―30― 生徒会長
教室を出た俺は寮に戻ろうと思っていたが、ふと行ってみたい場所を思い出した。
それは図書室だ。
学院の図書室なんだから、恐らく魔導書で一杯なんだろう。
魔導書が好きな俺としてはぜひ、行ってみたい。
だが、どこに図書室があるんだろうな?
この学院はけっこう広いみたいだし探すのに苦労しそうだ。
探し歩くのもまた一興かと思い、歩を進める。
「やはりあなたがアベルさんだったじゃないですか~」
後ろから手首をガシッと握られる。
振り返ると生徒会長だった。
マジか……。
「いえ、俺アベルでないです」
「なんで嘘をつくんですか~。嘘はよくないと思いますよー」
生徒会長はニコニコと表情を崩さない。
どうやらこれ以上、誤魔化すのは難しいらしい。
「えっと、なんで生徒会長が俺に用があるんですか?」
「この学院では入学式の日に、生徒会が優秀な生徒を生徒会室にお招きする
「俺はDクラスですし、残念なことに優秀ではないんですよ。他をあたってください」
「ふふっ、では言葉を言い換えましょう。個人的にあなたに興味があるから生徒会室にお招きします。ぜひ、来てください」
「お断りします。別に生徒会に入りたいみたいな野心はないので」
うん、生徒会とか面倒なこと多そうだしな。
自由に生きたい俺としてはなにがあっても入りたくない組織だ。
「別に生徒会に入ってほしいという思惑があるわけではありません。ただの交流会です。もっと気軽に構えてください」
「だとしたら、行くメリットがわかりません」
「ん~、生徒会とお知り合いになれるんですよ。普通なら、そんな機会逃さないと思いますが……」
「あまりそういうの興味がないので」
俺は学校にほとんど通ってないので生徒会がどういう組織か知らないが、俺は魔術の研究がしたいだけだ。
生徒会と関わることにメリットを感じられない。
それに目立ちたくないという思惑もあるしな。
「ん~、困りましたね~。あなたはなにがお望みなんでしょう」
そう言いながら、生徒会長は俺の手を両手を握って、指の隙間をペタペタと触ってくる。
なんの意図があっての行動だろうか?
「男の子にしてはあまり手は大きくありませんね~」
「えぇ……まぁ、そうかもしれません」
手の大きさとか気にしたことないから知らないが。
「んー、そういえば自己紹介がまだでしたね。わたくしユーディット・バルツァーと言います。気軽にユーディットと呼んでください」
「あの、会長」
「ん~、つれないですね~。なんですかー?」
「この後、用事があるので手を離してくれませんか?」
「そうですか。なら、わたくしもつきあいますよ~」
なぜか彼女は俺の手を握ったままだった。
「あの、手を離してくれませんか?」
「なんでですか~? このままでいいじゃないですか~?」
家に引きこもっていたせいで、あまり異性と接する機会がなかったからよくわからないが、初対面の異性と手を繋いで歩くのって普通なのだろうか? 疑問だ。
まぁ、いいかと思い手を繋いだまま歩く。
「そういえば、さっき俺に興味があると言っていましたよね。どうしてですか?」
ふと、気になったので聞いてみる。
「それはあなたの魔力がゼロだからです」
生徒会長は俺のほうを見て、そう言う。
やはりか。
心当たりといえばそれぐらいしかなかった。
「なら、残念です。俺の魔力はゼロではありません。魔力を測定したとき、体調不良だったのか正しい数値がでなかったんですよ」
事前に父さんと取り決めていた通りに話す。
「そうなんですか~。ですが、あなたへの興味は変わりません。あなたの受験での戦いぶりは見ました。大変興味深いものでした。そよ風が吹いたと思ったら、急に人が倒れました。あれはどういう魔術なんでしょう?」
そうか、受験での戦闘も見られていたか。
「機密事項です。あまり自分の手の内は晒したくないので」
「ん~、残念です」
そう言いつつも、生徒会長の表情から笑顔が崩れないので残念がっているようには見えない。
「それに僕は一度負けています。そう注目に値すると思えませんが」
「それは仕方がないと思いますよ~。なにせ、相手はあのプロセルさんでしたから。そういえばアベルさんってプロセルさんと姓が同じですよね。もしかして親戚とかでしょうか?」
「いえ、心当たりがありません。たまたまかと」
「そうでしたか~」
プロセルには兄妹であることを伏せろと言われている。
なぜ、そんなことする必要があるんだ? という思いはあるが従っておく。
それよりも生徒会長の言葉に気になったことがあった。
「プロセルって有名なんですか?」
生徒会長の物言いがそう思わせた。
「そりゃあ彼女は首席ですし大変有名ですよ」
へー、それは知らんかった。
「魔術の天才というより戦闘の天才ですよね。相手の急所を的確に判断し、自分の戦闘スタイルを即座に変える。何度見ても彼女の戦い方は惚れ惚れします」
兄として、妹が優秀なのを聞かされるのはなんか悔しいな。
「なら、俺ではなくプロセルを生徒会に招いたほうがいいんじゃないですか?」
「ええ、すでに副会長が向かっているはずですわ」
このまま生徒会室に素直に行けば妹と出くわすとこだったのか。
行かない理由がひとつ増えてしまった。
「それに私としてはプロセルさんよりあなたの方が興味ありますし」
そう言って彼女は俺の顔をじっと見る。
「それはありがたいですが……」
あまり注目を浴びるわけにいかない俺としては彼女の存在は厄介だな。
「そういえばアベルさんは今どこに向かっているんですか?」
ふと、思い出したかのように彼女はそう言った。
今、俺は生徒会長と手をつないで歩いていた。
会話をしていたせいで頭から抜けていたが、そもそもの目的は――
「図書室に向かっているんです」
そう、俺は図書室に行きたかった。
「だったら反対側ですよー」
そう言って生徒会長は後ろの方を指差した。
「マジか……」
最初から聞いておけばよかった、と今更ながら後悔した。
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