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魔力ゼロなんだが、この世界で知られている魔術理論が根本的に間違っていることに気がついた俺にはどうやら関係ないようです。 作者:北川ニ喜多
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―28― アゾット剣

「みなにはこの学院で最も貴重な物を紹介する」


 Dクラスの生徒たちは大広間に集まっていた。


 その大広間の中央。

 ガラスケースに入れられた一本の剣が収められている。


「この剣は賢者パラケルススの聖遺物のひとつ、アゾット剣だ」


 そうセリア先生が言うと、生徒たちがざわついた。

 俺も学院にそんな貴重な剣があるとは知らず驚いていた。


「この剣が学院にあるおかげで、お前らは加護を得られている。具体的に言うと治癒魔術が強化される。他には自然治癒力の強化や致命傷を受けにくいといった加護も得られる」


 賢者パラケルススは魔術師の祖であると同時に医者であったはずだ。

 だから、そのような加護を得られるのかもしれない。


「つまり、お前らがこの学院にいる限りは滅多に死ねないってことだ。安心してお前らは魔術で殺し合え。それがお前ら生徒たちの義務だ」


 妹のプロセルが、この学院には治癒魔術が得意な先生が多くいると以前語っていたが、実際にはこのアゾット剣がそうさせているというわけか。


「噂には聞いたことがありましたが、本当にそんな貴重な剣が学院にあるんですね」


 ふと、隣にいたミレイアがそう言う。

 ミレイアはアゾット剣の存在を知っていたのか。


「欲しいな」

「えっ!」


 思ったことを口にしてみたら、ミレイアが声をあげて驚く。


 アゾット剣がどういうものなのか、魔術の研究が趣味の俺としてはぜひ直接手で触れて確認してみたいものだ。


「ちなみに言っておくが、このアゾット剣は大変貴重な物だ。興味本位でガラスケースから取り出そうとするなよ。ガラスケースを動かすと呪われる仕掛けが施されている」


 まるで俺の心でも見透かしたように、先生が注意を促していた。


「アベルさん、冗談ですよね……」

「まぁな」


 興味はあるが色々とリスクが高そうだ。







 アゾット剣の紹介が終わると、皆教室に戻っていった。


 教室に戻ると、先生は引き続き学院の説明をしていた。

 最初のうちは俺も聞く努力をしていたものの、気がつけば『科学の原理』を机に開いていた。


「それじゃ、今日は以上だ」


 気がつけば授業が終わっていた。

 今日は初日だからか午前中で授業が終わりだったみたいだ。


「アベルさんはどうされるんですか?」


 ふと、ミレイアが話しかけてくる。


「なにを?」


 なんのことだかわからず俺は首を傾げる。


「えっと、先生がチームを作れって言ってましたよね」

「チーム?」

「えぇ……なにも聞いてなかったんですか?」


 まぁ、そうだな。先生の話は微塵も聞いていなかった。


「チームを作って対抗試合でもするのか?」

「はい、そうです。なんだちゃんと聞いているじゃないですか」


 推測をしてみたが、どうやら当たったらしい。

 教室を見ると、皆なにやら相談をしている。

 チーム作りに励んでいるというわけか。


 特に黒板の前に生徒たちが集まっている。

 黒板に貼られている紙を皆、眺めているようだ。


「あれはなんだ?」

「あれは生徒のリスト表です。先生が参考に使えということで」

「なるほど」


 と、頷き俺はリスト表に近づく。


 確かにDクラスの生徒の一覧が書かれていた。

 しかしそれだけではない。


 名前の左には数字が振ってあり、一番上に書かれている生徒の数字が一番大きく、下になるにつれ数字も小さくなっていた。

 そして最後の数字はゼロだ。

 ちなみに、数字の隣に書かれている名前はアベル・ギルバート。

 つまり俺だ。


 察するにこの数字は、その人の魔力量だな。


「おい、このゼロのアベルってどいつのことだよ」

「なんで魔力ゼロのやつがうちの学院にいるんだよ」

「このアベルって生徒とだけはチームを組みたくねぇな」


 皆、口々に俺の噂をしていた。


「アベルさん、チームはどうされるんですか?」


 ミレイアの声だ。


 周囲にいた生徒全員が、ギョッとした表情で俺を見る。


「こ、こいつがアベルかよ……」


 誰かがそう言った。


 ミレイアのせいで、俺がアベルだということがバレてしまったな。


 恐らく、魔力量を参考に皆チームを組むだろう。

 となると魔力がゼロとバレたら色々不利を被りそうだ。


 苦労しそうだな、と俺は未来を愁えた。



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