第7話 冒険者になる
リノのお姉さんミーニャを治して二人の信頼を勝ち取った次の日。
朝からリノがミーニャを連れて宿屋へとやってきた。
元気いっぱいの満面の笑みで挨拶してくる。端正な顔立ちは朝日を浴びて輝いて見えた。
「おはようございます、ラースさん!」
「ラース、おはよう」
「ああ、おはよう。リノ、ミーニャ。来てくれてちょうど良かった」
「何するんですか?」
「あれから考えたんだけど、やっぱり冒険者になろうかと思ってね。ダンジョンに潜るならミーニャとパーティー組んだ方が何かと便利だし、身分証代わりにもなるし」
ミーニャが黒髪を揺らして頷いた。
「それがいい。私が口利きすれば、ラースは冒険者になれる」
「ありがとう、ミーニャ」
「さすが、お姉ちゃんですっ」
「じゃあ、さっそく行こうか」
「ん」
「あたしは、せっかく今月末までみかじめ料払ってるので、ゴミ漁りに行ってきますねっ!」
笑顔で言うリノと別れて、僕とミーニャは冒険者ギルドへ向かった。
◇ ◇ ◇
大通りにある、白壁が美しい冒険者ギルド。
僕はミーニャを連れて中へと入った。
受付の女性が、ちらっと僕らを見て手元の書類に目を戻す。
そして、はっと目を見開いて顔を上げた。僕の後ろを二度見する。
「えっ!?
その反応に僕は驚いた。
――ミーニャは二つ名を持つほどの実力者だったらしい。
ミーニャは背筋を伸ばして猫耳をピピっと動かすと、ツンと澄ました顔で言う。
「そう。体が治ったから、また来た」
「あ、はい! どうぞこちらへ! ――今日はどういった要件で?」
僕はカウンターの前まで行った。
「今日は、冒険者になりに来ました」
「冒険者になる場合、養成所で訓練を積んでから試験を受けるか、高ランク者の推薦が必要ですが……登録料は5000カルスです」
「ん。私が推薦する。すでにラースは冒険者としてやっていける実力がある」
「わ、わかりましたミーニャさん! すぐに用意しますね」
受付の女性は、慌てつつ奥へと向かった。部屋の奥の偉そうな人に話しかけつつ、水晶玉やカードを用意していく。
一方ミーニャは、ギルドの奥にいる冒険者を黒い瞳でじっと見ている。
なんとなく、ミーニャの引き締まった肢体から放たれる冷たい殺気が感じ取れた。
僕は、そうっと小声で尋ねる。
「どうしたの、ミーニャ?」
「ん。奴らがいる。不愉快」
ミーニャの視線をたどって、僕は部屋の奥を見た。
ギルドの奥は酒場のようになっており、そこで酒を飲んでいる男たちがいた。
僕の体と比べて何倍も大きな男たち。胸板が厚く盛り上がっている。
見ただけで屈強な、歴戦の戦士と見て取れた。
酒の入ったコップを片手に持ちつつ、大きな声で騒いでいる。
そっと小声で尋ねる。
「あいつらが、ミーニャを痛めつけたの?」
「そう。……やられたらやり返す」
「うん……その時は僕も手伝うよ。でも、人目につかないところでね」
「わかってる」
ミーニャは黒い尻尾をピーンと立てて頷いた。
受付の女性が戻って来る。
カウンターに水晶玉を置いた。
「では、こちらを軽く握ってください。冒険者カードにステータスを書き込みますので」
「はい」
僕は素直に水晶玉を握った。かすかに清浄な青い光を放った。
そしてカードに書き込まれた。
女性がカードを渡してくる。
「はい、登録できましたので、カードをお渡しします。こちらは身分証にもなるので、なくさないようにしてください」
「わかりました」
「では5000カルス、お願いします」
「はい」
僕は金貨5枚を渡してから、カードを受け取った。
カードにはいろいろな数値やスキルが書かれていた。
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【ステータス】
名 前:ラース 性 別:男
年 齢:17 種 族:人間
天 職:無職
職 業:冒険者:Lv1(E)
【パラメーター】(LvUP時、全+0.1)
筋 力:11 敏 捷:13
魔 力:$3#4 知 識:09
幸 運:=8
生命力:48 精神力:E7%&
攻撃力:150 防御力:210
魔攻力:W!=% 魔防力:?~K*
【戦闘スキル】
短剣捌きLv1:短剣全般を扱うスキル。切る、枝を払う、などがうまくなる。(熟練度:100/100)
【補助スキル】
治療知識Lv1:怪我、骨折、病気の治療方法を判断する。(熟練度:100/100)
逃走Lv1:危険な対象から逃げ出す。(熟練度:100/100)
MS%W16:おぃくjhytgfれdwsくぁ(熟練度I/0)
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僕はカードを見ながら首をひねる。
「EはEランクってことで、レベルアップした時には能力値が+0.1かぁ。弱い……ん?」
なんだか、幾つかの表記がおかしかった。
よくわからないので女性に尋ねる。
「あの……表記が変なんですけど」
「登録失敗したかしら? あー、ひょっとして魔法使えない職業なのに無理に魔法使ってるんでは? 表記おかしくなるんですよ――ちょっとここでは直せないので、しばらくはそのカードで我慢してください。通常の使用はできますので」
「はぁ。わかりました」
――ていうか、僕の天職って無職だったんだ。村人ですらないなんて。
無職ってあれだよね? 職がない人のことだよね?
そりゃいろいろ頑張っても、無駄なはずだよ。
初級のヒールですらたくさんの時間かかったうえに、いまだ飛ばせないし。
やれやれだ。
僕がカードを見て気落ちしていると、ミーニャが傍へ来た。
「じゃあラース。さっそくダンジョンへ行く?」
「うん、お願いするよ」
「じゃあ、パーティー組む――お願い」
ミーニャは受付の女性にカードを渡した。
女性は二人のカードを重ね合わせて、プレス機のようなものに挟んだ。
ガチャンと音がしてカードにパーティーが記入された。
パーティー効果のためか、僕はミーニャのいる方向がわかるようになった。
それから僕はミーニャに連れられて街の外の丘にあるダンジョンへ向かった。
彼女は顎をツンと上げて、堂々と大通りを歩く。後ろから見ていると、長い尻尾がゆらりゆらりと揺れて、強者の雰囲気を漂わせていた。
ブクマありがとうございます!
次話は明日更新
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