―14― アウニャという生徒
魔術とはなんなのか?
俺はここずっと、そのことばかりを考えていた。
魔術とは単に火を出したり水を出したりすることではないことが、今ならわかる。
俺は魔術の研究を進めていくうちに、一つの仮説を立てた。
魔術とは物理法則を根幹から書き換えることなんじゃないだろうか。
だから四大元素という間違った原理をベースに魔術を構築することも可能だった。
しかし、あまりにも現実の物理法則とかけ離れているため、魔力消費が膨大になってしまう。
俺は現実の物理法則をベースに魔術を構築することで、従来の1億分の1まで魔力の消費を抑えることに成功していた。
そうなってしまえば、魔力ゼロの俺でもなんら不自由なく魔術の行使ができてしまう。
「まさか、あなたがここまで勝ち残るとはね」
次の対戦相手が目の前にいた。
確か、魔力測定するときにつっかかってきた女だ。
「どういう小細工をしたのかしら?」
「別に小細工なんて使ってはいないが……」
「ふんっ、よくそんな口叩けるわね。あなたの試合はすでにさっき見たから全部わかっているわ。なんらかの毒を撒いているんでしょ。そうでないと魔力ゼロのあなたがここまで勝ち残れた理由に説明がつかないもの」
「はぁ」
実にめんどくさい相手だ。
一応、正々堂々と戦っているつもりではあるんだがな。
「では、これより私立クリスト学院出身、アウニャ・エーデッシュ受験生と中学に通っていないアベル・ギルバート受験生による試合を行います」
この失礼な女はアウニャという名前らしい。
「今までの雑魚どもみたいに私を簡単に倒せると思わないことね」
アウニャがそう宣言すると同時、試合が開始した。
「〈
俺は例のごとく、開幕から相手を窒息させるべく気流を操作する。
「どうせ、毒でも撒いているんでしょ」
そう言って、彼女は右手を前に出す。
「〈
瞬間、彼女の周囲に突風が巻き起こった。
「あんたの毒を防ぐぐらい余裕よ!」
別に毒ではないんだが……。
確かに、突風のせいで窒素を彼女の周囲に運べない。
「それで、もう終わりかしら?」
挑発するように彼女はあざ笑う。
勝った気でいるのだろう。
確かに、俺の窒素攻撃は防がれたわけだが……。
「〈爆発しろ《エクスプロシオン》〉」
瞬間、ドゴンッ! 耳をつんざくような音が鳴り響く。
爆発がアウニャを襲ったのだ。
アウニャの周囲には自身を守るように突風が吹いていたが、爆風はそれらをいとも容易く貫通する。
「ぐはっ」
と、彼女は苦悶に満ちた表情で倒れる。
女の子を一方的に痛めつけたみたいで、あまり気分がよくない。
「なぁ、ギブアップしたらどうだ?」
と、俺は提案した。
すでに彼女は満身創痍だし、俺は全く傷を負っていない。
どちらが勝ったかなんて、一目瞭然だ。
それにこれ以上、彼女を痛めつけることはしたくなかった。
「ゆ、る、さ、な、い……」
だけどアウニャは立ち上がり、俺を睨みつける。
なぜか激怒していた。
「決めた。徹底的にあなたを叩きのめす」
「はぁ」
どうやら、俺はこれから叩きのめされるらしい。
うん、実に怖い。
「〈
瞬間、彼女の背中から炎の翼が生えた。
闇属性魔術。
悪魔を肉体に降霊させたのか。
「あなた如きに悪魔降霊を使うと思わなかったわ」
彼女は炎の翼で宙を舞い、見下ろすようにして俺にそう言った。
「おい、あの生徒、悪魔を降霊させたのか!」
「あんな規模の大きい魔力見たことねぇぞ」
「流石クリスト学院首席のアウニャだ。とんでもない隠し玉を持っていやがった」
観客たちがざわめきだす。
俺も魔導書の読み込みに関しては他人に引けを取らないと自負している。
だからこそ、悪魔降霊がどれだけ上級の魔術か理解しているつもりだ。
フェネクスは確か不死身の炎を纏う悪魔だったか。
恐らく、今のアウニャは傷を負ってもすぐに回復するだけの力を持っているはず。
そもそも悪魔ってのはなんなのだろうか。
悪魔とは必ずしも悪い霊体とは限らない。
中には人間に協力的な霊体もいる。
だから一様に悪魔といってもそれを説明するのは難しい。
それでも、あえて説明するとしたら神と天使以外の霊体といったところか。
悪魔、それに神についてもだが今の俺ではさっぱり理解のできない存在だな。
だからこそ、研究のしがいがあるわけだが。
「これで、死になさい! 〈
ふと、見上げると彼女は巨大な火炎の塊を作り出していた。
それを落下されるように俺へと放つ。
これをまともに受けたらマジで死ぬな。
悪魔に関する考察はひとまず止めにして、目の前のこれをどうにかしようか。
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