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東証システム障害で何が起こったのか、15年分の苦闘総ざらい

 東京証券取引所は2019年11月5日、株式売買システム「arrowhead(アローヘッド)」を刷新した。同日11時半現在、システムは問題なく動いており正常に取引できている。

 刷新は2015年以来4年ぶり、2回めだ。2010年に初代arrowheadを稼働させてから3代目となる。新システムでは注文を受信してから応答を返すまでの時間を従来の300マイクロ秒から200マイクロ秒に縮めた(マイクロは100万分の1)。専用システムを使って短時間に大量の注文を繰り返す高速取引が増えており、マイクロ秒レベルの処理時間に注文が集中しても処理性能や信頼性を確保する狙いがある。

東京証券取引所の外観
東京証券取引所の外観
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アーキテクチャーを維持したまま高速化

 arrowheadは取引参加者から注文を受け付ける参加者ゲートウエイ(GW)、注文の「付合せ(マッチング)」を担うトレーディングサーバー、相場情報を外部に配信する情報配信GWなどから成る。

 刷新したシステムには富士通製のサーバー「PRIMERGY」を約400台使っている。初代arrowheadには主に大型サーバー「PRIMEQUEST」を使っていたが、1度目の刷新で全体の約9割を「PRIMERGY」に置き換えた。今回の刷新で「PRIMERGY」のみとなった。

 「基本的なアーキテクチャーを変えずに性能向上を図った」(arrowheadの開発を担当した富士通の田中満第一システム事業本部デジタルビジネス事業部シニアマネージャー)。トレーディングに関わるデータ処理をサーバーのメモリー上で完結させたり、サーバーを三重化することで最新のデータを確実に保持できるようにしたりする仕組みを引き継いだ。

arrowheadのシステム概要
arrowheadのシステム概要
(出所:東京証券取引所)
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arrowhead刷新における主な改善点
改善点概要
処理能力の向上・スループット性能の改善で注文集中時の安定稼働性能を向上。注文応答時間を300マイクロ秒から200マイクロ秒に
・投資家や情報ベンダー向けの情報配信時間を1000マイクロ秒から500マイクロ秒に
耐障害性の強化・仮想サーバーのグルーピング機能を追加。複数の仮想サーバーを併用するユーザーに対して、サーバー単位だけでなくグループ単位で注文抑止や取り消しといった措置が可能に
・業務系と運用系のネットワークを分離して、障害発生時の影響範囲を局所化
・障害が起きた機器の電源を遠隔からも切れるようにして業務継続性を向上
ユーザーテスト環境の充実・原則毎営業日の早朝や夜間もユーザーテストが可能な環境を用意