第1話 きっかけのヒール(第一章プロローグ)
パリィがとても面白かったので参考にしつつ、自分なりに書いてみました!
僕は死ぬのが人一倍怖かった。かつて一度死にかけたから。
◇ ◇ ◇
子供の頃、村の近くに魔物の群れが出た。
冒険者を呼んで退治してもらおうとしたが、倒し損ねた手負いの魔物が村に突入。
僕は襲われて大けがを負った。
村の大通りの端。
僕は血まみれになって倒れていた。
大人たちは魔物の対処に追われて、誰も助けに来ない。
孤児だったので、助けてくれる家族もいなかった。
僕は地面を真っ赤に染めるほどの血が出て体が動かせなくなり、意識が遠ざかっていった。
どんどん冷たい感覚が押し寄せる。
体も、心も、感情も、凍っていく……。
――これが死なの? いやだ……死にたくない……死ぬの、やだ……。
意識が途切れ途切れになり、押し寄せる冷たい光が僕を消していく……。
そんな時、温かな言葉が天の恵みのように響いた。
「ヒール」
薄目を開けて見ると、冒険者のお姉さんが傍にしゃがみこんで光る手を僕にかざしていた。
優しいぬくもりが冷えた心に沁み込んでくる。
でも、一回だけじゃダメでお姉さんは何度も唱えた。腰まである長い青髪を揺らして、さらに高位の治癒魔法を唱える。
眼差しに真剣な光を宿して、二重の大きな瞳が僕を見つめていた。
お姉さんの整った顔が天使のように美しく思えた。
しばらくして、僕は体が動かせるようになった。血で汚れた体を見ながらつぶやく。
「生きてる……」
「もう大丈夫ね。よかったわぁ……正直『ああ、これは絶対ダメなやつだ~』って思ってたけど」
お姉さんは本当に嬉しそうに笑っていた。
目の端に涙が光っているので、心から心配してくれたんだとわかった。
その優しさが何よりもうれしい。
僕は自然と口からお礼が出た。
「ありがとう、お姉さん。ありがとうっ」
「いいのよ、仕事だから。ぶっちゃけ『治癒魔法を唱えたけど、助かりませんでした』ってポーズを取るために唱えただけ。治癒魔法唱えなかったら『助かるかもしれなかったのに唱えないとは、なんて奴だ!』と糾弾されて、お金貰えなくなっちゃうから。――回復したから、びっくりしたけど……あぁ、本当に唱えてよかったわ」
笑いながら冗談っぽく事情を話してくれたけれど、指先で涙を拭いつつ鼻をすすりあげるお姉さんの本心はちゃんと僕に伝わった。
――本当に唱えてよかったわ、の言葉が本当に心がこもっていた。
「でも嬉しいです。お姉さん、ありがとう」
「どういたしまして――さて、あとは軽傷の人ね」
笑顔を浮かべたお姉さんは立ち上がって去ろうとした。
その背に呼びかける。
「……ねえ、お姉さん」
「なあに?」
「僕もう死にたくないんだ。お姉さんの、ひーる? 僕にもできる?」
「どうかしら……治癒師か聖職系の才能があればいけるけど……」
お姉さんは僕の額に手を当てる。探るように目を閉じた。
しばらくして青い目で僕を見て微笑んだ。
「かすかに聖なる力を感じるわ。上級は無理そうだけど、下級のヒールなら練習すればできるはずよ」
その答えは僕を有頂天にさせた。
「ほんとうに!? ありがとう! 僕、ひーるの練習するよ!」
「ふふっ、頑張ってね――じゃあ、練習ついでにみんなの治療を手伝ってくれるかな?」
「うんっ、任せて!」
その後、お姉さんにくっついて村の人の治療を手伝ったり、村の案内をしたりした。
ついでに治癒魔法や消毒、包帯の巻き方、骨折の手当てなどを教えてもらいつつ。
結果、ヒールの基本的なことを覚えた。
◇ ◇ ◇
魔物退治が終わって冒険者の一団は去った。
僕は命の恩人であるお姉さんの言いつけを守って、毎日ヒールを練習した。
村中の人たちを回って怪我してないか尋ねて、ヒールを唱えさせてもらう。
最初の内はほとんど効かなかったけれど、数か月するうちに少し治るようになった。
半年もすると軽傷は一回で治るようになった。
練習できなくなったため、犬や猫、牛や鶏まで怪我してたら治した。
一年が過ぎると、そこそこの大怪我でも救えるようになった。
でも、僕はまだまだ怖かった。
あのお姉さんが無理だと諦めるぐらいの大怪我を僕はしたんだ。
お姉さんが唱えたから、奇跡的に助かることができた。
でも今度、同じ大怪我をしたら自分で唱えなきゃいけなくなる。
あの激痛と意識の消失の中で、ヒールを何度も唱えられるだろうか?
――いや、無理だ。絶対無理。
そう考えたら、まだまだヒールが弱いと感じた。
同じ怪我をしたら今度こそ死んでしまう。
でもお姉さんが言うには、僕は初級のヒールしか唱えられないらしい。
だから僕は死にたくないので、さらにヒールを練習したかった。
でも村中、治してしまって治せるものがない。
そんな時、木々を見ながら気が付いた。
――この折れてる枝も、言ってみれば怪我だよね……?
ヒールを唱えたが、ほとんど変化なし。
でもちょっと折れた枝に元気が戻ったかに見えた。
――よーし、やってみるぞ~。
こうして僕は、生物以外にもヒールを唱え始めた。
薪を拾いに森へ入ったついでに唱えまくる。
時にはヒールが何に効いて何を回復しないのか考察しつつ、ひたすら練習していく。
そして月日が流れた。
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次話は数時間後に更新。
→第2話 未知への旅立ち