―25― 説得
「プロセル、ちょっといいか」
部屋を出た俺は妹のプロセルを呼んだ。
「お兄ちゃん、大丈夫だった?」
不安そうな目で訴えかけてくる。
心配してくれたのだろう。
「ああ、無事誤解が解けた」「そう、よかったね」
「それで父さんがお前を連れてこいって」
「うん、わかったわ」
それから俺は兄のリーガルの部屋を訪ねる。
「兄さん、ちょっといいか?」
「よぉ、アベルじゃないか。不正で合格をもぎ取るとはとんでもねぇ悪知恵が働くみてぇだな」
兄さんはどうやら俺が合格したことを知っていたらしい。
「そのことで、父さんが話があるから来てくれって」
俺が直接誤解を解くより、父さんを通したほうが兄さんも納得しやすいだろう。
だから、ここではなにも話さない。
「わかった、今行く」
それから父さんの部屋に兄さんのリーガルと妹のプロセル、そして俺の3人が集まった。
「それで、こいつがどんな不正をしたのか吐いたのか?」
リーガルが早速、父さんに問い詰めた。
「アベルは不正をしていなかった」
「はぁ? んじゃ、どんな手を使ったっていうんだ?」
「どうやらアベルは少量の魔力を保有していたらしい。それで魔術が使えることに気がついたようだ」
「マジかよ……」
どうやら父さんは2人に嘘の説明をすることにしたようだ。
「お前、本当に魔術が使えんのか?」
「私が直接この目で見ているし、アベルお兄が魔術を使えることは私が保証するわよ」
リーガルの質問にプロセルが横から答える。
ちなみに、プロセルは俺のことを普段は「お兄ちゃん」と呼ぶが、リーガルもいるときは「アベルお兄」とわざわざ言い換える。
「仮にアベルが魔術を使えたとしてだ、プラム魔術学院は難関校だぞ。今まで魔術を使えなかったアベルが合格できるとは到底思えないが……」
「それは俺のスペックが高いからだろう」
「お前、マジでそういうとこウゼェな」
……兄にすごい辛辣なことを言われた。
泣くぞ。
「ともかく2人ともアベルのことを気にかけてやってほしい。アベルはほとんど学校に通っていなかったから慣れないことも多いだろう。お前らは兄弟なんだから協力してやってくれ」
父さんがそう口にした。
確かにリーガルとプロセルの協力があれば、学院生活もなんとかやっていけそうだ。
2人に感謝しないとな。
「嫌だ」
「嫌よ」
2人がほぼ同時にそう言った。
「お兄ちゃん、先に言っておくけど学院では他人だからね。あまり話しかけてこないで」
「俺も弟のお守りなんてするつもりはねぇ。てか、俺はまだこいつが不正したと疑っているからな」
辛辣な2人だった。
「プロセル、俺の味方してくれるとこの前言ってくれたよな……」
「そんなこと言ったかしら?」
そう言って、プロセルは首を傾げる。
なんとも薄情な妹だ。
「お兄ちゃんは嫌でも学院で注目を浴びそうだもん。そのお兄ちゃんの妹だと知られたら、私の安寧な学院生活が崩れかねない。ギルバートって名字はありきたりだし、同姓の他人ってことで学院では通すわよ」
「話が終わったようだし、俺は自分の部屋に戻るわ」
まだ話の途中なのに、リーガルは部屋を出ていってしまった。
「あの、プロセル。俺、学院では目立たないように努力するからさ、プロセルにもその協力をしてほしいんだ」
「だから嫌よ」
「そこをなんとか……っ」
俺は手を合わせてお願いする。
「……はぁ、わかったわ。なにが私にできるかわからないけど少しぐらい手助けしてあげる。けど、他の生徒に兄妹って知られたくないから。そこはお願いね」
「ありがとう、助かる」
なんだかんだいって俺の妹は優しい。
「はぁ、なんでこうも兄弟で仲悪いのかなぁ」
父さんは一人でそうぼやいていた。
ひとまず俺の学院生活は無事始まりそうだ。