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極めたヒールがすべてを癒す!~村で無用になった僕は、 拾ったゴミを激レアアイテムに修繕して成り上がる!~【書籍化決定!】 作者:藤七郎は疲労困憊
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第5話 仕事失敗とリノのお願い

本日2話目。


 地図を見ながらダンジョンへ向かう。

 途中、雑貨屋で大きな紙と太い筆、それにインクを購入した。


 街を出て、近所の丘に向かう。

 丘の中腹に、黒々とした穴が開いていた。

 ダンジョンの入り口だった。入り口横には見張りの衛兵が立っている。


 僕は入り口傍へ来ると、紙に筆で『即時回復! ヒール屋』と書いて広げて持った。

 冒険者が何組も通り過ぎていく。

 出てきたパーティーは僕をちらっと見ただけで去っていく。



 何時間待っても声はかからなかった。 

 すると、槍を持った衛兵が話しかけてきた。


「お前、さっきからなにやってんだ?」


「ヒールで回復してお金を稼ぎたいと思いまして」


「無駄だろ。そりゃダンジョン最下層でやるなら話は別だが、外に出れたのなら街に帰って治療受ければいいじゃねぇか」


「ですよね~」


 ――だめか。

 パーティーの要である聖職者系が戦闘不能に陥った場合に、僕のヒールが役立つかと思ったけど。

 どうやら冒険者たちは聖職系がダウンした事態に備えて、薬草やポーションを用意しているようだった。



 とうとう日が暮れ始めたので、失敗を認めるしかなかった。

 ――別の方法を探さないと。

 こんなんで、生きていけるのかな……。

 僕は紙を折りたたむと肩を落としながら、すごすごと街へ戻った。


       ◇  ◇  ◇


 無収入のまま、夕日に赤く染まる街の大通りを歩いた。

 足取りが重い。将来に希望が見えない。

 しかもステラの宿屋の場所までわからなくなってしまった。


 ――僕はもう、街では生きていけないな。

 本格的に、どこか山の中で自給自足の生活を送るしかなさそうだ。

 どんどん気持ちが暗い方へ傾いていき、僕はますます背中を丸めて地面だけ見て歩いた。



 ――と。

 道の向こうからリノが手を振ってやってきた。


「ラースさぁぁん!」


 夕日に金髪がきらめく。屈託のない高く澄んだ声に少し心が軽くなる。

 ただ服はまたぼろぼろになっていた。


「こんばんは、リノ――って、あれ? 服がボロボロに」


「あっ、ごめんなさい……あの服、売っちゃいました」


「えっ、なんで?」



 リノはすまなそうに顔を伏せる。


「病気のお姉ちゃんのために、薬を買ってあげたくて……あと、綺麗な服着てると、男の人にたくさん声かけられるようになって……それが怖くて……」


「なるほど、リノは可愛いし、家族のためなら仕方ないよね。それでいいと思うよ……てか、髪の色も変わった?」


「はい! 頭洗ったらキラキラになりました! これもラースさんのおかげです!」


「いやいや、色までは変わらないよ……あ~、目が見えるようになって身の回りのことが自分でできるようになったんだね」


「はいっ!」


 リノは笑顔で頷いた。

 睫毛の長い青い瞳と、白い頬にかかる金髪が高貴なまでに可愛い。


 でも、と思う。

 ――ということは、前に会ったときの明るい茶髪は汚れだったのか。

 抱き着かれて良かったのだろうか。

 まあ、めっちゃ可愛いからいいか。



 無言のまま考えていると、リノが可愛く小首をかしげた。


「それで、ラースさんは何をしていたんですか?」


「仕事をしてたんだけど、うまくいかなくてね。――あと、宿の場所がまたわからなくなった」


「あはっ! またあたしが案内しますっ!」


 屈託のない笑顔で、元気に応えてくれた。

 そんな彼女の明るさが嬉しくて、つい思ったことを口にした。


「ありがと……これは、しばらくリノにいてもらった方がいいかなぁ?」


「え?」


「しばらく僕専属の街ガイドになってくれない? お金は払うからさ」


「そんな! 治してもらったのに、お金までなんて!」


「いや、でも。お金は必要でしょ? お姉さん、病気みたいだし。僕は病気は治せないからね」


 ――正確には半分は治せたのだけど。

 病気の人にヒールを唱えた場合、なぜか全快する人と、容体が悪化する人がいた。

 だから病気の人にはヒールを唱えないようにしていた。


 僕の言葉にリノはうつむいた。幼くも整った顔立ちに暗い影が差す。


「はい……お姉ちゃんはあたしをかばったばっかりに、寝たきりに……」


「かばった?」


「はい。強い冒険者だったんですけど、あたしがひどい目を受けてるところを助けてくれて、それで……」


 リノが言うには、ごろつきに絡まれて暴力を振るわれていたところを冒険者のお姉さんに助けられたそうだ。

 その結果、お姉さんはごろつきに目を付けられて集団リンチされたらしい。

 それ以来、病気になって寝たきりだそうだ。



 ――が。

 僕は考えながら言った。


「怪我が原因の病気? それだったら治せるかも?」


「本当ですか!? ……あの、それで」


 リノは言いづらそうに胸の前で、もじもじと指を合わせた。

 その仕草が可愛くて、僕は思わず笑ってしまう。


「いいっていいって。治してほしいんでしょ? お金はいらないよ。別に減るもんじゃないから、お姉さんを治してあげるよ――家はどこ?」


「わあっ! 本当にありがとうございますっ! ラースさんは神様みたいな人です! ――こっちです!」


 リノは先に立って軽やかな足取りで歩き始めた。

 僕はそのあとをついて石畳を歩いていく。



 内心、少し考える。

 ちょっとサービスしすぎかな、と。


 でも、リノのおかげで僕は新しい商売の可能性に気が付いていた。

 ――リノと知り合えたおかげだ。

 天涯孤独の身である僕は、この出会いを大切にしようと思った。


次話は明日更新

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