―17― 激戦の先
「少しは手加減してくれ。死ぬかと思っただろ」
そう言って、俺は立ち上がる。
ズキズキと体は痛むが、まだなんとか戦えそうだ。
「そのわりには平気そうだけど」
「いや、結構マジで痛かったんだが……」
骨にヒビが入っている気がする。
残念ながら俺には治癒魔術は使えないので、このまま戦うしかない。
「そんなことより、さっきの魔術は一体なに? そよ風が吹いたと思ったら、呼吸ができなくなったんだけど」
「魔術の研究の成果だ。知りたいなら受講料をいただく」
「そう。なら、私が勝ってから無理矢理聞き出そうかしら――!」
無詠唱起動。
〈
「〈
さっきは〈
俺の戦闘経験が浅いせいだろう。
判断を誤った。
冷静に考えれば、俺自身の重力を変えて上に逃げればよかった。
「重力魔術? そんな上級魔術、お兄ちゃんがどうやって覚えたのかしら?」
上へと浮遊することで〈
「こう見えて俺は天才なんだよ」
「そんなの初めて知ったわ――!」
と、同時に妹が魔術を放つ。
無詠唱魔術起動。
〈
無数の石礫が俺を襲う。
これなら、なんとか防ぐことができる。
「〈
無数の石に重力を加える。
襲いかかってきた無数の石は反転し、妹へ襲いかかった。
「――は?」
流石に予想はできなかったようで妹は驚きの声をあげる。
「〈土の
妹は慌てて、身を守るように土の防壁を出現させた。
「どうやら飛び道具は効かないようね」
「まぁ、そうだな」
この高さにいれば〈
なら、このまま宙に浮いていれば、安全に済みそうだ。
それならば、こっちからいかせてもらう。
「〈爆発しろ《エクスプロシオン》〉!!」
爆発とはなにか。
それは空気の急激な温度上昇で発生する衝撃。
空気の温度を上昇させるには熱を操ればいいわけだ。
では、熱とはなんなのか?
原書シリーズを始めとした魔導書にはこう書かれている。
熱とは火の元素のひとつの形態であると。
そもそも魔術において、熱と炎は明確に区別されていない。
だが、『科学の原理』にははっきりとこう書かれていた。
熱とは、物質の運動であると。
物質を激しく振動させることで、熱が生まれる。
それを知っていれば、容易に爆発を操れる。
ドゴンッ! と土の壁を巻き込むように爆裂が発生した。
土煙が舞う。
プロセルがどうなったか、目視で確認できない。
だが、確かな手応えがあった。
「てか、明らかやりすぎたような。死んでたらどうしよ……」
と、俺が不安になっていた最中――
キラリ、と光が見えた。
妹が魔法陣を形成させていた。
土煙のせいで詳細まで読み取れない。
と、俺が油断していた次の瞬間。
「つかまえた」
眼前に妹がいた。
〈
妹の足元に塔がそびえ立っていた。
この一瞬で俺の位置まで届く塔を作ったのか。
あまりの生成スピードに舌を巻く。
ヤバい。
なにか対抗策を――。
「な――ッ!」
「魔術戦において、相手の口をふさぐのは定石なんだよね。まぁ、魔力ゼロだったお兄ちゃんは知らないんだろうけど」
妹が俺の口に手を突っ込んでいた。
無詠唱発動ができない今の俺は魔術を封じられたのと同義。
試しに噛んでみるが人間の手かと思うぐらい硬い。
もしかしたら〈
「お兄ちゃんみたい器用に扱えないけど、私も重力を操れるのよ」
妹は俺に手を突っ込んだ状態でそう喋る。
喋れない俺はフガフガと答えるしかない。
そして妹はとどめとばかりにこう言った。
「〈
ガクン、と俺の体が下に落ちる。
妹も一緒に落ちる。
とはいえ、妹は俺をクッションにするようにして落ちていた。
なにもできない俺は素直に地面に落ちるしかなかった。
そう、初めての敗北を味わったのだ。