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魔力ゼロなんだが、この世界で知られている魔術理論が根本的に間違っていることに気がついた俺にはどうやら関係ないようです。 作者:北川ニ喜多
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―24― 対策

 学院に通うはやめろ、そう父さんは言った。

 なぜ父さんがそんなこと言うのか、俺には見当もつかない。


「俺は学院に通うつもりだが、なんでそんことを言うんだ?」

「そもそもなんでアベルは受験をしたんだ?」


 質問を質問で返された。


「学院に入れば、金がなくても生活できると思って。寮もあるし食事も与えれる。働いて過ごすより、ずっと楽だと思ったからだが……」

「なら、この家で過ごしていいってことになれば学院に通う理由はなくなるな?」


 確かにそれはそうかもしれないが……。


「だが、俺は働くぐらいなら学院に行きたいと思っている。その方が魔術の研究が捗りそうだしな」

「俺はもうアベルに働くことを強制しない。家で好きに研究すればいい」


 マジか。

 まさか父さんが引きこもることを許可してくれるとは……。


「父さんはそんなに俺を学院を通わせたくないのか」「ああ、そうだ」

「それはなんでだ?」

「お前が心配だからだ。学院に通わせたら、お前の魔術が衆目に晒される。そうしたら、多くの敵を作ることになるだろう。だというのに、息子を学院に通わせるわけにいかない」


 親として至極真っ当な意見だった。

 反論しようがない。


 ふと、俺は目を閉じて考えてみる。

 父さんの言った言葉を心の中で反芻(はんすう)していたのだ。


「父さんの提案は魅力的だ。働かないで研究を許してくれるなんて贅沢すぎる環境だ」

「だったら――」

「けど、俺は学院に通うよ」

「そうか……」

「俺は魔術の研究をしたい。そのためには学院に通うのが一番だと思う」


 まだまだ魔術に関してわからないことが多すぎる。

 それを研究するには、学院という環境ほど恵まれた場所もないだろう。


「それに、幼い頃から魔術学院に通うことに憧れていた。それをやっと実現できたんだ。だから手放したくない」


 わがままなのかもしれない。

 けれど、それが俺の素直な感情だった。


 父さんは「そうか」と頷いて考える仕草をした。


 父さんはなんて言うのだろう。

 やはり反対するだろうか?

 もし反対されたら俺はどうしようか?

 色んな考えが巡る。


 父さんが次になにを言うか緊張しながら待っていた。


「わかった。アベル、お前は学院に通え」

「え?」

「アベルが決めたことだ。父さんが反対する権利はない」

「ありがとう、父さん」


 俺は父さんの判断に感謝した。


「だが、アベルが学院に通うにあたって対策をする必要はあるな」

「対策か」

「ああ、お前の魔術はすぐ露呈する。そのときに、バカ正直に原書シリーズを否定するわけにいかない。なにか言い訳をつくる必要がある」

「確かにそうだな……」

「まず魔力ゼロってのが間違いということにする。微量ながら、お前は魔力があるとみんな説明するんだ」

「けど、魔力測定ではゼロと表示されるんだが」

「そんなのいくらでも誤魔化しが効く。そのとき不調だったせいで、ただでさえ少ない魔力がゼロと表示されてしまったと言うんだ」

「なるほど」


 魔力量は体調に影響される。

 それでも通常の魔術師が魔力ゼロと表示されるなんてことはあり得ないが、原書シリーズを否定するよりは納得されるだろう。


「それと、学院ではあまり目立たないことだな。魔術師ってのは魔力量で評価されることが多い。魔力量がわずかでしかないお前は弱くないとおかしいことになる。だから、お前は学院で最弱を演じろ。これらを守れるなら、学院に通うことを許可しよう」

「わかったよ」


 俺は頷く。

 別に父さんの出した指示はどれも簡単だ。

 最弱を演じる。

 そんなの普段から手を抜けばいいだけだ。


「そもそも父さんはお前が魔術師として、どの程度の位置にいるのか知らないが、受験では何勝したんだ?」

「4勝1敗だな」

「そうか全勝していないなら、お前が高く評価されることもないだろう」


 父さんは安堵する。

 評価されないことを安堵されるのは不思議な感じだが。


「ともかくお前は目立たないことを心がけろ。それと、リーガルとプロセルにも協力してもらおう」


 兄と妹の名前がでる。


「2人にも説明するのか?」

「全ては話さない。あくまでも協力してもらうだけだ。2人を呼んできてくれ」


 そう父さんは命じた。



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