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魔力ゼロなんだが、この世界で知られている魔術理論が根本的に間違っていることに気がついた俺にはどうやら関係ないようです。 作者:北川ニ喜多
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―19― 寮生活

 寮にいるのはどうやら俺だけらしい。

 俺のように特殊な事情がなかったら、学校が始まっていないのに寮にいる理由がないか。


 そんなわけで俺は寮での生活を一人で満喫していた。

 まぁ、やることは魔術の研究以外にないのだが。



 そんな寮生活、三日目のことだった。


 俺は食堂で一人寂しくご飯を食べていた。

 ちなみに『科学の原理』を読みながら。


「え? 私以外にも人がいたんだ」


 声が聞こえた。

 どうやら食堂に俺以外にも人がいるらしい。


 とはいえ、今の俺は読書に熱中している。


「あ、あの……っ」


 それにしても『科学の原理』は難解な内容だよな。

 何度も読んでもすべてを理解しきれない。

 まだまだ俺の知識は浅いってことだ。


「し、新入生の方ですか?」


 特に雷の理論が難しすぎる。

 一応、雷を放つという魔法陣の構築には成功したものの、あれは偶然できたものにすぎない。

 まだまだ改良の余地があるはずだな。


「あれ? 聞こえていない!?」


 それに雷を理解する前に、まず原子というのを理解する必要がありそうだ。

 その原子にも種類があるらしく、それらの組み合わせにより物質の性質が決定するとのことだ。

 ただ『科学の原理』には曖昧にしか書かれておらず、恐らく著者も全てをわかっていないのだろう。


「よし、もっと大きな声を出さなくちゃ」


 雷より先に磁石について知るのが近道だろうか?

 どうやら雷と磁石にはなんらかの関係があるらしいし。


「あのっ!!」


 キーンと耳が響いた。

 は?


 見ると、そこには一人の少女がいた。

 銀色の長い髪。目が垂れ目なのが大人しそうな雰囲気を醸し出している。


「やっと、こっちを見てくれた。新入生の方ですよね!」


 彼女は嬉しそうに微笑んで、俺にそう語りかける。


 この女のせいでさっきまで考えていたことが全部吹き飛びやがった。


「確かに俺は新入生だが」


 仕方なく俺もそう答える。


「あの、私も同じ新入生でして、てっきり他に新入生いないと思っていたから、あなたを見て驚きました。あ、自己紹介が先でしたね。私、ミレイア・オラベリアと言います」

「アベル・ギルバートだ」


 仕方なく俺も自分の名を名乗る。

 早く読書に戻りたいんだが。


「それじゃあ、アベルさんって呼びますね。えっと、アベルさんはどちらの中学出身なんですか?」


 中学を聞くのは、知り合ったばかりの新入生同士の定番トークといったところか。


「中学は通っていない」


 まぁ、正直に言うしかないよな。


「えっ? 中学行かれていないのにプラム魔術学院に合格されるなんて、すごい優秀なんですね」


 プラム魔術学院は国一番の学校だ。

 中学行かないで合格するやつは俺が初めてなんじゃないだろうか。


「まぁな、優秀である自覚はある」

「そ、そうなんですね……。あ、私はアストリオ魔術学校出身なんですが……有名なので聞いたことあると思うんですけど」

「いや、ないな」


 中学通っていない俺が中学を知っているわけがないだろ。


「そ、そうですか……。あ、その本随分と分厚いですが、なに読まれているんですか?」

「あー、これは、古代語で書かれている本だな」

「こ、古代語読めるなんてすごいですね。ちなみに、どんな内容なんですか?」


『科学の原理』をあまり他人に知られるわけにいかないな。

 原書シリーズを否定する内容が書いてあるし。


「まぁ、実用書だな」

「へー、実用書なんですか……。あ、私もけっこう読書家でして、最近だと『ホロの冒険』という小説を読みまして。もしかしたらアベルさんも読んでたりして。今、人気の本ですものね」

「あー、俺小説みたいな通俗的な本は読まないから」

「そ、そうなんですか……」


 彼女は頷くと、なぜだか気まずそうに目を反らした。


 思えば、家族と本屋の店長以外の人とこんなに会話したのすごい久しぶりだな。


「なぁ、ミレイア」

「な、なんでしょうか?」

「俺、本の続きを読みたいんだけど、あと他に俺に聞きたいことあるか?」

「いえ、特にないです……」


 彼女は消え入りそうな声でそう口にした。


「そうか」


 俺はそう頷くと読書の方へと意識を移したのだった。



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