防衛費増額要求 「聖域化」は許されない

2020年10月2日 07時30分
 菅政権でも防衛費の膨張は続くのか。七年連続で過去最大となった防衛省概算要求。違憲とされる「敵基地攻撃能力の保有」につながる装備導入も盛り込まれており、妥当性の厳しい検証が必要だ。
 防衛省の二〇二一年度予算概算要求は前年度当初比3・3%増の五兆四千八百九十八億円。新たな領域への対応や安全保障環境の変化などを要求の根拠としている。
 日本の防衛費は冷戦終結後、減少傾向が続いていたが、安倍晋三前首相が政権復帰後に編成した一三年度に増額に転じ、当初予算ベースでは二〇年度まで八年連続で増え続けている。
 概算要求は年末の予算編成で査定、減額されるのが通例だが、計画断念した地上配備型迎撃システム「イージス・アショア」の代替策や米軍再編関連経費などは「事項要求」として具体額が計上されておらず、これらが確定し、予算案に盛り込まれれば、防衛費はさらに膨れ上がる可能性がある。
 首相や内閣の交代は政策見直しの好機だ。しかし、菅義偉首相は安倍政治の継承と前進を掲げる。縮減という考え方は隅に追いやられ、前政権で続いた増額要求を漫然と続けているのではないか。
 新型コロナウイルスの感染症対策に巨額の予算が必要とされ、財政状況は厳しさを増している。前例踏襲の増額要求が、国民に歓迎され、理解を得られるだろうか。
 さらに見過ごせないのが、最新鋭ステルス戦闘機F35や、ヘリ搭載型護衛艦の事実上の航空母艦への改修、遠距離からの攻撃が可能なミサイルなど、敵基地攻撃に利用可能な防衛装備の導入が多数盛り込まれていることだ。
 ミサイル発射基地など敵の基地への攻撃は憲法が認める自衛権の範囲内とされてきたが、実際に攻撃できる装備を平素から備えることは憲法の趣旨ではない、とされてきた。現段階で「敵基地攻撃能力の保有」は憲法違反だ。
 にもかかわらず安倍前首相は敵基地攻撃にも転用できる装備導入を進め、退任直前には攻撃能力の保有検討を事実上促す談話を発表した。憲法に反する動きを見過ごすわけにはいかない。
 周辺情勢の厳しさや状況の変化に応じた防衛力整備の必要性は理解するとしても、防衛費の増減は対外的メッセージとなり得る。
 歯止めなき膨張は日本に軍事大国化の意思ありとの誤解を生みかねない。防衛力整備に、失われた「節度」を取り戻すべきだ。「聖域化」を許してはならない。

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