第3話 運命の出会い
村を出てから一週間後。
森を抜けた僕はいくつかの村や町を通り過ぎて、近隣では一番大きな街へとやってきた。
大きな川沿いにあって、高い外壁に囲まれている。
この街は周辺の村々から農作物、材木、鉱石、民芸品などを買い集めては、川船に乗せて遠方へと運んでいた。
そのため、通りには商人が多く行き交っていた。
また近くの丘にダンジョンがあって、冒険者が日夜探検していた。
冒険者ギルドもあるし、武器屋防具屋、魔法屋、薬屋などが繁盛している。
大通りは多くの人が行き交い、商店からは呼び込みの声が絶えない。
村から出てきた僕としては、目を回しそうなほど賑やかに思えた。
というか、人の多さが怖いというか、気後れする感じ。
初めての体験であり感覚。
慣れていかないとダメなんだろうけど、大丈夫かな……。
大通りの人込みを避けつつ、僕は裏路地へと入っていく。
いちおう村の人に街のことは聞いていたので、安く泊まれる宿は教えてもらっていた。
ただ街が予想以上に広く、また石造りの高い建物が多くて目的地が見えない。
たぶん少し迷子になっていた。
裏路地の細い道まで石畳が敷かれていることに驚きつつ、辺りをきょろきょろ眺めながら宿を探していく。
しかし、どんどん荒れた街並みの方へと迷い込んでいった。
汚い家や廃屋のような小屋がある。でも人が住んでいる。
たぶん、スラム街ってやつだ。
すると、スラム街の端と街壁の間の場所へ来た。
壁に沿った縦長の広場には、小さな山がいくつもできている。
よくみると魚や豚の骨や野菜くず、はたまた砕けた板や破れた布などがあった。風が吹くと埃と共に紙の破片が舞う。
どうやら街のゴミ捨て場のようだった。
僕は珍しくてゴミの山をしばらく眺めていた。
――村では破損ゴミは徹底的に利用する(板や布だってたきつけに使える)し、錆びた釘や折れたナイフだって溶かして包丁などに作り変える。
逆に生ごみは魔物や動物を呼ぶのですぐ燃やして埋めるか、または砕いて肥料として畑に撒く。
村の暮らしは貧しいからこそ廃棄物の徹底利用だった。
この街はどうやら裕福らしい。
まだ使えそうなものもゴミとして捨てられていた。
それを狙ってか、ぼろぼろの服を着た子供たちがゴミの山に登っている。
金属くずを拾う子や、布切れを拾う子。まだ肉の付いた骨や、食べかけのパンを拾う子がいた。
拾ってはつぎはぎだらけの袋に入れていく。
ゴミを漁って生きるなんて可哀そうに、と少し同情した。
でも、すぐに明日は我が身だと気が付いた。
――性能の悪いヒールしか使えない僕だって、仕事にありつけなければゴミ漁りするしか……。
第一、初日で迷子になってる自分に街で暮らしていけるのだろうか。
そんな、憂鬱な気分で眺めている時だった。
子供たちの間で争いが起こった。
杖を突いて足を引きずっていた少女が、ゴミの中から紐のようなものを拾った。
しかしそれはペンダントだった。
ペンダントトップが光を反射して緑に光る。宝石付きかもしれない。
その瞬間、ゴミ山の上から少年が飛び蹴りを放った。
「俺が先に見つけたの、何拾ってやがる!」
「あ――っ!」
少女は蹴り飛ばされて、ゴミ山を転がり落ちた。
その勢いのまま、受け身も取らずに地面に激突する。鈍い音がスラムに響いた。
思わず僕は駆け寄った。
少女を抱え起こす。
「大丈夫かい? ――おい! なんてことするんだ、危ないだろ! それに拾ったのはこの子の方だ!」
僕はゴミ山の上を見上げて怒鳴った。
しかし、少年は緑の石のペンダントを拾うと、脱兎のごとく逃げ出した。
「ゴミ山は手に入れたもんの勝ちだぜ~! ぎゃははっ」
ものすごい勢いで去っていった。
――まあいい、今は少女の怪我だ。
僕は腕の中の少女を見下ろした。
あまり栄養が行き届いていないのか、13歳ぐらいに見える幼い少女だった。
曲がった鼻筋から鼻血が垂れて、右の目はつぶれている。
「えっ!? 目が……!」
「あ、これは元からです……どなたか知りませんが、ありがとうです」
少女は弱々しい声で言った。
それから地面を手で探って杖を拾い、立ち上がろうとする。
しかし、足が痛むのか、少し呻いてしゃがんでしまった。
「体の方は? 痛い?」
「膝が、少し」
目の焦点が定まっていない。
左の眼も白濁していて、ほとんど見えていないようだった。
「そっか、じゃあ治すね――ヒール、ヒールヒール」
僕は少女の膝に手を当てて唱えた。
それから足全体、そして目も抑えるように当てて唱えた。
手が光って少女の身体の輪郭も白く光る。
僕は少女を立たせた。
少女は、可愛い唇を半開きにして、青い目も見開いて呆然と僕を見ていた。
「へ……? え……。ぅあ?」
「どう? 歩けるようになったでしょ。あと目も治しておいたから」
少女は自分の手を見つめて、それから青空を見上げて、周囲の街並みを見渡して、最後に僕を見上げた。
「――嘘っ! 目が見える! 足が動く! どうしてっ!」
「ヒールで治しただけだよ。そんなに驚くことじゃないでしょ」
「えっ、でも、だって……だってぇっ!」
少女は、目に涙を溜めると華奢な体で僕にしがみついて泣き始めた。
少女は僕より背が低いため、僕の胸に顔をうずめて号泣した。
「目も足も悪くて……捨てられて……生まれなければ……っ! うわぁぁん!」
少女は生まれつき目と足が悪かったため、捨てられたらしい。
ヒールすれば治るのに、その費用を惜しむとはひどい親だと思った。
「よしよし。よかったね、もう大丈夫だよ」
頭や背中をぽんぽんと撫でて慰める。少女はますます可愛い声を上げて泣いた。
汚れてはいるけれど、ヒールで治した顔立ちはとても可愛らしい。
目は大きく、鼻筋は高く、頬はなだらかで、唇は果実のように赤く。特注の人形のように整っていた。
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