―26― 入学式
ついにプラム魔術学院の入学式が始まった。
広い講堂に集められた生徒たちはただ黙って、壇上に立っている学院長の話を聞いている。
学院長にしては随分と若い気がする。
背の高い男の人だ。
恐らく優秀な人なんだろう。
その学院長はハキハキとした口調でさっきからずっと喋っているが。
退屈だ。
早く終わらないかなぁ。
そう思いながら、俺は天井をボーッと眺めていた。
◆
入学式が終わると、それぞれの教室に向かえとのことだった。
どこの教室かは掲示板に貼り出されているらしい。
「俺はDクラスか」
自分の名前を見つけてはそう独りごちる。
クラスはAからDの全部で4クラス。
ちなみに妹はAクラスだった。
兄妹で同じクラスなのは気まずいし、別のクラスでよかったと思う。
俺は自分の教室に向かおうとして――
「見つけたわ!」
随分と甲高い声だ。
鼓膜にまで響いた。
「ちょ、あなたよ、あなた。待ちなさい!」
ガシッ、と手首を掴まれる。
どうやら話しかけられたのは俺だったらしい。
「えっと、なんですか……」
俺はそう言いつつ振り向く。
赤毛の入ったツインテールの髪が目に入った。
どこかで見た気がするが、思い出せん。
「あなたのせいで、Aクラスの実力がある私がBクラスになってしまったのよ!」
「AでもBでもどっちでもいいと思うが」
「なにを言ってんのよ! この学院はAクラスで卒業できたかどうかで評価が天と地ほどの差がつくの!」
「はぁ」
察するに、この学院は成績によってクラスが決められているらしい。
生意気にも俺の妹は一番優秀なAクラス。
対して俺はDクラスか。
魔力量がゼロだったせいかな。
それが足を引っ張ったのかもしれない。
「自分の落ち度を俺に八つ当たりしないでくれ」
「するわよ! あなたに負けなかったら、私は今頃Aクラスだったんだから!」
俺に負けた。その言葉を聞いて、やっとこいつのことを思い出す。
「お前、受験のときに俺に大口叩いたくせに、なにもできないで無様に負けたやつか」
確か悪魔降霊をしていたやつだ。
名前はアウニャだったか。
「なっ……な、な……っ」
なぜか彼女は顔を真っ赤にさせていた。
そして、
「さ、再戦よ。再戦! あれは私が実力を出せなかっただけで、ホントだったら私が勝ってたんだから! だから私と再戦しなさい!」
彼女は人差し指を立ててそう宣言した。
「おい、あいつらなにやってんだ?」
「まだ授業も始まってもないのに喧嘩かよ」
周りにいた生徒たちがザワザワとしだす。
これだけ大声で喋っていたら注目されるのは当然か。
目立たない。俺は父さんとの約束を思い出す。
「すまんな、お前とはもう戦わない」
「ちょ、どういうことよ!?」
俺は最弱を演じなきゃいけないんだ。
こんな雑魚と戦ったら、また勝ってしまうではないか。
「そういうことだから悪いな」
「ちょ、待ちなさい! な、なんで逃げるのよ!」
俺は彼女の言葉を無視してDクラスに向かう。
それでも彼女は後ろからなにかを言っていたが、教室に入ってしまえば中まで追ってくることはなかった。
初めてDクラスの教室に俺は足を踏み入れるのだった。
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