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世界最強の大魔王、貴族の落ちこぼれに転生する~無能・生き恥・面汚しと蔑まれ、実家を追い出されたけど、二千年前の力が覚醒して無双する~ 作者:月島 秀一
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第2話:追放と覚醒【二】


 西の街ウェストハウンドに到着した俺とキャルルは、パッと目に付いた格安の宿を取り、今日のところはゆっくりと休むことにした。

 そこは三畳一間というちょっと狭い部屋だったけれど、一人と一匹で寝るには十分だ。


 俺たちは(わら)のベッドで一緒に横になり、すぐに夢の中。

 キャルルの温かい体と柔らかい毛ともふもふの尻尾がとても気持ちよくて、なんだかいつもよりぐっすりと眠れた気がする。


 翌日、午前九時。

 宿を出た俺とキャルルは、揃って大きな伸びをする。


「んー……っ。さて、今日は乗り合いの格安馬車で、もっと遠くの街へ行こう。キャルル、馬車の中では大人しくしていてくれよ?」


「きゃる!」


 キャルルはとても賢い。

 人間の言葉を完璧に理解しているんじゃないかとさえ思うほどだ。


 ちなみに……魔獣は使役されているものも多く、街中で彼女と並んで歩いていても全く目立たない。


「馬車の出発時刻は十時だから、まだ後一時間もあるな……」


 その間、どうやって時間を潰そうか。


 俺がこれからの予定を考えていると――近くの広場から、大きな歓声が湧きあがった。


「つっえー! これで三十人抜きか!?」


「やっぱ俺たちとは、『格』ってもんが違うな!」


「さすがは勇者の末裔――『ウォーカー家』の名誉騎士だ!」


 ウォーカー家……?

 その名に引き寄せられた俺は、人混みの間からひょっこりと顔を出し、広場の様子を覗き見た。


 するとそこには、ウォーカー家の三男――レオ兄さんがいた。


 レオニクス=ウォーカー。


 勇者の特徴とされる金髪のミドルヘアをたなびかせる美男子。

 身長は百七十五センチ。年齢は十七歳。

 大きな目・長い睫毛(まつげ)・柔和な口元――目鼻立ちの整った顔立ちをしており、女の人にとてもよくもてる。


 ほとんど全くトレーニングをしていないのにもかかわらず、線の細いその体には立派な筋肉が付いており、自分のことを『天才』と称して(はばか)らない。


 レオ兄さんは、喧嘩っ早く、すぐ頭に血が上り、後先を考えずに行動する性質(たち)で……小さい頃から、ずっと俺のことをいじめてきた嫌な人だ。


「――さぁさぁ、他にもう挑戦者はいねぇのか? 伝説の勇者の血を引くウォーカー家が三男、レオニクス=ウォーカー様に勝てば、なんと賞金十万ゴルドだ!」


 レオ兄さんはパンパンと手を打ち鳴らしながら、よく通る大きな声を張り上げた。

 彼のすぐ傍には立て看板があり、そこには「力試し! 挑戦料千ゴルド! レオニクス様に勝てば、なんと賞金十万ゴルド!」と書かれている。


 どうやら自分の力を誇示しながら、ちょっとしたお金稼ぎをしているらしい。


(レオ兄さんは、意地の悪い性格だ……。彼に見つかったら、きっと面倒なことになってしまう)


 そう判断した俺は、こっそりと人混みに紛れ、広場を後にしようとした。


 しかし、


「――おい、そこのお前! もしかして、ルーグじゃないか?」


 最悪なことに、見つかってしまった。


「おーやっぱりそうだ! ルーグじゃねぇか! おいおい、どうしたどうした。なんでこんなところにいるんだ? 母上から『あまり外を出歩くな』と言い付けられているだろう? まさか……とうとう家を追い出されたのか?」


 図星を突かれた俺は、押し黙るしかなかった。


「その反応……マジか? マジの話なのか!? あっはっはっはっはっ! そうかそうか、ようやく追い出されたか! こいつは、めでてぇや!」


 いったい何がそんなに面白いのか、レオ兄さんは手を叩いて大笑いした。


「あっ! そういや、ルーグ……お前、今日が十五の誕生日だったよな? せっかくだから聞いといてやるよ。無能の生き恥、ウォーカー家の面汚しであるお前さんは、いったいどんな雑魚ギフトを授かったんだ? えぇ?」


「……言いたくない、です」


 こんな大衆の面前で、恥を晒すような真似はしたくなかった。


「ちっ、相変わらずノリの悪いやつだな……。いいから言えって言ってんだろうが! あんまり調子に乗ってっと、この場でボロ雑巾にしちまうぞ?」


 俺が拒否したことで、レオ兄さんの機嫌が一気に悪くなった。


 この人は、いつもこうだ。

 ちょっとでも自分の言う通りにならないと、すぐに癇癪(かんしゃく)を起こして当たり散らす。


 ただ……自分より強い人には、父さんたちには決して逆らわない。


 ずる賢いというかなんというか、とにかく世渡りの上手な人なのだ。


(それでもレオ兄さんは強い……)


 俺なんかじゃとても歯が立たない。

 ここは大人しく、言う通りにするしかなかった。


「……なんにも(さず)かりませんでした」


 俺は悔しさを噛み締めながら、正直にそう告白した。


「あ、なんだって? 聞こえねぇから、もっと大きな声で言えよ!」


「……だから、なんのギフトもいただけませんでした……っ」


 俺が大きな声ではっきりそう叫ぶと、


「……ぷっ、ぎゃっはっはっはっはっ!」


 レオ兄さんは大袈裟に手を打ち鳴らし、お腹を抱えて笑い出した。


「こ、こいつは傑作だ! なぁおい、みんな聞いてくれよ! この無能は――ウォーカー家の末っ子ルーグ=ウォーカーは、由緒正しき勇者の血を引きながら、なんのギフトももらえなかったんだってさぁ!」


 意地悪な彼は、大袈裟な身振り手振りで聴衆を煽り出す。


「勇者の末裔(まつえい)が、なんのギフトも授からなかったって……おいおい、そりゃマジの話か?」


「まったく情けねぇ男だな……。きっとこれまで、なんの努力もしてこなかったに違いねぇ。神様はよぅく見ているもんだ」


「はっはっはっ、こいつはとんでもねぇ『失敗作』だぜ!」


 侮蔑と嘲笑の入り混じった視線が降り注ぎ、胸がギュッと締め付けられた。


「ギャルルルル……!」


 敏感に敵意を感じ取ったキャルルが、俺に代わって威嚇(いかく)の唸り声をあげてくれたけれど……。

 ここで争ったとしても、なんのメリットもない。


「……キャルル、行こう」


「きゅ、きゅぅ……」


 彼女を抱きかかえ、逃げ出すようにこの場から離れようとすると――レオ兄さんから、「待った」の声が掛けられた。


「おいおい、ルーグぅ……? 俺の許可もなく、何を勝手な行動をしてるんだぁ?」


「……まだ何か用があるんですか?」


「ははっ、そう邪険にするんじゃねぇよ! 哀れな弟への(はなむけ)として、レオ兄ちゃんが最後に一戦揉んでやろうってんだからな!」


 彼はそう言いながら、腰に差した愛刀を軽やかに抜き放った。


「なっ!?」


 唖然(あぜん)とする俺に対し、レオ兄さんは大きな舌打ちを鳴らす。


「おら、いいからさっさと剣を抜けよ。無抵抗の相手を(なぶ)ったって、なんも盛り上がらねぇだろうが。――それともなんだ? 大事そうに連れているその犬っころを痛め付けなきゃ、お前はやる気にならねぇってのか……?」


 兄さんは凶悪な笑みを浮かべ、愛刀の切っ先をこちらに突き付けた。


「くそ……っ」


 仕方なく、腰に差した剣を引き抜いたそのとき――違和感に気付いた。


「……ん……?」


 一日ぶりに握った剣は、恐ろしく手によくなじんだ。


 なんというか、そう……手と(・・)剣の(・・)境が(・・)わからない(・・・・・)

 まるで体と剣が一体になったかのような……とても不思議な感覚だった。


 俺が小首を傾げていると、レオ兄さんは天高く右腕を掲げる。


「さぁさぁ、驚き(おのの)刮目(かつもく)せよ! これが神より授かりし、レオニクス様がギフトの力だ! ――<黄金火焔(レファルド)>ッ!」


 彼が勢いよく右腕を振り下ろせば、金色の光を纏った光炎(こうえん)が、俺に向けて解き放たれた。


黄金火焔(レファルド)>――レオ兄さんが天授の儀で獲得した、とてつもなく強力なギフトだ。

 彼はこの力で百の魔獣を打ち払い、王国政府から『火焔(かえん)の騎士』の称号を授与された。


 だけど……。


(なんだ、あれは……? もしかして、魔力を込めてないのか?)


 迫り来る黄金の炎は、マッチの火に劣るほど弱々しく見えた。


(こんなの剣を振るうまでもないな)


 俺が吐息をフッと吹き掛ければ、やはりというかなんというか、黄金の炎は一瞬にして消し飛んだ。


「ん゛なっ!?」


 レオ兄さんは目を大きく見開き、まるで餌を求める魚のように口をパクパクと開閉させる。


「きょ、今日はなんか調子が出ねぇみたいだな……っ。こりゃ向かい風の影響もあるかもしれねぇ……!」


「……向かい風……?」


 今は完全に無風状態だ。


「る、ルーグの分際で、口ごたえしてんじゃねぇよ……!」


 逆上した彼は、右手に握った愛刀を後ろに引き絞り、こちらへ突進してきた。


真影(しんえい)流・五の太刀――光影刃(こうえいじん)ッ!」


 光影刃は『閃光』の如き速度で放たれる超高速の突き……なのだが……。


「え……?」


 遅かった。


 レオ兄さんの動き、その一つ一つがまるでスローモーションのように見えた。

 両者の距離はいつまで経っても縮まらず、引き絞られた腕はいつまで経っても放たれない。

 握りは甘く、踏み込みは浅く、斬撃にいたるまでの体捌(たいさば)きもひどい。


 一言で言うならば、全てが『チグハグ』だった。


(今日のレオ兄さんは、いったいどうしてしまったんだ……?)


 これじゃ小さな子どもが、我武者羅(がむしゃら)に剣を振り回しているのと同じだ。


 俺は小さくサイドステップを踏み、光影刃(こうえいじん)を回避。

 そのついでに、隙だらけの足元を軽く払ってみた。


「う、ぉっ!?」


 レオ兄さんは前のめりになって、派手に転ぶ。

 彼の美しい前歯が欠け、鼻からタラリと血が流れ出した。


「ぷっ。ねぇ……あのレオニクスって人、なんか格好悪くない……?」


「思った。もしかして、ルーグくんって子の方が強いんじゃないの?」


「こりゃさっきの『ギフトなし』って話は、フェイクかもしれねぇな……」


「どういうこと?」


「ほら、『能ある鷹は爪を隠す』って言うだろ? 本当に強い奴は、自分の力をわざわざ見せびらかしたりしねぇもんだ」


「やっば!? うちら、あのルーグって子の手のひらで踊らされてたってこと!?」


「さすがは勇者の末裔……。あの小さな子どもは、ああ見えて相当な『策士』のようだ……」


 ざわめく聴衆に対し、レオ兄さんは抗議の声を上げる。


「――ち、違う違う違う! こいつは無能の生き恥! ウォーカー家の面汚しなんだってば! お前ら、簡単にころっと騙されてんじゃねぇよ!」


 すると――。


「……そんなに言うなら、簡単にころっと転ばされてんじゃねぇよ」


 誰かがポツリと呟き、ドッと大爆笑が巻き起こる。

 無様にスッ転んだレオ兄さんの言葉には、さっきまでの力はなかった。


「く……っ」


 彼は羞恥で顔を真っ赤に染めながら、ギッとこちらを睨みつける。


「こ、の……落ちこぼれの分際でぇ……! <黄金龍刃(レファ・イグネス)>ッ!」  


 レオ兄さんの眉根(まゆね)が危険な角度に吊り上がり、その愛刀に黄金の炎が宿った。

黄金龍刃(レファ・イグネス)>、彼はかつてこの剣を振るい、龍を焼き斬ったらしいが……。


 どうしてだろう。


 どこからどう見ても、木の棒に火が付いたようにしか見えない。


「吠え面かきやがれぇ! 真影流・七の太刀――殺影葬(さつえいそう)ッ!」


 上・中・下段の三連斬り。

 防御不能の斬撃に対して、俺は真っ正面から向かえ撃つ。


真影(しんえい)流・奥義――月下(げっか)破断(はだん)


 音速を越えた十の斬撃は、兄さんの三段斬りを軽く蹴散らし――。


「……こりゃ悪い夢だ……。が、はぁ……ッ」


 彼の全身を容赦なく斬り伏せた。


 (いにしえ)より伝わりし、真影流の秘奥――月下破断。

 ウォーカー家の長い歴史の上で、誰一人として体得できなかった奥義。

 それが何故か、まるで素振りでもするかのような気楽さで実行できた。


「は、はは……っ。なんだ、これ……?」


 いったいどういうわけか、俺は自分でも信じられないほど強くなっていた。


■とても大切なお願い■


目標の【日間総合1位】まで、後ほんの少し……っ。

なんとか今日中に達成したいっ! が、ここからの伸びが本当に難しいんです……っ。


どうかお願いします。

少しでも

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