―13― 初戦
「では次、私立クリスト学院出身のケント・ロメロ受験生。そして、えっと、中学は行っていないみたいですね。アベル・ギルバート受験生です」
俺の名前が呼ばれる。
観客席には他の受験生たちが座っていたが、なんだがザワついていた。
「おいおい、初戦は学校に行っていないやつが相手かよ」
見ると向かいには、対戦相手の受験生が立っていた。
「色々と訳ありでな」
「まぁ、いい。遠慮なく勝たせてもらうぜ」
対戦相手は余裕といった感じで笑みを浮かべている。
俺は魔術師としては初心者だ。
舐められるのは仕方がない。
「勝敗はどちらかが戦闘不能、もしくはギブアップをしたら決着がつきます。それでは、これより試験開始です!」
審判役の先生が合図を出した。
先手必勝。
俺は合図と同時に呪文を唱える。
「〈
宙に魔法陣が展開される。
練習の成果の一つ。俺は魔力を用いて魔法陣を宙に描くことができるようになっていた。
「はっ、なんだこのそよ風は。馬鹿にしてんのか?」
対戦相手があざ笑う。
確かに、俺が今行っているのは一見、ただのそよ風を相手に送っているだけだ。
「それで終わりってことなら、こっちからいかせてもらうぜ!」
そう言って対戦相手が豪語した瞬間――。
「ふむ、残念ながらもう終わっている」
俺は勝利を確信していた。
「う、うがぁ――ッ」
突然、相手は苦しそうにもがき始める。
なんとか逃れようと必死に手で喉を抑えるが意味はない。
そして最後には泡を吹きながら地面に倒れてしまった。
「ア、アベル受験生の勝利――!」
審判は俺が勝つのが意外だったのか、動揺しながら俺の勝利を宣言する。
「おい、今なにが起きた?」
「ただの弱い風が吹いているようにしか見えなかったが」
「なんでケントが倒れたんだよ!?」
「クリスト学院って名門校だろ。それが初戦で負けるってあり得るのか! しかも、相手は学校すら行っていないやつだぞ」
「なんだ、あの生徒……」
どうやら他の受験生を驚かせてしまったらしい。
確かに魔導書を盲信している彼らには刺激が強かったかもしれない。
別に俺がやったのは特段すごいことではない。
使った魔術は〈
しかし、ただ空気を操作したのではない。
俺は窒素だけを操り、対戦相手の周囲を窒素のみになるよう仕向けたのだ。
人は酸素がないと呼吸できない。
それを四大元素を信じている彼らは知らないだけ。
そんなわけで、俺は最初の3戦を全て同じ方法を用いて連勝することに成功した。
その間に、俺の噂がすっかり受験生たちに広まってしまったらしい。
曰く、出身校も使用する魔術もなにもかもが正体不明の受験生がいる。
しかも、そいつの魔力はゼロらしい。
という噂が。
俺の魔力がゼロってのはなんでバレてしまったんだ。
そうか、あの女が俺の魔力がゼロって大きい声で叫んでいたからな。
それで広まってしまったんだろう。