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魔力ゼロなんだが、この世界で知られている魔術理論が根本的に間違っていることに気がついた俺にはどうやら関係ないようです。 作者:北川ニ喜多
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―20― 手紙

 寮の生活を始めて5日目。

 俺の元に手紙が届いていた。


「なんだろう?」


 手紙をもらう心当たりがなかったので(いぶか)しむ。

 裏返すと、差出人は妹のプロセル。


 なるほど、そういうことか。


 妹なら俺宛に手紙を送ってもおかしくないな、と納得しつつ封を開ける。

 内容は、


『合格した件を父に伝えたところ、至急家に戻ってこいとのことです』


 と書かれていた。


 父さんが俺に会いたがっているのか。

 もしかしたらプラム魔術学院に合格したことで、父さんは俺のことを見直してくれたのかもしれない。

 今頃、俺を追放したことを後悔していたりして。


「ん?」


 よく見ると、手紙には続きがあった。


『追伸。父さん、めちゃくちゃ怒っているので気をつけてね』


 どうやら、俺の予想は見当違いだったようだ。

 しかし、なぜ父さんは怒っているんだ?

 全く心当たりがない。


 父さんが怒っていることを事前に知らせてくれたのは妹なりの優しさなんだろうが、できれば怒っている原因まで書いてほしかったな。


 家に帰りたくない。


 怒っているのを知って、わざわざ帰るやつがいるだろうか?

 とはいえ、俺なにも悪いことしていないよな。


 ならば、ここは堂々と家に帰るべきだ。

 恐らく父さんはなにか誤解をしているに違いない。

 ならば、ちゃんと説明すれば理解してくれるだろう。


 あと、本屋の店長にお礼も言いたいしな。




「あれ? アベルさん。どちらに行かれるんですか?」


 家に帰るべく、寮の中を歩いていると偶然、ミレイアとすれ違う。


「あぁ、これから家に帰ろうと思ってな」

「お家に帰られるんですね」


 心なしかミレイアはどこか寂しそうに見えた。

 そういえば、なんでミレイアは入学の日まで日にちがあるというのに入寮したのだろうか?

 もしかしたら俺と似たような境遇なのかもしれない。

 まぁ、あまり興味ないので直接聞こうとは思わないが。


「それじゃ、あまり足止めしても悪いので」

「そうだな。また会おう」


 俺はそう言って寮を出た。







 それから魔導列車を利用して、実家のある街まで戻った。


 ちなみにこれで店長からもらったお金はなくなった。

 店長はきっかり帰りの交通費まで俺に渡していたのだ。


 まず、家に寄る前に本屋の店長に会いに行くか。


「よぅ、店長」

「おー、アベルじゃないか! 中々、来ないから心配してたぞー」


 そういえば受験に落ちたら、店長が仕事先を見つけてくれる約束だったな。


「無事、合格したよ」


 と、俺は報告する。


「は!? 嘘だろ!?」


 店長は飛び跳ねるんじゃないかという勢いで驚いた。

 あまりの大きな声に、周りにいたお客さんが一瞬こっちを振り向く。

 流石に驚きすぎだ。


「ほ、本当にプラム魔術学院に合格したのか?」

「うん、おかげでここ数日は寮で生活してたんだ。ご飯もでるし」

「ほ、本当かよ……」


 うん、この感じあまり信じてもらえてないな。


「けど、お前は魔力がゼロのはずだろ。どうやって合格したんだ?」


 バカ正直に原書シリーズの欠陥を見つけたおかげで、と言わないほうがいいのは妹の忠告で理解した。


「裏技を使ったんだよ」


 自分でもひどく曖昧な答えになってしまった気がする。


「そんな裏技があるとは思えないが……」


 どうやら店長は俺が嘘ついているんじゃないかと疑っているな。


「ともかく店長にお礼がいいたくて寄っただけだから」


 これ以上ボロを出さないうちに、俺は話を切り上げようとする。


「それじゃ、また来るから」

「おい、アベル! 困ったらいつでも来ていいんだからなー!」


 背中ごしに店長の声が聞こえる。

 ありがたい話だが、やはり店長は俺が嘘ついていると思っているようだ。







「ただいま帰りましたー」


 久しぶりの実家に戻った俺は玄関の扉を開ける。

 鍵はかかっていなかった。


「アベル、よく来たな」


 なぜか父さんが玄関の前で仁王立ちで待っていた。


 表情をひと目見ればわかる。

 父さん、めちゃくちゃ怒っているな。


「アベル、こっちに来い」


 そう言って父さんはズンズンと足音を立てながらどこかへ行こうとしていた。


「はぁ」


 俺はため息をつきながらついていく。


 これからなにが待っているんだろうか。



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