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極めたヒールがすべてを癒す!~村で無用になった僕は、 拾ったゴミを激レアアイテムに修繕して成り上がる!~【書籍化決定!】 作者:藤七郎は疲労困憊
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第6話 猫獣人ミーニャ

 夕暮れ時の街。

 リノのお姉さんを治すため、僕はスラム街へとやってきた。

 前を歩いて案内するのは、ぼろぼろの服を着た金髪の美少女リノ。


 時々リノが笑顔で振り返っては、青い瞳で僕を見てくる。


「迷子にならないでくださいね。あと建物近くは歩かないようにしてくださいね」


「ん? どうして?」


「悪い人たちは、お金持ってそうな人を建物の陰に引きずり込んで奪おうとしますから」


「マジで……うん、気を付けるよ」


 僕は建物と建物の間の細い路地を見ながら答えた。



 そしていくつかの小道を曲がって、ぼろぼろの小屋へ来た。

 リノが中へと入っていく。僕も後に続いた。


 中は一部屋しかなかった。

 部屋の奥に藁が敷かれており、やせ細った女性がシーツを被って寝ていた。

 ――が、その姿を見たとたん、僕は驚いた。


「えっ!? 猫耳?」


「はい。お姉ちゃんは猫獣人です。ミーニャって言います」


 僕らの声に、ミーニャが薄目を開けた。

 黒い瞳に黒い髪。頭の上に尖った猫耳がぴょこっと立っている。


 ――リノが人間なので、お姉さんもてっきり人間だと思っていた。

 というか助けてくれたお姉さんなら、血がつながってないのだから種族が違っていても当然か。



 治療するためにミーニャへ近づく。

 彼女は無表情な顔で僕を見つめる。感情が読みにくいけれど、長い睫毛は怯えるように震えていた。


「なに……?」


「心配しないで。たぶん治るから――ヒール」


 ミーニャの額に手を当てて唱えると、彼女の身体が光った。

 そして治った。

 体つきまで、少しふっくらした気がした。



 僕はシーツを取りつつ、彼女を起こす。


「さあ、もう大丈夫」


「え……っ。私……動ける?」


 ミーニャは淡々とした口調で自身の身体を眺めた。お尻から出ている黒くて長い尻尾が、ふわりと揺れた。

 感情表現が苦手な人なのかな、と 少し思った。


 リノが目に涙を浮かべながら、笑顔でミーニャに飛びついた。


「お姉ちゃぁぁんっ!」


「リノも、元気……どうして?」


「あのね、あのね! ラースさんが治してくれたのっ」


 ミーニャはリノの背中を撫でつつ、丸くて大きな黒い瞳で僕を見上げた。


「あなたが、ラース?」


「うん、治せてよかったよ……悪化する可能性もあったから、少し怖かったけど」


「尻尾まで治ってる……ラース、ありがとう」


 ミーニャは、ぺこっと頭を下げた。猫耳が嬉しそうにピッピッと跳ねた。

 リノの泣き声は狭い小屋の中に響き続けた。



 日が落ちて夜の闇が広がる頃。

 ようやくリノが泣き止んだ。

 涙を拭いながら笑顔になる。


「ラースさん、ありがとうございました。もう、あたしはラースさんのためならなんでもしますっ」


「ありがと。じゃあ、これからも街の案内をよろしくってことで」


「はいっ! 任せてくださいっ!」



 ミーニャが首を傾げた。肩で切り揃えた黒髪がさらっと流れる。


「ラースは冒険者?」


「いや、違うよ。僕は性能の悪いヒールしかできないから、なんとかお金を稼ぐ方法を見つけたくって」


「そう……じゃあ、見つかるまで私が養う」


「え? いいの?」


「体を治してくれたお礼。私は、これでも双剣士のBランク冒険者。……体が動くならダンジョンに潜って稼げる」


 ミーニャが黒い尻尾をゆらりと動かしつつ、淡々と言った。でも、その声はどこかしら自信に満ちていた。

 リノが心配そうに眉を寄せた。


「でも……また冒険者のごろつきに絡まれるかも……」


「次は絶対、後れを取らない」


 僕は不思議に思って尋ねた。


「でもBランク冒険者って、かなり強いんでしょ? それでも負けたんだ?」


「双剣士は素早さ重視。そのため、羽のように薄い刃の剣を使う。質量のある斧やメイス、またはソードブレイカーを使われたら剣を壊されてしまう。不意を突かれて壊されて、どうにもならなかった」


「なるほど……だったら、僕が一緒に行動した方がいいかも」


「ラースが戦う?」


「いや、僕は戦闘スキルは何もないけど。治すことならできる……壊れた剣は?」



 リノが立ち上がって部屋の隅に駆けていき、すぐに戻ってきた。


「これですっ」


 根元から折れた細身の剣を二本、手に持っていた。刃が反っている曲刀だった。


 受け取ると、僕は折れた部分繋げるように両手で持つ。


「――ヒール」


 僕の手が光り、剣もまた光った。


 そして、剣は二本とも繋がって、新品同様の輝きを取り戻した。

 ミーニャが目を見開く。


「そ、そんな……」


「信じられない! すごいです、ラースさん!」


「そうかな……ただのヒールだよ」


 ミーニャは剣を手にすると、眼前にかざして刀身を見た。


「刃こぼれまで治ってる……というか、元の剣より切れ味が増してる? すごい。ラースすごい」


 尻尾を嬉しそうにパタパタ動かしながら大きな瞳でじっと見てきた。


 ――そこまで褒められると、なんだか照れる。

 初級でしかない、たいしたことのない回復魔法なのに。



 僕は頭を掻きつつ言った。少し頬が熱い。


「ううん、役に立てたなら嬉しいよ」


「ラースさんほど世の役に立つ人はいないと思いますっ!」


「ありがと……自分が生きることすら苦労してるけどね」


「それは……あたしができることならなんでもしますからっ。何か手伝えることは?」


「あっ、でも……お金を稼ぐ方法なんだけど。リノが服を売ったってことで気付いたんだ。今の感じ――ぼろや中古を安く手に入れて、ヒールで治してから売ったらどうかな?」


「それいいですねっ! たくさんお金儲けできると思いますっ!」


 リノが金髪を揺らして前のめりになって言った。

 ミーニャも黒髪を揺らして頷く。



「ん。それだったら、高く売れるごみを拾って来ればいい」


「ゴミ山以外にある?」


「ダンジョンの中では、冒険者は武器が壊れたら捨てている。壊れた武器を持って帰る余裕はないから」


「なるほど。それもよさそうだ。……さっきまで割と稼ぐ方法が見つからなくて落ち込んでたんだけど……リノとミーニャのおかげで希望が持てたよ」


 僕が笑顔で言うと、リノが胸の前で拳をちっちゃく振って言った。


「違います! ラースさんがすごいんですっ!」


「ん。たぶん、自分の可能性に気付いてないだけ。あなたはすごい」


 二人が真剣な顔をして褒めてくれたので、僕は照れるしかなかった。


「ありがとう。頑張ってみるよ――って、だいぶ暗くなっちゃった。宿屋まで案内してもらえる?」


「はいっ!」


「私も行く」


 ミーニャが黒い尻尾をゆらりと動かして立ち上がった。意外と大きな胸が服を押し上げて揺れる。

 こうして僕はリノの案内で、ミーニャと一緒に宿屋へ帰ったのだった。


ブクマありがとうございます。


次話は夜更新。

→第7話 冒険者になる

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