―09― 二酸化炭素と窒素
それから俺は書物に書かれている実験を一通り行った。
まず二酸化炭素の確認。
石灰石を熱することで確認することができた。
本によると石炭なんかも燃やすと二酸化炭素が発生するらしい。
木炭 + 酸素 → 灰 + 二酸化炭素
という具合だ。
二酸化炭素が排出されるため、灰の場合は木炭より軽くなるってわけだ。
それから窒素という空気を作り出すことにも成功した。
密閉された空間の中で火が消えるまで燃やし続ける。
すると、空間の中には二酸化炭素が充満する。
二酸化炭素は水に溶けやすい性質を持つため、何度も水の中に空気を入れ、そして残ったのが窒素と呼ばれる空気だ。
書物には窒素が空気の大部分を占めていると書かれていた。
ちなみに、窒素が充満した空間で火がつくか確認してみたが、やはり火はつかない。
さらに書物には動物が生きていくうえでも酸素が必要と書かれていた。
そんなわけでネズミを使って実験をする。
すると書物通り酸素のない空間ではネズミは生きられなかった。
そんな具合に書物に書かれていることが事実かどうかひとつずつ確認していく。
実験をしていく上で書物に誤りは見つからない。
そして、書物には四大元素を否定し、代わりに原子論なるものが主張されていた。
原子論とはあらゆる物質は極小の原子が集まって構成されているという理論だ。
この原子論に関しては納得できるようなできないような曖昧な感じだった。
それは実験にて証明できていないからだろう。
しかし四大元素より真理に近いのは間違いなかった。
「結局、魔術ってのはなんなのだ?」
俺は今まで魔術は現実の物理法則を応用することで行使されていると考えていた。
というか俺だけでなく、魔術師全員がそう思っている。
しかし、実際には現実の物理現象とあまりにも乖離している。
それともう一つ疑問なのが、
「なんで科学が廃れたんだ?」
この書物を書いた人、名はボイルというらしいが、きっと頭のいい科学者だったに違いない。
けど、この人がこれら全てを発見したのではない。
恐らくたくさんの科学者がいて、お互いに研究し発表しあっていたのが容易に想像できる。
この本はたくさんの科学者たちのいわば結晶だ。
しかし、そういった事実は現代では全て失われている。
なぜだ?
思い当たる原因としては2つ。
科学は魔術とあまりにも矛盾しているために、科学が否定され淘汰されてしまった。
現代において原書シリーズに書かれている理論を疑う人はいない。
皆が魔導書に書かれていることを事実として認識している。
しかし、千年前。
賢者パラケルススが魔術を体系化したときどうだったのだろうか?
もしかしたら、魔術師と科学者で激しい対立があったのかもしれない。
その結果、科学は破れ廃れていった。
そして、もう一つの思い当たる原因は。
古代語を読める人が現代にいないってことだ。
魔術の発展と共に古代語は廃れていった。
というのも、魔術と古代語の相性が悪すぎる。
魔術というのは神秘を好む。
対して古代語は単純明快で理路整然とした言語であり、つまるところ神秘性がなかった。
古代語を用いて魔法陣を構築しても効果が薄い。
そもそも現代語は賢者パラケルススによって作られた言語だ。
そして人々は魔術を扱うため現代語を覚え、いつしか古代語は忘れさられてしまった。
だから古代語で書かれた科学を人々は忘れてしまった。
と、2つの推測を立ててみたが、いまいちピンと来ない。
2つの推測が仮に事実だったとしても、現代になんらかの形で科学は残るんじゃないだろうか。
科学が千年の間で、完膚なきまでに忘れ去られる。
「誰かが、科学の存在を抹消した……?」
3つ目の推測を立ててみる。
科学が邪魔だと思った何者かによって、存在ごと抹消された。
もしそんなことが可能な人物がいるとすれば、その人は余程の権力者だな。
と、様々な推測を立ててみたが、結論が出ないことを考えても仕方がなかった。
それより、俺は実践したいことがあった。
もしかしたら、魔術を科学的な理論を用いて再構築できるんじゃないだろうか。
成功したらおもしろいことになるな。
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