―29― チーム決め
「ミレイア、チームは何人組なんだ?」
「4人ですよ」
「ちなみに期限は?」
「明日までです」
「そうか、俺は余っているとこに入れてもらうことにする」
魔力ゼロと知られたら俺をチームに入れようとする生徒はいないだろうし、そのほうがいいだろう。
「せっかくだし、アベルさん私とチーム組みませんか?」
ミレイアの提案はありがたい。
だが、俺の魔力がゼロなのを知ったらミレイアは後悔するだろう。
ちなみにミレイアの位置はどこなのか。
俺はリストを眺める。
俺の一つ上。
言い換えると、下から二番目だ。
魔力量は29。
50が平均だから低いほうではあるな。
「いや、俺のことは気にせずチームを組め」
「なんでそんなことを言うんですか?」
「これを見てみろ」
ミレイアにリスト表を見るよう促す。
「あっ」
気がついたようでミレイアはそう口にした。
「えっと、魔力量は私が一番下だと思っていたんですが……」
ミレイアが気まずそうな表情をしていた。
「こういう事情があるからな。もし、ミレイアのところが一人余ったら入れてくれ」
魔力量は魔術師を評価するさい、最も重要視される指針だ。
全員が初対面というこの状況下では魔力量で人を判断するしかない。
恐らく、魔力量の多い順にチームを組んでいく流れになるだろう。
そうなれば下から二番目のミレイアと同じチームを組む可能性は高いが……。
「で、ですが……」
「別に気にする必要はないからな」
なにかを言おうとするミレイアの言葉を遮る。
俺が同じチームになると、他の人を誘いづらくなるだろう。
そんなわけでミレイアの誘いを俺は断ることにした。
さて、寮に戻って魔術の研究でもしようかと思いカバンを手にする。
チーム作りに苦戦しているらしく俺以外に帰ろうとする者は見当たらない。
だから、バタンッ! と強引なドアの開閉音に皆が反応した。
俺が教室を出たのではない。
誰かが教室に入ってきたのだ。
入ってきたのは一人の女子生徒だった。
長い金髪がくねくねとカールを巻いている。それに髪を丸めたお団子が2つ頭に乗っていた。
背は小さい。
「おい、なんで生徒会長がこの教室に!?」
教室の誰かがそう言葉を漏らしていた。
なぜ、彼女が生徒会長とわかったのだろう。疑問だ。
……そう言えば入学式のとき生徒会長が壇上で喋っていたような……そうでないような。記憶があやふやだ。
「俺聞いたことがある。この学院では初日に生徒会が教室に入ってきて、優秀な生徒を招くのが伝統らしいぞ」
「でも優秀な生徒ってAクラスのことだろ! なんでDクラスに!?」
「いや、そこまでは知らねぇけど」
貴重な情報をありがとう誰かさん。
恐らく間違ってDクラスに入ってきてしまったのだろう、と勝手に推測する。
生徒会長らしき人物は教室をキョロキョロと見回してから、こう言った。
「アベル・ギルバートって生徒はどなたでしょうか~?」
ふむ、なぜ俺の名前が?
「アベルって誰だよ?」
「いや、知らないけど、うちのクラスか?」
「リスト表に乗っている! 一番の下のやつだよ!」
「えぇ!? 魔力がゼロって! どういうことだ?」
「なんで、生徒会長がアベルって生徒を探しているんだ?」
教室中がざわざわする。
生徒会長は「あなたがアベルさんですか~?」と生徒たちに聞いて回っていた。
父さんとの約束を思い出せ。
目立つな。
もしここで俺がアベルと名乗れば、注目の的だ。
まだ顔と名前が一致していない教室。
ここは知らないフリをして退散しても誰も気がつかないだろう。
そう決意し、カバンを持って教室を出ていこうとする。
「あいつがアベルですよ」
教室の扉に手をかざしたとき、誰かがそう言った。
誰だよ、密告した野郎は。
確か、俺がリスト表を見ていたとき隣に立っていた男だ。
「あなたがアベルさんですかー。名乗ってくれたらよかったのに」
生徒会長が一瞬で俺の元まで近づいてくる。
生徒会長はニコニコと笑顔を浮かべていた。
なんだか顔に笑顔が貼りついているようで気味が悪い。
「俺じゃないですよ。あいつがアベルです」
最後の手段。
近くにいたやつを指差してアベルってことにする。
「なんで俺!?」
指を差されたやつは素っ頓狂な声をあげていた。
「なんだ、あなたがアベルさんだったんですね~」
と、生徒会長はその男子生徒の元に向かう。
その隙に俺は教室を出た。
ふぅ、無事目立たないで済みそうだ。