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極めたヒールがすべてを癒す!~村で無用になった僕は、 拾ったゴミを激レアアイテムに修繕して成り上がる!~【書籍化決定!】 作者:藤七郎は疲労困憊
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第2話 未知への旅立ち

本日更新2話目。

 晴れた春の朝。

 17歳になった僕は、荷物を背負って村の入り口にいた。

 黒髪黒目で中肉中背、どこにでもいそうな特徴のない男に育った僕は、旅人の服に身を包んでいた。

 僕の旅立ちだった。


 何人かの村人が僕を見送ってくれる。いずれも過去に大怪我をして、僕が治した人たちだ。


「気を付けていくんだよ」


「これ、少ないけどお駄賃だよ」


 おばさんが包みをくれた。

 頭を下げて受け取る。


「ありがとう、おばさん」


 続いて猟師のおじいさんが毛皮の上着と小袋をくれる。


「こいつを持っていけ。俺が昔、使ってたやつだ。少ないが路銀も入っとる。体を冷やさないようにな」


「ありがとうございます。助かります」


「お前さんのヒールが一番早く治るから、俺としちゃあ、ずっといて欲しかったんだが」


「わかってます。仕方ないですよ。薬屋さんがいる以上、僕は無駄飯喰らいになっちゃいますからね」



 ヒール以外の才能がない僕は、成長するにつれてだんだん村のお荷物になってきた。

 それでもヒールが使えるから重宝されたし、村のみんなは優しく接してくれた。

 その優しさが僕の心に負担となっていった。


 決定打になったのは、村に出戻ってきた薬屋のおばさんだった。

 彼女は中級までの治癒魔法が使えたので、怪我だけじゃなく病気も治せた。

 怪我しか治せない僕の存在価値が極限までに薄れてしまった。


 しかも薬屋なので薬草やポーション、お茶やハーブも扱った。

 だから村人は薬屋をひいきにして当然だった。


 裕福とは言えない村で役に立てない僕は、文字通り無駄飯喰らいになってしまった。

 だから、これ以上村の負担にはなりたくなかった。

 そこで村を出て独り立ちすることにしたのだった。



 僕は荷物を背負い直すと言った。


「今までありがとうございました。――それでは、行ってきます」


「またな」「いつでも遊びにおいで」


 意外と温かい言葉を背に受けつつ、僕は手を振って別れを告げた。


 ――でも『遊びにおいで』か。『帰っておいで』じゃないんだなぁ。


 もう村に僕の居場所はないのだと痛感させられた。


 仕方ない、頑張ろう。

 なんとしてでも生き抜いてやるんだ!


       ◇  ◇  ◇


 山のふもとの村を出て、森の中を通って近くの町へ向かう。

 途中、木漏れ日の心地よい森の小道を歩きながら、僕はお金を数えた。

 おばさんからもらったお金は金貨3枚に銀貨20枚。


 猟師のおじいさんからは――もらった革製の小袋に手を入れると底がなかった。


「え?」


 穴が開いているのかと思ったが、外側から見るとぼろぼろだけど袋自体はちゃんとしてる。

 でもお金は入ってない――と、考えたら手の中にお金が入った。


「あ、これ。マジックウォレットだ。すごい」


 魔法で作られた袋は、冒険者ご用達アイテムとしていくつか種類があった。

 お金がたくさん入る魔法の財布や、アイテムが入る魔法の袋などがある。

 ダンジョンでしか手に入らないらしく、とても高額で取引されているものだった。


 ――あの猟師のおじいさん、昔はちょっとした冒険者だったのかもしれない。

 畑仕事も狩猟もできなかった僕に、こんな高価なものをくれるなんて。

 どこまで優しいんだろう、村のみんなは。


 少し目を潤ませつつ僕はお金を数えた。


 金貨10枚入っていた。あと銀貨5枚に銅貨24枚。

 自分で稼いだお金と合わせると。

 金貨18枚、銀貨43枚、銅貨65枚。


 銅貨1枚が1カルスなので、合計1万8925カルスもあった。

 けっこう、じゃらじゃらする。

 マジックウォレットのおかげで助かった。



「さて」


 お金を数え終えてから考える。

 村人にしては多いように思うけれど、一切お金を稼がなければ二ヵ月か三ヵ月ぐらいで全部なくなる。

 何かお金を稼がなくては生きてはいけない。


 とはいえ僕はヒールしか使えなかった。

 剣術や弓術などを大人たちから習ってみたけど、さっぱり身につかなかった。

 薪割り斧すらまともに振り下ろせないのだから、口減らしのため村から追い出されるのも当然かもしれない。


 魔法系はヒール以外も少し試してみたけど、全然ダメだった。

 何一つ覚えられなかった。


 しかも唯一覚えたヒールだって、対象に触れていないと治せない。

 僧侶や聖術師は自分から離れた位置にいるパーティーメンバーにヒールを飛ばせる。

 それができないということは、敵と味方が入り乱れて戦うような状況では、まったく役に立てないということだ。


 性能の悪いヒールしか持ってない僕では冒険者にもなれそうになかった。

 というか僕みたいな役立たずとパーティーを組んでくれる人なんかいやしないだろう。



 それにもう僕は死にたくない。

 死にそうな場所から一番遠いところでヒールして暮らしたい。


 ……やっぱり、ダンジョン近くの町で冒険者相手に暮らしたほうがいいのかなぁ。

 急な怪我人に対処するヒーラーとして。でもはたして利用者はいるだろうか。


 村の人たちや通りすがりの冒険者に、街のことなど聞いてたけど判断材料が少ない。

 自分の眼で見て考えるしかないなと僕は思った。


 最悪の場合、ヒールとは全然関係ない仕事を見つけて働かせてもらうしかない。

 ……いや、最悪の場合は山で自給自足の一人暮らしかな。ははっ。


 とにかく人の多いところでないと新参者が就ける仕事はなさそうだ。

 大きい街へ行かないと。


少しでも面白い! 続き気になる! と思ったらブクマお願いします~。


次話更新は数時間後?

→第3話 運命の出会い

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