政令指定市を廃止し、四つの特別区に改めるという大きな試みである。人々がその内容を十分に理解して賛否を判断できるよう、行政と政党の双方が責任を果たさねばならない。
大阪の都構想について、廃止・再編の対象となる大阪市で説明会が始まった。11月1日予定の住民投票に向けて、市が法に基づき主催する取り組みだ。
ここにもコロナ禍が影を落とす。5年前の住民投票の際は説明会は39回開かれたが、今回は4日間で8回にとどまる。市は数百人が入る会場のほか、サテライト会場や自宅から視聴できるオンライン中継も実施した。それでも手薄さは否めない。
内容にも疑問がある。前回は賛成、反対双方の意見を紹介するチラシが用意された。だが今回は、都構想を推進する大阪維新の会の主張に沿った資料のみだ。松井一郎市長や吉村洋文府知事らの説明も導入のメリットだけを強調しがちで、参加者との質疑の時間も短い。
朝日新聞と朝日放送テレビの世論調査によると、都構想への賛否は42%対37%で賛成が多い一方、両首長の説明は「十分ではない」が52%で、「十分だ」の32%を大きく上回った。
説明会の運用の改善と充実が急務だ。市民との質疑の機会を増やすとともに、追加開催も検討すべきだ。
政党間の討論会もあってよい。構想に賛成の維新と公明、反対の自民、立憲民主、共産などが意見を交わすことは、投票の参考になる。テレビ番組やNPOなどが主催する勉強会での討論はあるが、各党はより主体的に動いてもらいたい。
中でも維新の責任は重い。
1950年代に政令指定市制度が導入され、道府県との主導権争いや施策の重複が問題になってきた。10年前に橋下徹大阪府知事(当時)が二重行政解消を訴えて都構想を提唱。国に働きかけてできた大都市地域特別区設置法に従って、15年に住民投票を実施したが、否決されて同氏は政界を引退した。
だが維新は知事と市長のポストを押さえつつ、旗を掲げ続けた。昨年には当時の松井知事と吉村市長が任期途中で辞職し、ポストを入れ替えて立候補する奇策に打って出て、ともに当選した。だからといって住民への説明をいい加減に済ませていい理由にはならない。
上からの改革というべき都構想によって、住民はどんなサービスを受け、どう負担を負うのか。真に大阪の発展につながるのか。説明会である参加者は「重たい選択を迫られている」と訴えた。こうした声を受け止め、市民が適切に投票できる環境を整えるのが政治の責任だ。
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