―11― 空腹
「金が尽きた」
ある昼下がりのことだった。
俺は自室のベッドで呆然としていた。
ぐぅ~とお腹が鳴る。
ここ5日ぐらいなにも食べていない。
それでいざ、食べ物を買おうと財布を見たら、金が一銭もなかった。
家を追い出されて、2ヶ月が経とうとしていた。
魔術が成功してから、俺は新しい魔術の開発や科学的な実験を次々と行ってきた。
それらに必要な道具を揃えたりして少々お金を使いすぎてしまった。
別に後悔はしていない。
どうしよう……。
店長に相談すればなにかいいアドバイスもらえるかもしれない。
そう思い、本屋に行くことにした。
◆
「よぉ、アベル。例の本の件どうなった。内容わかったか?」
そういえば、そんな話だったな。
すっかり忘れていた。
「えっと、店長……うっ」
俺は地面に倒れた。
もうお腹が空きすぎて限界だった。
「はっはっはっ、アベルが腹減って倒れるとはな! おもしろいこともあるもんだ!」
俺は今、飯を食べていた。
店長に奢ってもらったのだ。
「ホント、ありがとうございます」
俺は恐縮してしまう。
「別にいいってもんよ! けど、なんで腹なんて空かしたんだ?」
それから俺は話した。
引きこもりしていたら家を追放されたってことを。
「まぁ、いつまでも親のスネかじって生きていくわけにいかないしなぁ」
と、店長は父さんの考えにも一定の理解を示したようだ。
ふむ、俺の予定では魔術の研究で独立する予定だったのだがな。中々理解してもらえないものだ。
「よし、俺が仕事を見つけてやろうか!」
店長が提案してくれる。
正直、働きたくはないんだが、生きていくためにも仕方ないか……。
「お願いします……」
俺は渋々頭を下げる。
「よし、なら早速飯を食べ終わったら探しに行くか!」
そう言って店長は俺の肩を叩いた。
「そういえば、お前の妹さん明日受験じゃないか?」
ふと、食事中店長がそんなことを話題にする。
「受験……」
言われてみれば確かに。
明日、プラム魔術学院の受験日だった気がする。
プラム魔術学院は名だたる魔術学院の1つなだけに、合格しただけで自慢できるぐらいレベルの高い学校だ。
ちなみに俺の兄さんのリーガルもプラム魔術学院の生徒だ。
「ふむ……」
確か、プラム魔術学院は全寮制で食事も出るんだったよな。
しかも国立の学院だから入学費もかからない。
悪くないかもしれない。
「俺、プラム魔術学院に入学することにします」
立ち上がって俺はそう主張した。
「はぁ!? アベルは魔力がなかったはずだよな!」
「いえ、つい最近俺の研究が実って、魔力を消費しなくても魔術が扱える理論の構築に成功したんですよ」
「ほ、本当かよ……」
店長は半信半疑って具合にそう呟く。
まぁ、信じてもらえなくても仕方ない。
「だが、アベルがそういうってなら俺は応援するぜ。よし、仕事探しの件は試験に落ちてからにしよう!」
ふむ、俺が試験に落ちる前提で話をしている気がするが、まぁいい。
「だがよ、プラム魔術学院に行くまでに交通費がかかるだろ」
そういえばそうだ。
そこまで考えていなかった。まいったな。
「よし、俺が金をやるよ!」
「え? いいんですか?」
「ああ、ほらお前に古代語で書かれた本の解読を頼んだだろ。その依頼料だよ」
「そういうことなら、ありがたく受け取ります」
「で、あの本の内容はわかったか?」
「原書シリーズを批判する内容でした。恐らく見つかったら禁書扱いとして処分されるかと」
別に嘘はついていない。
実際に見つかったら、あの本は処分される。
「あー、そうだったのかぁ。うーん、残念だなぁ」
「あの本は俺が処分しておきます」
「おっ、いいのか」
「ええ」
まぁ、処分するってのは嘘だ。
俺が大事に保管しておこう。
そんなわけで交通費も手に入れたし、プラム魔術学院の受験に向かうことになった。
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