―04― 発見
一度家に戻ると決めた俺はどうやって中に入ろうか困っていた。
流石に堂々と玄関から入るわけにいかない。
そんなわけで玄関の近くで、俺は身を隠しては様子を伺っているのだが。
ふと、妹のプロセルが家に入ろうとしているのが見えた。
紙袋を持っている。
買い物帰りだろうか。
「おい、プロセル」
「な、なにお兄ちゃん!? 家に戻ろうたって父さんすごい怒っているから無理だよ!」
「別に戻るつもりはない。俺の部屋にどうしても必要なものがあって、それを取りに行くだけだ。だから俺をこっそり中に入れてくれ」
「はぁ!? 嫌よ。なんで、私がそんなことしなきゃいけないわけ」
「そこをなんとか頼む」
俺は誠心誠意頭を下げた。
「……わかったわよ。だけど、必要なもの揃えたらすぐ部屋を出ていってね」
「ありがとう、プロセル! 流石俺の妹だ!」
「ちょっ、なんで抱きつくの!? マジでキモいんだけど!」
おっといかん。つい興奮しすぎて抱きついてしまった。
「それじゃ、私が先に入るから。大丈夫そうだったら合図送るから、そしたら入ってきて」
と、妹の協力の元、無事自分の部屋までたどり着く。
「えっと、これとこれは必要だな」
俺は実験道具をカバンの中に詰めていく。
「そんなガラクタ、なにに使うのよ」
ふむ、妹にはこれらがガラクタにしか見えないのか。
「崇高な魔術の実験に使うんだよ」
「呆れた。まだ魔術を諦めてなかったの? お兄ちゃんには魔力がないんだからどうしたって魔術師にはなれないのに」
中々理解してもらえないものだ。
まぁ、俺の歩いている道は険しい道だ。常人に理解されないのも仕方がない。
「せっかくだし、これも持っていくか」
俺が手にしていたのは魔導書である。
魔導書は荷物になるため置いていこうと考えていたが、一冊ぐらいお守り代わりのつもりで持っていこう。
「ホントお兄ちゃん魔導書好きよね」
「この魔導書は特別な魔導書なんだぞ。欲しいのか?」
「いらないわよ。読めないし」
俺が手にしているのは俺の魔導書コレクションの中で最も貴重な一冊。
魔術師の祖、賢者パラケルススが書いた原書シリーズの一冊。
しかも現代語に翻訳されていない古代語で書かれものだ。
見るからに古い時代に書かれたものなので、ほころびがあちこちにある。
「古代語読める人なんてお兄ちゃんぐらいよ」
「学校にもいないのか?」
「先生でも読めないわよ。別に読める必要なんてないし」
「そうか? 現代語に翻訳されたものより古代語で読んだほうがより理解が深まると思うがな」
「魔術師でないお兄ちゃんが言っても説得力ないわよ」
それもそうだな。
と、そうだ。
俺はある考えに至った。
火には空気が必要なのを俺は実験にて証明したわけだが、〈
せっかく妹がいるし、今のうちに検証しておきたい。
「なぁ、このガラス瓶の中に〈
蓋をしたガラス瓶を見せて、妹にお願いする。
「はぁ? なんのために」
「魔術の実験のためだ」
「いや、意味わかんないし」
「お兄ちゃんの一生のお願いだ! 聞いてくれ」
「まぁ、別にいいけど……」
なんだかんだ妹は俺の言うことを素直に聞いてくれる。
いい妹を持ったな。
感動でお兄ちゃん泣きそうだよ。
「〈
そう言うと、プロセルの左手の先に魔法陣が浮かび上がる。
すると、ガラス瓶の中に〈
「もう一つ、同様の〈
「……わかったわよ。やればいいんでしょ」
そう言って、プロセルはガラス瓶の外にも〈
「そしたら2つとも限界まで維持し続けてくれ」
さて、俺の予想では密閉された〈
「ねぇ、これいつまで続ける気?」
5分ぐらい経っただろうか。
どちらの〈
「なぁ、どっちにも魔力を送り続けているんだよな」
「うん、そうだけど」
「どっちかの〈
「別に変わらないけど」
おかしい。
俺の見立てでは、なんらかの差がつくはずだか。
「あぁ、もう限界!」
そう言ってプロセルは2つの〈
密閉されたほうも、そうでない〈
「なぁ、もう一度ガラス瓶の中に〈
「えー、嫌よ。疲れるもん」
「別にさっきみたいに維持する必要はないからさ。〈
「えー、どっちにしろ少し休憩させて」
そう言って、妹はぐでーとベッドに寝転がる。
そこは俺が使っていたベッドだ。
まぁ、魔力の消費には体力を使うらしいから、仕方ないか。
ふと、俺はある実験を思いつく。せっかくだし妹が休憩している間にやってしまおう。
俺は新しいガラス瓶を用意し、中に火のついたろうそくを入れ蓋をする。
当然、火は燃え続けたあと、短時間で消えた。
昨日の実験で証明した通り、ガラス瓶の中の空気が減っているはずだ。
そして、今やった工程をもう一度繰り返そうと、俺はもう1つのろうそくに火をつける。
それをガラス瓶の蓋を開けて、中に入れる。
ボシュッ、と火が一瞬で消える。
てっきりちょっとの間ぐらいは火がつくかと思ったが、予想が外れて一瞬で火は消えた。
一回目の燃焼でガラス瓶の中の空気が消費されたせいで、二回目は火を全く維持ができなかったというわけか。
しかし、ガラス瓶を見る限りまだ空気はあるな。
なんですぐ火が消えたんだ?
俺は悩んだ。
もしかして、燃焼に必要な空気とそうでない空気の2種類があるのではないだろうか?
仮説を立ててみる。
しかし、魔導書には空気に種類があるなんてことはどこにも書かれていなかった。
謎が深まるばかりだ。
「ねぇ、なにしてんの?」
妹が話しかけてくる。
「見てわからないか? 魔術の実験だよ」
「はぁ? どこにも魔術使ってないじゃない」
ふむ、やはり理解してもらえないか。
まぁ、いい。
「体力は回復したのか?」
「まぁ、したけど」
「それじゃあ、このガラス瓶の中に〈
俺はさきほどプロセルが〈
俺の予想ではガラス瓶の中は燃焼に必要な空気が減っているため〈
「〈
妹はなんの不自由もなく〈
密閉されたガラス瓶の中では〈
あれ? 予想が外れた。
「なぁ、さっきより〈
「別に。変わらないけど」
プロセルは投げやりな感じで答える。
「ねぇ、消してもいい?」
「ああ、いいけど」
プロセルは〈
「なぁ、もう一つお願いをしていいか?」
「なにっ、これで最後にしてよね」
「ありがとう。今度はこっちのガラス瓶の中に〈
俺が指し示したガラス瓶はさきほどろうそくの火を入れていたほうのだ。
さっきろうそくを入れるときに蓋を一瞬だけあけたが、それ以降は閉めたままなので、このガラス瓶の中は燃焼に必要な空気がないはずだ。
「〈
なんら問題なくガラス瓶の中に〈
は? どういうことだ。
俺は身が震える思いをした。
今度は〈
やはり、ボシュッ、と火は消えた。
今度はさっき、プロセルに〈
このガラス瓶には、まだ一度もろうそくの火は入れていない。
今度は問題なく火は輝き続けた。
これから導き出されること。
火に空気が必要。
だが、〈
つまり、魔術で作られた火と現実の火は全くの別物ということだ。
衝撃的な事実に俺はあっけにとられていた。
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