません。各パーツは球体か、直線か、立方体をあるキリの良い割合で切ったり足したりしたものですから、基本となる球や立方体をいじっていくことによって描いていきます。作図に近いイメージで捉えられるといいかもしれません。もちろん、やり方や割合も意識して覚える必要はありません。そういうのはこの講義録をプリントアウトでもしておいて、横に置いておけばいいですからね。当初は「やり方を見ながら描ける」で良いのです。
それでは、今回の講義はこれまで。次回から4回は素体基礎として、素体の描き方をご紹介します。最初は25日、「素体基礎Ⅰ~胴体」です。
【お絵かき講座】キャラ絵の描き方基礎~第一回 オリエンテーション
キャラ絵の描き方基礎 第一回 オリエンテーション
はじめに
始めましての方は始めまして。洞田創です。今期、館林大学洞田研究室(ココ)において、教養共通科目「キャラの絵の描き方基礎」の講座を(勝手に)開講することとなりました。いやはや、絵の描き方の講座とは半可通のくせにブチ上げましたが……まあ、一席おつきあいください。
講義の概略
内容は先に提示しておいたシラバスの通りです。週一回ずつ15回ありまして、一緒に絵の描き方を学んでいこうというものです。ゴールは漫画やアニメ風のキャラクターの全身像が書けるようになる、ということで、対象は初等学習者ということになっていますが、多少の基本は身に着けていることが前提です。
まあ、とはいっても、大したことではありません。多少の基本とは、1:ぐるっと円がかける。2:立方体(サイコロ)がそれなりにかける、という状態を指します。厳密にという話ではないですし、これをペンで一発描きしろという話でもありません。書いては消し書いては消しを何度も繰り返しても、それっぽいものがかければOKです。
学習方法ですが、基本はこの記事を読む、ということです。あと、私が実際に書いてみましょう、と時々言いますので、興が乗ればやってみれば良いと思います。
なお、この講義では種々ある教え方の中で、不肖私の開発した広文メソッドという方法を使います。
ところで、世間一般の習いごとのように、絵でも上達の過程というものがありますが、初等学習者の皆さんの中には、自分がどのくらいの上達程度なのか分からない、どのように進んでいくかよく分からない、という方も多いでしょうから、ここで、世に言われる一般的な過程を簡単にお伝えしておきましょう。
- まず、第一は「一方向からの顔、またはバストアップ(胸から上)が描ける」です。漫画を真似してみて、小中学生の頃にこれが描けるようになる、という人が多いと聞いています。
- そして、これから発達すると必然的に胸から下も書き足そうとしますから、次の段階は「一方向からの全身像が描ける(立ち絵)」となります。ただ、この段階は全身像と言っても棒立ちか、それにちょっと動きがついただけの平面的な絵になります。ですから、しばらくすると、なんか違うな……と思えてきて、あ、立体的に書かなきゃならないんだ、と気づきます。
- そこで数々の挫折を得て、第三段階が「ある程度の簡単な構図で、立体的に全身像が描ける」ということになります。
- 第四段階はこれを素直に発達させ、「ある程度複雑な物でも、立体的に描ける」となります。
さて、皆さんはどこに位置しているでしょうか? 実は、二と三の間というのが、かなりの難所で、ここを超えるのが非常に難しくなっています。ここでの右往左往で数年たったり、挫折した人間の数は計り知れない……というと怖がらせてしまいますが、あながち誇張した話ではありません。
この講座は一、二の方を対象にしまして、何とか難所を超えて三にたどり着いてもらおう、というものです。先に述べました広文メソッドはそのために作られた道しるべ、地図、もしくはコンパスみたいなものです。
メソッドの特徴は何といっても「ほとんど数値化されている」という点です。なるべく理詰めで説明し、ボブ・ロス氏のように「ね、簡単でしょう」みたいなことを言わないで行きたいと思います。
オリエンテーション
では、講義の概略をお話ししたところで、ちょっと思い出話を始めましょう。大体、どんな講座も第一回は教員の思い出話です。
ヲタクなら……一度はアニメに出てくるキャラクターを描いてみたい、とか、もしくは漫画を描いてみたい、と願望を抱く物と思いますが、私はヲタ趣味に目覚めるのが遅く、絵を描いてみようと思ったのは、大学生の時でした。
この場合、順当なのはサークルや研究会に属することなのですが、大学にはいわゆる漫研のサークルはあったものの、田舎から出てきたばかりの純朴な私は、サークル棟がタバコ臭くて近寄れず、加えて人見知りでしたから、結局、入会することはありませんでした。そして、今ほどネットが身近ではありませんでしたから、頼みの綱は本屋のハウツーコーナーにおいてある教本で、結局、キャラ絵はほとんど独学でやるはめになってしまったのです。
そして、この教本というのが……実に分かりにくいもので、教本なのに一枚の作例を見せて、「考えるな感じるんだ」式でしたので、「ここの比率は何対何、何センチ線を引けばいいのか教えてくれよ(怒」と教本を投げ出すことがしばしばでした。生来、私は相当に頭が固いので、「手本の割合を計って、それ通りに描けばよいのだ」と変なことを思い込み、それで結局、物差しで教本の例示の絵を計って各部分の割合を調べ……などというとアンリ・ルソーのような笑い話ですが、これは本当の話です。
かくして、そうしたこうした試行錯誤の果てにできたのが、先ほどから申し上げている広文メソッドという訳です。これは上でも言及しましたが、どこにどれだけの線を引けばいいか数値化されている、というモノで、名前は大学と学部が元です。協力者がみな同じ学部だったのです。ヲタ仲間とも言いますね。
うすうす分かってきたかと思いますが、この講座の「頭の固い人向け」というのは「固い頭を柔らかくする」講座という意味ではありません。柔らかくしたい方は『脳の右側で描け』(ベティ・エドワーズ 河出書房新社 2013)を読んで頂けると、需要が満たせると思います。この講座の目的は、エドワーズ女史の向こうを張って、「頭の固い人が頭の固いままでも、何とか絵を描くことができるようにする」いわば「脳の左側で描く」というような物なのです。実に愚かですね。
さて、次回の講義の前に、上で申しあげた立方体(サイコロ)の事を若干補足しておかなければなりません。この講座を見に来る方は、ほとんど出来ると思うのですが、この立方体とは、中学高校の時の数学の作図のようなもの(下左図)ではなく、奥が縮んでいるいわゆる「パースがかかっている」立方体(下右図)です。ああ、もちろん、パースなんて、消失点を決めたりして厳密に製図する必要はありません。見た目がそれっぽければ大丈夫です。違和感がなければ、いや多少あってもかまいませんが、かければいいのです。この立方体に関してはなるべくいろんな角度やパースで描けるようになってほしいと思います。不安な方は空いた時間にチラシの裏にでも練習されると良いでしょう。
それでは、第一回はここで終わります。次回(18日)は「アタリからはじめよう」です。