―15― 重力
重力とはなんなのか?
俺は部屋に一人でいるとき、そんなことを考えていた。
四大元素をベースとしている魔導書にはこう書かれている。
まず地球は宇宙の中心にある。
そして土の元素は中心へと向かう性質があるため、土の元素が多いほどその物質は重たくなる。
また、火の元素は天へ向かう性質があるため空気より軽いとのことだ。
『科学の原理』ははっきりと上記の理論を否定していた。
そもそも地球は太陽の周りを公転しているらしい。
俺はその箇所を読んだとき、本当かよ? と疑念を持った。
しかし、本には太陽を中心にしたほうが惑星の位置をより正確に予測できることを計算により示していた。
自分でもその計算が正しいか、検証してみたが、どこにも綻びが見当たらなかった。
では、なぜ重力が存在するのか?
その理由を『科学の原理』は2つの仮説を用いて説明していた。
一つは渦動説。
もう一つは万有引力である。
渦動説によるとこの世界は微細の粒子で隙間なく満たされており、その粒子が渦のように動いていることから重力が発生するという説であった。
その微細な粒子は惑星の回転にも関与しているらしい。
対して、万有引力はあらゆる物質には物を引き寄せる引力が備わっているという理論だ。
りんごは地球に引っ張られて地面に落ちるが、月は地球に落ちない。
それを万有引力では、月も地球も互いに引っ張りあっているから月は地球に落ちないと説明していた。
本には2つの説が紹介され、どちらが正しいのか結論を出していなかった。
恐らく、著者はどちらの説が正しいのかわかりかねているのだろう。
だから、俺はどちらの理論が正しいのか魔術を用いて証明することにした。
やり方は単純だ。
まず、渦動説が正しいことを前提に魔法陣を形成し、魔術が発動すれば渦動説が正しく、魔術が発動しなければ万有引力が正しいということだ。
そうして試行錯誤を得たのち、俺は万有引力が正しい理論であることを証明した。
そうして重力を理解した俺は、それを元に重力を操る魔法陣の構築に成功していたのだ。
「〈
俺はそう唱えた。
途端、〈
「えっ、あなたなにをしたの!?」
一向に地面に落ちない炎の塊を見て、アウニャが絶叫する。
「説明してもいいが、多分理解できないぞ」
「わ、私のこと馬鹿にするんじゃないわよ!」
別に、事実を言っただけで馬鹿にしたつもりはないんだが。
ともかくこの戦いを終わらせよう。
そう決意し、〈
今度は停止ではなく反転だ。
「ちょっ」
アウニャはまたしても絶叫した。
〈
慌ててアウニャはなにかをすると、〈
恐らく魔力の流れを寸断させたのだろう。
「それじゃ、俺のほうからいかせてもらうぞ」
そう宣言したうえで、俺はもう一度〈
次はアウニャ自身の重力を強くする。
「うっ」
空を飛んでいたアウニャは地面へと墜落した。
「な、なにをしたのよ……っ」
地面にうずくった彼女が非難の声をあげた。
残念ながら答えるつもりはない。
「それよりいい加減、ギブアップしたらどうだ?」
と、俺は降参を進める。
「ふ、ふざけんじゃないわよっ」
なおも彼女は反抗的な声をあげた。
「なら、もっと強くするしかないな」
そう言って重力を強める。
「お、お前なんかに負けるもんか……!」
それでも彼女は耐えようとしていた。
ならば――
「〈
「〈
うーん、やはり窒素で呼吸をとめようとしても防がれてしまうか。
なら、最後の切り札を披露するか。
目立つかもしれないから、あまりやりたくはなかったが……。
「〈
瞬間、俺の指先から閃光が走る。
その閃光はアウニャに直撃した。
「うがッ」
彼女はそう呻くと同時に気を失っていた。
例え彼女がフェネクスの回復力を持っていようが、一瞬で気絶させてしまえば、なんら問題ない。
雷にはそれだけの力がある。
「がはッ」
今度のうめき声は俺自身のものだった。
見ると吐血していた。
まだ雷に関しては理解が浅い。
魔法陣が完璧とは程遠い。
おかげで、魔力を消費しすぎてしまったようだ。
「アベル受験生の勝利ー!」
ふと、俺の勝利宣言が聞こえる。
アウニャが気絶したことを審判が認めたのだろう。
「おい、今なにが起こったんだ?」
「一瞬、なにか光ったのが見えたが……」
観客席がざわついていた。
といっても、俺の放った魔術の正体が雷だと気がついたものは誰もいないようだ。
現状、魔術界において雷の行使に成功したものはいない。
そんな中、魔力ゼロの俺が雷を行使したら大騒ぎになるのは必須だ。
しかるべきタイミングで発表はしたいと思っているが、それは今ではないだろう。
だから隠しておきたかったがやむを得ず使ってしまった。
まぁ、バレていないようなので、結果よかったが。
そんなわけで、俺はアウニャとの勝負に無事勝利を収めることができた。
さらに4勝することができたので、俺は無事プラム魔術学院への合格の切符を手にすることができたわけだ。