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 来年度政府予算の編成が本格化する。きのう出そろった概算要求の総額は、過去最大の105兆円超。表面上は、前年度の要求をわずかに上回るだけだが、実質的にははるかに多い。

 総額が抑えられたのは、本来は例外的にしか認められないはずの、金額を明示しない「事項要求」が、各省庁から相次いだからにほかならない。

 確かに、前年度要求では5300億円あった高齢化による社会保障予算の自然増が、コロナ禍の影響をどう受けるのか、見込みづらいだろう。数兆円にのぼる見通しの厚生労働省新型コロナ対策予算も、現時点では示せないかもしれない。

 しかし、頻発する自然災害に対応する防災・減災予算の上積みや、公立小中学校の少人数学級実現に向けた予算、菅首相が旗を振る不妊治療の助成拡充など、予算編成の焦点になる事業が軒並み事項要求に回されたのは、どうしたことか。

 各省庁は「コロナ禍の先行きがよめず、詳細な政策を詰められなかった」と説明するが、それだけではあるまい。

 金額を伏せれば、要求省庁は少額しか認められなくても、族議員や業界から責められずにすむ。財務省も、水面下の交渉で譲歩を引き出しやすい。今回は要求の上限が事実上なく、査定後の予算総額も見通せないことから、例年以上にそうした思惑が働いたのではないか。

 ただ、概算要求には、各省が政策の具体的な中身や積算根拠を示し、それを財務省が査定することで、予算編成過程を透明化する役割があることを忘れてはならない。霞が関の都合で不透明な予算づくりを進めることは、許されない。

 事項要求について、政府は経済財政諮問会議などの場で議論し、決定に至る過程を国民に明らかにする必要がある。

 財務省概算要求にあたり、各事業の要求額を基本的に今年度予算と同額とする一方で、「緊要な経費」に限って、上限無く要求できることにした。

 しかし各省の増額要求には、疑問符の付く事業が目立つ。

 国土交通省は、幹線道路建設やインフラ輸出を促進する予算の増額を求めた。文部科学省は、有人月探査計画の関連予算を今年度比で11倍以上要求した。両省は「コロナ後の経済成長に必要な『コロナ関連予算』だ」などと主張するが、こじつけとしか思えない。

 政府は財政健全化の道筋を描けぬまま、コロナ禍を迎えて新たな借金を重ねている。国民の命や暮らしを守る予算を十分に確保するには、優先順位が下がった事業は大胆に見直すしかない。政権の手腕が問われる。

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