―06― 科学
魔術によって作られた炎と現実の炎は全く異なる存在。
その事実に直面した俺はうなっていた。
意味がわからん。
俺が今まで読んできた魔導書にはそんなこと一切書かれていなかった。
それどころか魔術というのは現実の物理現象を理解するところから始まる。
火、風、水、土それぞれの元素を深く理解することで魔術を扱えるようになる。
だから、現実の火と魔術によってもたらされる火は同様のはずだ。
なにか俺は重要なことを見落としているのか?
例えば俺が行ってきた実験がそもそも間違っているとか。
考えを巡らせてみるが、特に思いつかない。
「あぁーっ!」
イライラして頭を掻いた。
こんなときは頭をリフレッシュさせるためにも俺が一番好きなところに行こう。
◆
「よぉ、アベル。久しぶりだな!」
そういって店長のガナンさんが出迎えてくれる。
俺がやってきた場所。それは本屋である。
「店長、新しい魔導書を仕入れてないか?」
「本当アベルは魔導書が好きだな。えっと……この辺だな」
何冊かの魔導書が目に入る。
タイトルはこんな感じだ。
『土魔術の応用。金属の錬金編』
『挿絵つき! 猿でもできるポーションの作り方』
『便利な悪魔一覧! これであなたも今日から闇の魔術のスペシャリスト!』
『新説。これが雷の正体だ!』
ほう、雷の新しい説がでてきたのか。
俺は興味のあった一冊をパラパラとめくる。
雷。火の元素の一種と考えられているが、その正体はよくわかっていない。
神の正体だという人もいれば、あれこそが魂だと主張する人もいる。どっちの理論も根拠に乏しい。
俺自身、いつかは雷の正体を突き詰めたいと考えている。
「んー、あまり読む価値ないなこれは」
今まで唱えられてきた説を言い方を変えて新説だと主張しているような内容だった。
残念ながら俺は本を元に戻す。
「なんだ、アベルのお眼鏡に適う本はなかったか」
ふと、見ると店長が立っていた。
「残念ながら、そうですね」
「と、そうだ。アベルが来たら是非見せようと思っていた本があったんだ」
ふむ、それは興味深い。
店長は奥から一冊の本を持ってきた。
「これなんだけどよ。古代語で書かれていて、アベルじゃないとなんの本かすらわかんないんだよ」
「古い本ですね」
本当に古い本だ。
古代語で書かれているってことは少なくとも千年前に書かれた本だ。
けど、保存方法がよかったのだろう。
しっかりと内容が読める。
「どうしたんですか? こんな貴重そうな本」
「ああ、俺の知り合いが古い倉庫から見つけたらしくてよ。値打ちもんじゃないかってもんで俺のとこに持ってきたんだよ。けど、古代語で書かれているから俺でもなんの本かわかんねぇ。だからアベルに見て欲しかったんだ。お前古代語も読めるはずだろ。もしこれが原書シリーズの魔導書だったら相当の値打ちがつくはずだ」
俺も原書シリーズの魔導書は一冊だけ持っている。
あれは偶然手に入れることができた貴重な物だ。
俺はその本のタイトルを読み上げる。
「『科学の原理』」
なんだ? 科学って。
俺はその言葉を聞いたことがない。
ただ少なくともこれは、
「魔導書ではないですね」
「なんだぁ。魔導書じゃなかったかー」
店長はがっくりとうなだれる。
対して俺は妙な胸騒ぎを覚えていた。
俺は丁寧にページをめくっていく。
そしてあるページで目をとめた。
『――これらの実験の結果から火の元素は存在しないことがわかる』
火の元素は存在しないだと?
待て、どういうことだ。
魔導書と矛盾しているじゃないか。
それに実験だと。
俺は自己流で様々な実験をしてきたが、千年前にすでに似たような実験が行われてきたということか。
わからないことが多いが、ひとまずこの本は一読する必要があるな。
「店長。この本借りてもいいですか? 中身を読めば貴重な本だと判明するかもしれないので」
「ああ、いいぞ。ぜひ、その本の内容を教えてくれ」
普通なら貴重かもしれない本を他人に貸すなんてあり得ないことかもしれないが、店長は俺を信頼してくれているのか了承してくれる。
まぁ、俺はこの本屋に小さい頃から通っているからな。
そんなわけで俺は早速『科学の原理』を部屋に持ち帰るのだった。
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